日本の小売業としていち早く中国のEC市場に進出した三越伊勢丹。ソーシャルビッグデータとそれを基にしたWEBメディアプロモーションによって2017年のW11を戦い、成果を伸ばし続けています。最終回はそんな三越伊勢丹の振り返りと今後についてもお話を伺います。
株式会社三越伊勢丹
百貨店事業本部EC事業部
EC推進(越境MD)バイヤー
合田郷史
海外事業本部
海外営業統括部MD担当
バイヤー
吉田正輝
インタビュアー:濱野智成 株式会社トレンドExpress代表取締役社長
■行った施策
- W11向けのトレンドPR×KOL施策。
- 事前分析によるプロモーションインサイトの発掘と15メディア×3回の配信。
- KOLもビッグデータ分析に基づき選定し、コンテンツを開発。新浪微博にて計4名によるコンテンツを配信。
■結果
- 訪問客数は施策前と比較して300%以上に成長し、大幅な売上アップ
- 天猫旗艦店のファン数も400%以上増加し、顧客資産を形成して継続的な売上アップ
※トレンドExpress調べ
▼これまでの記事は
【中国プロモレポート】 日本小売の挑戦 ビッグデータでW11を切り開く(1) ―株式会社三越伊勢丹
【中国プロモレポート】 日本小売の挑戦 ビッグデータでW11を切り開く(2) ―株式会社三越伊勢丹
目次
初めてのW11の成果からその次へ
ーさて、前回ソーシャルビッグデータを活用したプロモーションで2017年のW11を戦われましたが、今、それを振り返られてどのように感じられていますでしょうか?
吉田:今回のW11は「三越伊勢丹がT-Mallに出店している」ということを、中国の消費者に広く認知してもらったという点で、一定の成果を上げたと考えています。確かに「こういう施策でこういう効果が伸びた」といった費用対効果は完全には計測しきれない部分もあります。
しかし、私たちもこれだけ計画的に予算を投じてのPRというのも初めてでしたし、またW11も初めての経験でした。そうした状況を考えれば一定の成果は上げられたものと考えます。
同時に、大事なのは次のW11。2017年のW11の手法を生かして、悪い部分は反省しつつ、次はどこまで伸ばすかといったプランを立てることだと思っています。
そのためには品揃えを強化しなければいけないかもしれませんし、ひょっとしたら費用をかけて今回やらなかった施策をやるかもしれません。手法の波及効果を高めるための仕掛けの深堀り(例えば超有名人を使ったPRなど)をしていくことが大事なのかなと。
確かに私たちには年次の計画はありますが、中国のECマーケットは底なし。取れるだけ取っていきたいですし、一気にファンを増やしたいという思いはあります。
ー次の戦略が大事、ということですね。その成長意欲が御社の原動力になっていますね。さて、認知拡大が効果的な売り上げ拡大の重要な要素でありながら、投資できている企業は少ないのが現状です。今回のそのご経験から、中国ではやはり知名度向上が重要だと感じられますか?
合田:中国では、オンラインの情報は豊富ですが、ブランドや商品を実際に見て、触って得られる機会が日本に比べて限られていると感じます。そうしたお客様にいかに商品、ブランドの良さを伝えるかが苦労する点です。そしてそれをEC上でどう表現するか、私たちの力が試されるのだと考えています。
日本の商品、三越伊勢丹の商品=良いものであるという前提はあります。しかし、商品を知って買ってもらうまでの部分、すなわち中国消費者が新しい視点で、まだブランドが浸透しきっていない状況で買ってもらうということの難しさは感じますね。
また、日本には魅力的な商品がまだ数多くありながら、それらをタイムリーに提供できないというジレンマも抱えています。中国にはいろいろな規制があり、越境ECに関しても扱える・扱えないといった決まりがあるので、致し方ないことですが、今後少しでも改善していく努力をしていければと思います。

「商品、ブランドの良さをEC上でどう表現するか、私たちの力が試される」とこれからの意気込みを語る合田氏。
広大な中国市場、見据えるのは…?
ーなるほど。いろいろ難しい点はありますが、三越伊勢丹さんとしての目利きが、そのよい評価につながっていると思っています。ぜひそれを日本の企業さんに広げていっていただければと思います。最後に、中国ビジネス、中国マーケティングの難しさについてはいかがでしょうか?
吉田:一言でいえば「広い」ということでしょうか。国土も客層もすごく広いということですね。エリアによって趣味趣向が違い、情報の取り方や文化経済も違う。的が広すぎるんですね。なので、どこにペルソナを設定するかが一番大事なのだと思います。それがお話に出た品揃えにつながります。
例えばT-Mallのコスメ売り場での私たちが販売している商品と同じようなアイテムが30元以下の低価格で、しかもW11シーズンに何十万SKUも売れているという現象が見えます。しかし、「では自分たちもそう売るのか?狙うべきか?」といえば、「狙うべきではない」となります。こうした、どこまで自分たちで許容するのか、顧客設定の明確化が難しいですね。
とはいえ、お客様にとっての魅力は品ぞろえ。どういったターゲットを設定して、どういう風に、誰に売るのか…マーケティングにおいては、まだまだ不十分だと感じています。中国に4拠点ありますが、オンライン・オフラインに関わらず同じことが言えると思います。
ーでは今後の取り組み、目標について伺えれば幸いです。
合田:越境ECに関して、取り組み始めてもう1年半です。次のW11、すなわち中国最大の商戦に向けてベースを上げていき、成果をいかに最大化するか。それが年間のビジネスの中で最も重要だと感じています。
また、PRについても、ビジネスについても掴めてきましたので、今後も有効な施策を打っていくこと。そして何をおいても品揃えです。他社にない品揃えは何か?三越伊勢丹の強みは?といった点をしっかりとらえながら、お客さんに喜んでもらう品揃えをどう実現していくかが大事だと考えます。
また最近はやはりインバウンドが好調なので、インバウンドで得られた購買データの活用もしていくべきと考え、インバウンドチームと連携していきます。
中国のお客様の「どういった事を期待されているのか」といった潜在ニーズも活用し、新しい品ぞろえに生かしていき、W11の成果に結びつける。それが今年の最重要課題になっています。
吉田:越境ECを展開して中国での売り方や中国消費者のインサイト、PR手法などがわかってきましたが、それをECだけで済ますのはもったいないと思っています。ハードルは高いのですが、日本の店舗を生かして、オン・オフライン連動をすること。もしくは中国の拠点を使ってO2Oのマーケティングイベントを展開するといった、小売りとして大事なオフラインに、オンラインで得た手法やノウハウを生かしていくことが、全体としてブランディング、売り上げを上げるきっかけになるのではないかと思っています。
私は海外事業部という立場なので、中国ECを通じて次の新規ビジネスへ発展していけることを考える必要がありますので。

「越境ECを展開して中国での売り方や中国消費者のインサイト、PR手法などがわかってきた」と今後を語る吉田氏
合田:お店を作ったり、事業をはじめるというのは、中国が一番ハードルが高いと思います。その中で蓄積されてきたノウハウを活用して、より広い可能性に広げていければと考えています。
ーありがとうございました!