草場歩―ものづくり産業部・生活関連産業課課長代理
今回も引き続き日本貿易振興機構(JETRO)ものづくり産業部・生活関連産業課の草場歩課長代理にお話を伺っていきます。
前回は越境ECに対する日本企業の現状と、中国側の体制についての展望をお話いただきましたが、今回は、今後日本企業が中国EC市場で戦っていくための戦略や、今後の見通しなどを伺っていきます。
ー前回、中国では従来の貿易について関税を緩和していくという、中国政府の方針について伺いました。そうなると、価格面において越境EC内だけでなく、一般貿易による商品も競争相手になるように思われます。その中で日本の企業、メーカーが選ばれるためにはどうしたらよいでしょうか?
草場歩氏(以下、草場):まずは企業名や商品を「知ってもらう」ことが何よりも重要です。これから中国へ進出しようという企業の中には「越境ECに乗せれば売れる」という誤解があるように見受けられますが、商品を知ってもらわなければ検索もされないし、消費者の目に入らないということは切に伝えています。認知度を高めるブランディングを行っていってほしいと思います。
中小企業では現有の自社商品を中国で売っていきたい、という意識のほうが高いです。そもそもの商品のラインナップが多くはないので、自社商品の既製品を売ることが念頭に置かれがちです。その場合は、今ある自社商品が中国市場においてどの程度の位置に置かれるのか、を見て欲しいと思います。競合他社商品の価格帯、販売事例、利用シーン、といった形で、商品が現地市場でどう受け入れられるかを事前にリサーチすることはとても重要です。
またブランディングおいては「商標登録」を取ることを念頭に置いていただきたいと思っています。
ー「商標」ですか?
草場:商標登録に関しては大手の企業はすでに動いているケースが多いのですが、地方の中小企業では、その取り組みが後手に回ってしまっていることも見受けられます。
例えば中国ではApple社のiPadの販売を行った際、すでに中国人が開発した同名の商品が先に商標登録をしていたため、中国の一部都市で一時的に販売できなくなった例もあります。中国で知名度を高めて市場拡大を行っていくには、何よりも先に行なうべきと思います。
JETROでは海外への出願に対しても、費用の助成やアドバイス、先行商標の有無の確認を行なっていますので、ぜひご相談いただきたいと思います。
目次
インバウンドとアウトバウンドが、ついにつながる?
ー現在日本国内で越境EC同様に盛り上がっているのはインバウンド、つまり訪日中国人観光客の誘致です。このインバウンドニーズを越境ECで活用することはできるのでしょうか?
草場:まず、インバウンドは、今まで知名度のなかった中小企業にとっては、ひとつの大きなチャンスだと言え、越境ECでの販路拡大にも大きな活用価値があると思っています。
JETROで行なった中国人消費者の日本製品等意識調査では、ECサイトで日本製品を購入した理由について「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」という理由が、2016年の22.7%に対して2017年には40.4%へと増え、第2位となりました(複数回答可のアンケート、1位は「中国にはない製品だから(44.4%)」)。※
ここから見えてくるのは、「訪日中に購入し使用」→「帰国後にECサイトで購入」といった流れに乗り、非常に大きなチャンスになる可能性があります。
【グラフ】越境ECで商品を購入する理由
出所:中国の消費者の日本製品等意識調査(日本貿易振興機構)より抜粋
ー以前から課題となっていた、インバウンドtoアウトバウンドの図式が形になってきているということですね。トレンドExpressの調査でも、インバウンドで中国人消費者は、東京などの大都市だけではなく様々な地方都市に旅行しています。それがEC市場にも良い影響を与える可能性があるということですね。
草場:はい。ただひとつ注意点もあります。
訪日旅行者にもかかわらず日本国内で外国ブランドの製品を購入した、という層がおり、その理由を訊きました。すると「日本製品の機能・効能がわかりにくい」といった理由が挙げられました。海外の消費者にとっては、日本人が当たり前に見ている機能や効果、応用方法を理解できない、ということがあるんです。
もし訪日観光客であれば、店頭で従業員から丁寧な説明を受けることで購入する可能性も上がりますが、ECサイト上の場合は、性能などが複雑であるとなかなか購入されません。日本特有の多機能性を持つ商品などは、ECサイト上で出品する際には丁寧に説明することが重要だと思います。
【グラフ】日本製品を選ばず外国製品を買った理由として、最も大きかったのは次のうちどれですか?(単一回答 )
出所:中国の消費者の日本製品等意識調査(日本貿易振興機構)より抜粋
ー日本で売れているものだからといって、そのまま持って行っても売りづらい、ということはよく聞かれる話ですね。そこのニーズをどう吸い上げてカスタマイズするのか、といったことも考えなければなりませんね。
草場:そうですね、日本企業が海外に進出し始めてから、ずっと問われ続けている課題だと思います。
これからも日本企業に新たなチャンスを
ーこれからの越境ECについての見通しを伺っていきたいと思います。今後も越境ECは日本企業にとって追い風になっていくでしょうか?
草場:すでに日本製品の海外向け販売において越境ECは「当たり前」のチャネルになりつつあります。JETROでも2017年6月に越境EC特設コーナーをWEBサイト上に開設し、情報発信を行っていますので、ここに記載されている情報をぜひご活用いただければと思います。
また、越境ECに特化したもので言えば、セミナーや中国の有名越境EC事業者とのマッチングイベントを開催しています。東京と大阪で開催した際には、それぞれ150社ほどの参加があり、非常に盛り上がりを見せています。
このマッチングイベントには様々な分野から来ていただいていますが、やはり化粧品のブランドやメーカーが多く見受けられます。中国でのニーズが非常に高い分野でもあり、中国の会社も越境ECでの日本製化粧品についてはとても熱心に取り組んでいます。実際に貿易統計においても日本から中国への化粧品輸出の伸びが反映されています。
また中国最大手ともいえる淘宝(Taobao)とのマッチングの際には、50社ほどの日本企業が参加。プラットフォームを使った10分ほどの生配信でのPRを行なって商談を取り付けるといったユニークな方法も取っていました。
淘宝に出店しているショップオーナーがそれらを見て、自分のEC店舗内でその日本企業の商品を売りたい、といった形で商談に入っていました。
企業の大小だけでなく、きちんとしたPRを行なっていれば、中国側からは見てもらえるという状況になっていると思います。

「これからも日本企業にチャンスを創っていきたい」と語る日本貿易振興機構の草場課長代理
ー中小企業だとPRにさける予算も限られるものの、越境EC業者とのマッチングなどで戦略を立てられるようになってきたということですね。
草場:そうですね。我々のような機関や、企業の出している情報や様々な資料、こういったイベントなどを活用して、これからも取り組んでいってもらいたいと思います。
ー本日はありがとうございました。