中国政府の公式数値を見る限り、少しずつ収束への希望が顔をのぞかせた中国のコロナウイルス。しかしながら、元通りの暮らしとなるにはもう少し時間がかかりそうだ。
外出を控え、自宅で過ごす時間が増えた中国の消費者たち。大きく変わった中国の生活の中、ビジネスもそれに合わせて変革を続けている。
今回は中国の報道から、この期間中の消費者向けサービスの状況を見てみよう。
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ひたすら「寝る」動画になんと1000万人以上が
この普段とは異なる春節中、あるライブが中国の注目を集めた。そのライブの内容は、ただ男性が「寝るだけ」というもの。
2回に配信されたこのライブ動画、1日目は54万人が、2日目に至っては12時間合計で1800万人以上が視聴するという驚異の数字をたたき出している。
この動画を配信したのは「圓三」という95後世代の男性。
お世辞にもイケメンとはいいがたいのだが、家の仕事を手伝いながら、ある会社でマイクロムービーの撮影をし、1度はKOLになろうとしMCNと契約をしたものの、1か月で解雇となった。
そんな彼が一躍有名になった「寝る」動画を配信したのは2月9日。その理由は「自分がイビキをかくのか知りたかった」から。ライブ配信をし、ネットのフォロワーにどうだったのかを聞こうとする、非常に他愛のない理由だった。
しかし起きてみれば、なんと54万人。268万もの「賛(いいね)」を得ていた。翌日は12時間に渡って寝る姿をライブ配信。前述の1800万人もの閲覧を集めてしまった。
さらにもともと4万人弱しかいなかった圓三の抖音、こちらも87万人にまで増加。一気にスターダムに駆け上がった圓三だったが、これが「正常ではない」ことを知っていた彼は「もう寝るライブはしない」と宣言。周囲からの仕事の依頼も断っているという。
この「正常でない」のは、今年2月はまさに異常事態。中国全土の消費者が遊びにも、会食にも行けず、家で「ヒマを持て余していたから」。
既存の映画やアニメ、ショートビデオ見飽きた消費者が、時間の使い道に困ったときに変わった動画を見つけたための人気にすぎない。
長い休みにとにかく時間をつぶすもの、気分転換を求め続けていた中国消費者の苦悩を感じさせる。
「ちょっとあなた、〇〇じゃない?」。親からの突っ込みに?
ただでさえ美味しいものを食べ続けて「体重が増える時期」といわれている春節シーズン、それが一気に期間が延び、さらに外出もままならないとなれば、自然に食べたものの吸収率も高くなる。
簡単に言えば体重が増えるのである。ある日、朝起きると母親がこちらを見ながら「あなた、太ったんじゃない…?」
そこで一気に伸びたのが「オンライン・フィットネス」。
中国は健康志向の高まりからホワイトカラー向けのフィットネスジムが増えていた。しかし、このコロナウイルスの影響で、人が集まるような場所も運営できない状況に。
また消費者側も、増えた体重を減らしに行きたいが行きたい。
そんな双方の悩みを解決したのが普及中の動画アプリであった。
中国の大手フィットネスジムであるTERA WELLNESSやWILL’S、SUPER MONKEYなどは抖音、虎牙などのショートビデオアプリの公式アカウントでオンラインでのフィットネスレクチャーを提供している。
またオンラインフィットネスを提供しているKeepでは傘下の「毎日瑜伽」、「Justin&Julie」などのブランドではヨガやフィットネススクールの内容を抖音で発信。
Keepの発表では2月5日までにすべてのフィットネスカリキュラムの合計視聴者が5650万人に達した。ちなみにこうした視聴にかかる費用は平均29元程度とのこと。
中国ではこの「外出自粛期間」中、あらゆるサービスをオンライン、APPの活用によって補う動きが活性化している。
毎日変わらない生活を余儀なくされている消費者へのサービスを提供するとともに、新たなサービス展開を模索する。逆光の中でも「次」を見て動くたくましさが垣間見える。
「そろそろ切らないと……」をターゲットにしたプロモが
外出できずにいると困るも一つの悩みが「髪」だ。
ヘアスタイルは外出せず、人に会うこともまばらなため我慢もできるが、伸びすぎた髪をどうするのか?という問題は切実である。
そこで伸びたのが「髪の切り方」動画、そして自宅で髪を切ることのできる道具の売り上げである。
「B站」の愛称で知られる動画サイトBilibili動画では「理髪」というキーワードの動画が急に視聴数をあげている。
出所:月销8.9万!数十万人在线学理发,美发工具成最大赢家?
またWeibo上では「もしヘアサロンが開かなければ、全国の男性がみんな“流星花園”(神尾葉子の漫画『花より男子』を原作にしたドラマ)になってしまう」という投稿が8万転載されている。
このドラマは2001年から台湾で放送されており、主役を務めるアイドルグループF4の男性4人がみんな長髪であったことに例えたものだ。
こうした状況に躍起づいたのは、家庭用理髪機、要は電動バリカンを扱う家電メーカー。アリババグループのデータ会社「騰魚」は、不完全な統計としながらも、2月の理髪機広告が50商品以上に達したと明かしているほど、自宅に閉じ込められた若者、特に男子に向けたプロモーションに力を注いでいる模様だ。
多くのケース、抖音やbilibiliなどの人気の動画アプリと提携してのサービス展開を積極的に行っている模様。ここに今後中国向けの情報発信のツボも見えてくる気がする。