近年、中国市場もターニングポイントを迎えている印象がある。その一要因として挙げられるのがローカルブランドの台頭と、国内ブランドを選ぶようになった中国消費者である。
特に近年「中国っぽさ」が若者を中心に熱くなっている。
今回は中国で巻き起こっている、中国デザインブームを見ながら、中国地方市場について考えてみよう。
目次
「国貨」と「国潮」。二つの「国」ブームとは
2018年ごろから巻き起こっているのが「国貨」ブームだ。これは、いわゆる「国産ブランド」、中国独自ブランドのこと。
代表的な例を挙げればスポーツブランドの「李寧(Lining)」。
同ブランドは「中国のナイキ」とも呼べるような、国民的ブランドである。
ひと昔前まではまるで学校指定のジャージとも思えるような目立たないデザインのブランド得あったが、近年は海外のデザイナーを招いて、日本や欧米に引けを取らない、スタイリッシュデザインの商品を打ち出している。
さらには2018年にはニューヨークファッションウィークに登場するなど、海外でも徐々に評価が高まっているブランドである。
この「李寧」に代表されるような、海外ブランドの並んでも遜色のないデザインや機能を備えた中国ブランドを総じて「国貨」と呼ぶのである。
そして2018年から2019年にかけて本格化したのが「国潮」。
これは、国貨とは異なり「中国らしい意匠、デザイン」をあしらった商品、そしてそうした商品を使ったマーケティング、そうした商品のファンによる購入などを指す。
「中華伝統デザイン」だけではなく、だれもが知る「中国老舗商品のデザイン」も含んでいるという点だ。
前者でいえば、中国の象徴ともいうべき「故宮」とコラボレーションした口紅。
中国のローカル化粧品ブランド「潤百顔」が打ち出した口紅で、日本人から見ても、西洋風のスタイルとは別の、優雅さを醸し出しているパッケージデザインとして注目された。
また後者、すなわち「中国老舗ブランド」を取り入れたデザインの代表格が、日用品ブランドの「美加浄(maxma)」と上海の国民的お菓子ブランド「大白兎」のコラボリップクリームだろう。
「大白兎」といえば、日本のミルキーにも似たミルクキャンディーで、特に上海の消費者であれば子供のころに必ず食べた経験のある商品。
化粧品ブランド「美加浄(maxma)」のリップクリームはその味を再現、かつ唇を乾燥から守るという商品を打ち出したのであった。

上海の国際空港でも売られている「老舗定番お菓子」である大白兎。

その大白兎がリップクリームになった、という中国消費者にしかわからない意外性がネットで話題に
この商品は「珍しさ」、「面白さ」、そして「なつかしさ」
ちなみに「大白兎」ブランドはリップクリームのみならずハンドクリーム、香水、果てはタピオカミルクティまで、幅広い商品とコラボレーション。そのたびにメディアやSNS上をにぎわせた。
こうした「中国らしさ」を前面に押し出した国潮商品は広く注目が高まり、中国ECの最大手「T-Mall」も618などの商戦期に「国潮来了(国潮が来た!)」キャンペーンを展開し、高い売り上げを挙げている。

T-Mallの国潮キャンペーンも人気に拍車をかけた
結果、中国の大手ECプラットホームでは2019年1月から7月における「国潮」キーワード検索件数が前年度期比で4倍にまで膨れ上がったという報道もあるほどになった。
現在も多くのブランドが「国潮」デザイン商品を打ち出しているが、その多くのが化粧品(メイクアップ、スキンケア)、アパレル、シューズに集中している。
【グラフ】中国の「国潮」商品分類比率
出所:「用吉祥再一次定义新国潮(2020年1月22日付中国经济新闻网)」の記事を基にグラフ化
これは盛り上がる国潮ブームの中心となっているのが、いわゆる「90後」世代であるからに他ならない。
国産ブランド、中華デザインを好む90后の心の中
中国の報道によると、こうした「国潮」ブームの最大のユーザーが「95後」であるといわれ、メディアではECプラットホームの統計として、国潮商品の25.8%が同世代によるものであり、多世代を圧倒しているといわれている。
もともと95後を含めた1990年代に生まれた世代は海外のものへの興味が非常に強く、日本でのインバウンド主力消費層の一角を占めている。
そんな彼らの何がその興味を国内ブランドや中華デザインに向けるのだろうか?
日本、中国を問わずこの問題と「愛国心」をつないだ分析を行うケースが見られる。
確かにこの世代は、前の世代とは異なり中国が発展した状況「しか」知らない世代であり、中国という国に自信、プライドを持つ傾向が強い。
しかし、若者たちと話をしていると、必ずしもそればかりとは言えない様子が見える。
もう一つは、こうした若者世代の中で国貨や国潮ファンの多くが「小鎮青年」、すなわち三線以下の若者が多数を占めているという点である。
現在注目されている三線以下の地方都市市場では、まず外資系の進出が遅れていた。日本を含めた外資系ブランドの多くは北京、上海の一線都市を集中して攻略、ブランドの投入もこうした大都市を中心に行われていた。
地方都市の所得と外資系ブランドの商品価格を比較した場合、正しい戦略であったが、地方都市市場を中国地元ブランドに与えてしまっていたのである。
やがて地方市場でも経済が発展し、所得が向上し、外資ブランドを購入する余裕が生まれた時、そこで生まれ育った若者にとって馴染みがあるのは、中国国産ブランドであった。
しかも、その国産ブランドは中国市場における外資ブランドを見ながらそれらと戦うデザイン力、開発力を身に着けている状態であった。
また消費者である地方都市の若者はインターネット、SNSを通じて海外の洗練された商品を見ているなかで、より新しく、ハイセンスなものを身に着けることで他社との違いを、SNSなどを通じて表現しようという欲求が育まれてきた。
力をつけた地元ブランド、そして新しいもの求める若者消費者、そしてそれらを「母国・中国に対する自信」を現す中華デザインが」結び付けて生まれたのが「国潮」という新たな潮流だったように感じられる。
低価格でデザイン力に優れたローカルブランドは、見た目、価格の面で地方の若者のニーズにマッチし、それを表現するためにSNS上にアップ、より広がりを見せているのである。
多くの日本企業はようやく中国の地方市場に目を向け始めたばかり。しかしそこには、自国コンテンツを使った商品で若者の心をがっちりとつかんだ中国ブランドが存在している。
その攻略にはよほどの覚悟が必要だろう。