3月に入って、公開されている数値を見る限り、落ち着きを見せてきた中国の新型コロナウイルスの状況。
そのなかでやってきたのが3月8日の国際婦人デー。中国では「3・8婦人節」と呼ばれ、女性の権利・権益を守る日として平日である場合は女性は半日のお休みとなったり、公的なイベントが行われる。
しかし近年はもっぱら第1四半期における「EC商戦」日。「女王節」や「胡蝶節」と呼ばれ、女性をターゲットにした商戦が展開される日となっている。
さらに今年は新型コロナウイルスの影響がどこまで消費に影響するかの判断材料としても注目が集まった。
そんな2020年の婦人節キャンペーンを見てみよう。
目次
鬱屈した気分をEC商戦で。女王節の成果発表
今年の「女王節」は2月25日から3月8日(日)までの期間。
T-Mallは「これまでで最大規模」といわれる大規模なキャンペーンを展開。「消費補填」という名での値下げは総額で10億元という触れ込み、また参加企業も昨年の2倍、商品も60%増であったと発表されている。
今回は特殊環境の中ではあるがゆえに、T-Mall側の注力度合いも昨年よりも強く、また多くのブランドもこのキャンペーンで春節を含めた2020年第1四半期の収益を一部なりとも取り戻そうという動きが見える。
さて、その結果であるが、T-Mall側は自社のWeiboアカウントおよびメディアリリースを通じて「全体の売上は2019年越え。2万を超えるブランドで売上額が昨年の100%以上の増加」と報じている。
また自身は上海出身でありながら配偶者の春節里帰りに連れ添って湖北省を訪れ、そのまま上海に帰郷できなくなっている30代女性は「Tabaoで山ほど買った。食べるもの、着るもの、使うもの。(「それはいわゆる反動的消費?」の質問に)。ずっと家の中でつまんないし、見るもの全部ほしくなった」と語り、続く外出規制のストレスが今回の商戦へと向いている様子を見せた。
この数字やコメントを見る限り、今回の「女王節」キャンペーンでは大きな盛り上がりを見せた、といえるだろう。
ライブコマースが一層の浸透。起死回生ブランドも
今回の「女王節」では、「Taobao Live」による売り上げ貢献は昨年を大きく上回った。このライブから生まれた売り上げは2019年比で264%の伸びを見せた。
昨年の618以降、ライブコマースの成長は目を見張るものがあり、ダブルイレブンでは商戦期の大型ライブイベントが定着したが、今年は長く続く外出規制という環境の中、ライブの持つ機能をより強く発揮できた様子が見える。
国内のシューズメーカーである「紅蜻蛉」はこの「女王節」期間中に100ものライブチャンネルを開設、ライブ本数も400回を数えた。
その結果、43.53万人が閲覧し、獲得した「いいね」は300万以上を獲得しているが、なかでも同社トップによるライブでは効果が高く、総裁のライブでは旗艦店売上114%増と伝えている。
同社によると、新型コロナウイルス対策の外出規制によって、その日平均の売り上げも大きく影響を受けたが、この女王節のライブによって、数百万元の売上を得ていたという。
またアメリカのシューズブランド「SKECHERS」もこの女王節期間中の売上が1.14億元。2019年比で58%の伸びであったことをメディアを通じて公開している。
同ブランドは女王節に向けSNS公式アカウントを含め、数多くのプロモーションを展開したが、それに加えてカリスマKOLである薇娅(viya)などを起用したライブを実施したことが、売り上げに大きく貢献したことを中国メディアも述べている。
化粧品分野も好調な成果
では、気になる化粧品はどうだったのだろうか?
まず話題となったのは、近年急成長を見せている中国のローカルブランド「完美日記(Perfect Diary)」である。
同ブランドは2019年からアニマルアイシャドウというシリーズ商品を展開している。トラやパンダなど、動物をイメージした色合いのアイシャドウで、パッケージにもその動物写真が使われているという、個性的な商品だ。
この女王節直前には、なんとカリスマKOL・李佳琦の飼い犬(白いトイプードル)バージョンも開発し、この商戦に臨んでいた。
もともとミニプログラムやライブといった、現在の中国マーケティングにおける有効なツールを多角的に活用したプロモーションを得意としていた同ブランド、この女王節でもアニマルアイシャドウ40万個を1日で販売するなど、大きな成果を上げていた。
同社だけではなくこうした化粧品業界も好調な数字が発表されており、エステーローダーのT-Mall旗艦店では商戦予約期の始まった2月27日は1億元の売上を突破、またSHU UEMURAも2月28日に新商品であるファンデーション3.5万個を販売、Elizabeth Ardenの旗艦店では1日の消費金額7300万元という、T-Mallのなかでも最高クラスの記録を見せている。
これで中国消費回復とみてよいのか?
こうした公表されているデータを見る以上、今年の女王節では新型コロナウイルスの影響は限定的であったように見える。
また、多くの中国メディアも「中国消費の回復」をうたっている。
しかし、中国の消費・小売専門媒体の記者に話を聞くと「このキャンペーンだけで消費回復と断じるのではなく、長い目で見るべき」と慎重な態度を見せた。
その記者によれば、実際に新型コロナウイルスによって消費は少なからぬダメージを受けている。現在はその回復期にあるが、この商戦で中国消費者、企業を「勇気づける」ために、ポジティブな要素を集中的に発信している様子が見えるという。
本来はこうした大きな出来事のあと、成長する商品と逆に営業を受けて減退する商品が分かれてくるもので、今回の「女王節」でもすべてのブランド、商品が伸びたわけではない。しかし、現在は中国の消費者や企業にも「回復」を印象付け、より自信を持った消費へとつなげるためにも、ポジティブ情報が不可欠。今回の「女王節」の成果の発表には、そうした社会の意図が見え隠れしているのである。
先ほどの中国メディア記者は、これから徐々に「伸びる品目」と「縮小する品目」、さらにそれが「長期的なものとなりえるか」というものが今まで以上に分かれてくると予想する。
それは新型コロナウイルス後の消費者ニーズ変化に合うか合わないか、また消費者が望む形でアプローチされているかよる。
そのため、この婦人節消費だけで判断するのではなく、「中長期的視野に立って多方面のデータから中国の消費状況を分析していく必要がある」と語る。
前出の女性はWeChatインタビューの最後に筆者にこう語ってくれた。
「前は財布の状況を考えて買っていたけど、今はもうそれもいいかなって。健康でいて、そして後悔しない人生が欲しいの」。
今回の新型コロナウイルスは中国の消費者の心を大きく変えている。そうした心の変化を知るためにも、海外企業はこれまで以上に細かく、そして長期的に中国消費者の様子を見ていく必要がある。