世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスだが、その最初の発生が確認された中国では公的には峠を越した印象がある。
その中で中国ではこの徹底した外出規制の中で拡大した新たな市場を振り返って分析し、今後への活用を考える動きが出始めている。
その対象となっているのが「宅経済」である。
中国で“再考”されているこの宅経済とはいったい何なのか? 中国の状況をもう少し整理しながら見ていこう。
目次
そもそも「宅経済」とは?
この「宅経済」という言葉、中国では10年の歴史を持っているキーワードであり、それが冒頭で「再考」という言葉を使ったゆえんである。
初出は2009年ごろ。リーマンショックによって世界的な不景気が広がる中、正職を失った当時の若者たちの一部が、日本でいえばフリーランスのような形式で、自宅でできる仕事を始めたころである。
この言葉は当時のインターネット、特に2009年8月に登場し、市場に浸透しつつあったWeiboの効果もあって社会に広まり、2010年のネット流行語にもなっている。
つまり初期は消費モデルではなく、ビジネス形態の一つとして登場した言葉だったのである。
やがてそこに、日本的な「オタク文化」が加えられていく。
2009年に誕生した動画サイト・Bilibili動画が90後の成長とともに人気を高め、そのユーザーであるサブカルチャーファンによる、おもにネット上でサービス消費(動画視聴、ゲーム)が主流であった。
さらにそこからEC、ネットスーパーなどの発展に伴い、自宅でパソコンの前に座って仕事をする、もしくはゲームや動画視聴時に食べるお菓子やカップ麺、また盒馬生鮮(フーマーフレッシュ)などの生鮮食品EC、そして「美団」、「餓了麼」などのフードデリバリーなど、ネットサービスの充実化に伴い、その範囲が広がっていった。
こうした社会変化の中で、宅経済は「自宅でビジネスをするスタイル」から「自宅に居ながらにしてできる消費」へと意味合いを若干変えてきたのである。
新型コロナ対策での宅経済
このように生まれ、存在していた「宅経済」だが、大きな規模に成長することはなかった。
その背景にあるのは、やはり発展気質の強い中国にあって外に出て働く人が主流であったこと、そうした社会に会って「宅」に籠るという行為が大学生までに限られるという事、また中国のオタクはサブカルチャー愛が強いとはいえ非常に明るく、ポジティブで外交的な性格であることから、ECなどの利用は増えつつも、「家に閉じこもって」生活するというのは、やはりごく少数派だったのである。
それが今年激変した。
新型コロナウイルス蔓延による外出規制である。
これによって中国国内全体が「巣ごもり」状態となり、自宅内での生活を余儀なくされた。そうした消費者に向けて前述のような動画などの娯楽、ショートムービー、フードデリバリー、ECなどのネットサービスが活躍したことは周知の事実。
同時に、室内で食べて寝ての生活を続けていた消費者に対してのネットを通じたフィットネス、ウイルスが終息し、外に出られた日のためのメイク術など、室内でも使える情報、サービスが軒並みオンライン化された。
もちろん、自身の体調に不安のある消費者に向けたオンライン問診もである。
さらには春節後の学校開講が先延ばしになったために、インターネットを通じたネット授業などは日本のメディアでも広く紹介された。
中国では、今年1月末から3月にかけて、商品、サービスを問わずほぼすべてのビジネスがネット化されたような印象さえ与えた。
最も代表的なサービスであるECではその規模が数値化されている。
春節期間中、JD.comでは同時期比で売り上げが370%増。なかでも米や小麦、油、肉や卵、野菜、冷凍水餃子などのいわゆる生活食材の売れ行きが好調。穀物・油・副食品では2019年から740%増、肉類でも710%、お菓子でも530%の増となっており、まさに「買物においても家から出ずに生活する」(出たくても出られない)という意味合いでの「宅経済」が急成長している様子がうかがえる。
宅経済は「趣味経済」へ? この流れが継続するポイント
細々と続いてきながら、ここにきて爆発的な成長と注目を集めている中国の「宅経済」。しかしこの流れは長続きするのか?という疑問がある。
すべての、とは言えないものの、一部は継続する流れはあると考えられる。
この勢いを継続しがたいものではフィットネスやフードデリバリーなどがある。
前述のように、中国の消費者の多くは外交的であり、アクティブ。訪日観光客の動きを見ればそれは容易に想像できる。
それゆえ、社会が正常化すれば環境のいいレストランでの消費が増え、外出できないがために自宅で使っていたフードデリバリーなどは従来通りオフィスのランチ消費が主流になるであろうことが予想される。
またフォットネスなども、主には事務に赴いての消費が主力になるだろう。
そもそもはそうした自宅内とは異なる環境で楽しむ傾向が強いものなのである。
では続くものとは何か?
注目すべき内容としては、外出帰省中に買われた商品のなかで家庭で使う調理用具が増えたことである。
SNS上では、時間つぶしの一環として普段は作らない手の込んだ料理を作る消費者が増えたのである。
それにより料理を作ることに目覚め、それを楽しもうという空気が生まれたという点である。もちろん一部の消費者は挫折していくだろうが、これまで大都市の若者では少なかった「料理を趣味とする」消費者が継続するのではないかと考えられる。
この外出規制期間は、中国にとって非常に珍しい仕事もできず、学校にも行けず、さらにパーティもできない、簡単に言えば時間を持て余す期間だった。
それは、つねにビジネス面や成績面で成長を求める中国消費者にとっては、非常にsh理に困る時間だった。結果として、これまで中国では成長しえなかった「趣味消費」を生む土壌を作りだしたのではと考えられなくはないだろうか?
これは中国社会を見てきた者にとっては非常に大きな変化だといえる。
こうした状況が長続きするためには、今回の「宅経済」によって利益を得た企業が継続的な情報発信していくかによるだろう。
同時に、この期間中に売り上げが伸びたからと言って、すぐに中国消費者への販売を考えるのも、いささか危険。
これらの情報、そして社会状況の変化による中国消費者の心の揺れをきちんと把握しておきたい。