新型コロナウイルス終息の暁には中国の消費は一気に回復する―。
そんな予想が一部から聞かれ始めてきている。
確かに中国の公式発表では新規患者数が減少し、快癒患者数が増加している。また同時にSNS上では「〇〇(地名)人は復讐する!」といったタイトルで、このウイルスが過ぎ去った後の「報復的消費」、「報復的美容」、「報復的旅行」といった願望が書き連ねられている。
今回はそんな徐々に拡幅を見せつつある中国の消費動向を、中国のメディア報道を頼りに見ていこう。
目次
中国消費能力回復の兆し?JD.comのコスメセール
中国消費力の回復は、2月末に見えつつあった。
JD.comが2月28日行ったコスメ・スーパーセールである。
3月に入り同社ではこのキャンペーンにおける売り上げは「昨年比1.5倍だった」と報じ、なかでもアイメイク商品の伸びが大きかった様子が見える。
発表されたデータによると、アイシャドウの2月日平均売り上げは前月比44%増、アイブロウは同じく124%増。さらにアイクリームは昨年比148%増、目元マスクは昨年比77%増となった。
注目すべきはアイクリーム/目元エッセンスは70後男性による消費が多かった。
この消費の背景には、やはり新型コロナウイルスの影響を考えることができる。
この期間中、中国の消費者は外出できたとしてもマスク着用。外に見える部分では目元しかない。
そのため唯一「メイクが必要な部分」が目、という事になる。
もともと中国風メイク(昨今日本でも注目されているチャイボーグメイク)では、目元を強調する傾向があり、アイメイクの売れ行きも良いが、このウイルス対策でその消費に拍車がかかったのかもしれない。
また、スーパーセール当日フェイススキンケア商品は昨年比72%増。
季節の変わり目であることに加え、同様に長時間マスクをしていることによる皮膚へのダメージを考えたもので、スキンケア商材が大きく伸びる背景となった。
ロレアル傘下の「LA ROCHE-POSAY」のニキビ防止セット売上も日平均23倍、敏感肌化粧品の「VICHY」ではエッセンシャル商品は日平均の40倍といった数値を示している。
さらには落ちにくいファンデーション、ルースパウダーの売り上げも大きく増加。期間中にJD.comで売り上げたファンデーション、報道によると「積み上げるとドバイタワー3.5個分になる」…と、いささかわかりにくい表現ながら、相当売り上げを伸ばしたことが伝えられている。
韓国ブランドLaneigeのベースクリームは昨年比400%増、京東国際のベースクリーム/乳液の売り上げは昨年比で548%となった。
【主要ブランドの結果】
- OLAY:セール開始19分で100万元を突破、当日の売り上げは2月の二飛平均の11.7倍となった。
- Elizabeth Arden:1日で常時16日分の売り上げを超え、昨年のダブルイレブン越え。
- Avene:売り上げ先月同期比658%増
- L’OCCITANE:ハンドクリームは7秒ごとに1個の売り上げ
- One leaf:1日で50万枚のフェイスマスクを販売。
- Sulwhasoo:売上昨年同期比81倍
- CLARINS:売り上げ昨年同期比684%増。
- Clio:売り上げ:売り上げ昨年同期比942%増
※そのほか京東国際のコスメ自社運営店の売り上げも昨年比599%増となった。
出所:京东美妆超品日成交额达去年同期1.5倍 眼影环比增长44%
低迷するリアル店舗に再打撃を与えた新型コロナウイルス
JD.comコスメのスーパーセールの状況は、中国消費力の復調を占めているように感じられる。
しかし、問題はリアル店舗である。
中国の小売業を専門に研究している聯商零售研究中心の調べでは1月25日以降、全国数千の百貨店・ショッピングモールが休業状態となっており、店内の食料品を売るスーパー以外は営業回復時期が未定状態だ。
2003年5月、SARSが猛威を振るっていたころ、北京の大型百貨店は30%以上の売り上げ下落を招いたが、今回は春節商戦シーズンと重なったことで、より大きな影響が予想されている。
さらにそのころと異なるのは、こうしたリアル店舗がすでにECの波に押され、売り上げが伸び悩んでいる状態。
2019年Q1における一定規模以上の百貨店の売り上げ増加率は和図は0.9%、通年でも1.4%の伸びしか得ていなかった。
そうした百貨店にとって今回の新型コロナウイルスは、まさに「死の伝染病」になりつつある。
百貨店の店員が「ライバー」に。リアル店舗の活路となるか。
そうした中、いち早く動いたのが浙江省に本拠地を置く百貨店グループ「銀泰」である。現在一部の店舗は時間を短縮した形での運営を始めているが、中国のEC専門メディア「億邦動力」では同店の異なる試みを報じている。
それは店員の「ライバー」化である。
同グループの店舗内には人影がまばらながら、店頭に立つBAたちは担当店舗のテナントに設営された携帯スタンドと丸型の前でライブを行っている。
新たな試みとして、同グループでは店員にTaobao Liveのアカウントを開設させ、すでに2000人が登録、1000回以上のライブ配信を行っているという。
試験的に始めた最初のライブも、配信時間1万分を超え、10万人もの視聴者を獲得していると同グループは発表している。
中国でも人気の化粧品ブランド「Lancom」を担当しているBAは3時間のライブで視聴したユーザーの数は、通常店頭を訪れる来店客6か月分にまで達するという
リアル店舗のBAからライブ配信、そしてKOLという流れでいえば、すでにカリスマとなった「李佳琦」を思い浮かべる。
もともと店頭に立って来店客に商品を説明するのは、売り場店員の最も得意とするところで、その能力を昨年以降、より力を増しているライブコマースへと向けたわけである。
SARSは中国で消費モデルをリアル店舗からECへと変えていった。それに対して今回の新型コロナウイルスは、リアル店舗とライブコマースの融合を促進させることになるやもしれない。
この流れが終息後にどのような展開を見せるのか、継続して追いかけたい。