常に新陳代謝が繰り返されている中国のマーケティング業界。もっとも「話題ページ」、「錦鯉」、「盲盒」など、常に新たな言葉が生まれ、それを中心にしたマーケティングが展開されている。
2020年が始まってから3か月、この多事多難な四半期にあって、中国のマーケッターたちのホットワードとなっている言葉が生まれている。
それが「私域流量」。
今回から、今中国マーケ業界注目のこのホットワードを紐解きつつ、いかにして中国市場開拓に活用していくかを考えていく。
初回はまず、「私域流量」という言葉の意味、そして注目された背景を見ていこう。
▼次回以降はこちら
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め! ~その効果と初期モデル~
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め!~その成功モデルを「完美日記」から見る
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め!~ミニプログラムとの甘い関係
目次
中国マーケ業界を席巻している「私域流量」とはなんなのか?
まず、この「私域流量」という言葉を理解していこう。
「流量」とは単純に訳すとTraffic。つまりはネット上を回遊している消費者、ネットユーザーといえるだろう。
この「流量」には「公域」と「私域」の別がある。
「公域」とはPublic、企業側か見た、自社アカウントのフォロワーではなく、ECサイトやWeibo、ネットメディアなどを回遊している自由な消費者である。
それに対して「私域」とはPrivate。企業から見て自社の公式アカウントのフォロワーとなったり、自社が持っているWeChatグループのメンバーになったり、また現在注目されているWeChatミニプログラムをスター登録したりした、簡単に言えば「ネット上における企業のPrivateエリアに住み着いた」消費者といえるだろう。
例えていえば「公域流量」とは、街に出て自由にウインドウショッピングを楽しんでいる消費者。その消費者が自社の店舗に訪れLINE登録をしたりメンバーズカードを作ったりしたら、それは自社にとっての「私域流量」となる。
もし中国消費者がよく使いツールで区分けをする場合、特に特定のアカウントへの会員登録をしなくても見られるオープンな環境にあるECサイト(T-Mall、JD.com、PDDなど)、またSNSでも同様に閲覧可能がWeiboや小紅書(RED)、抖音(Douyin)といったもののトラフィックは「公域流量」に類する。
しかし、特定企業やブランドのクローズな環境に入るため、公式アカウントをフォローしたり、企業やブランドが管理するコミュニティやチャットグループに参加すると「私域流量」の領域に入ってくる。
現在、その代表となっているのがWeChatである。
いずれにせよ、現在の中国マーケティング業界では、こうした「私域流量の活用」が、企業の業績向上に不可欠とされているのである。
その理由については次回、簡単に紹介することにする。
注意!正しく考えよう。
こした「私域流量を得た」というよくある勘違いの例として、中国のマーケティングメディアは、
①公式アカウントにフォロワーがたくさんついた
②WeChatグループに数多くのメンバーが
③すでに数多くのチャットグループができているから、広告を打てば誰か買うはずだ
という3つの認識を上げる。
つまり、集めたことで満足しているが、これでは「私域流量」とは呼べないというものである。公式アカウントフォロワーやチャットグループのユーザーを「私域流量」化させるために、中国のマーケティングメディアでは以下のような基準を提唱している。
①ユーザー・フォロワーが商品やサービスのボリュームゾーンであるか、明確な潜在顧客であるか
②ユーザーのアクティブ率が高く、自社のサービスや商品に一定の知識を有している
③転化能力が強い(施策が売り上げに転化しやすい)
つまり、集まったユーザーが自社にとってのターゲットと一致しており、その中で自社の商品への認知・理解が高く、その商品を買いたいと思う可能性が高いユーザーを
ただ同時に、こうしたユーザーが商品を購入するには、また別のジャーニーがあることが予想され、それらをきちんと分析したうえで、ユーザーとコミュニケーション(情報発信)をしていく必要があるといえる。
長く中国のマーケティングに携わってきた人なら理解ができるだろう。
2010年ごろ、中国のWeiboの人気が頭打ちし始め、あらたにWeChatが生まれたばかりのころ、日本では「いかにしてWeiboを活用するか」というセミナーが盛況であった。
その多くが、「とにかくWeibo作れば中国で売れるんでしょ」という安易な意識が日本企業や自治体に生まれてしまった。
また近年は「KOL」マーケティングの隆盛とともに、「とにかくKOLだけやればいいんでしょ」という風潮が生まれた。
しかし、WeiboにしろKOLにしろ、すべてはツールであってマーケティングそのものではない。発信するコンテンツこそがマーケティングの要なのである。
それと似ているように、この「私域流量」、公式アカウントやグループに登録されているユーザーは、いわばデータバンクとしての価値はあるものの、それを取得しただけではあまり意味がない。
重要なのは、こうした囲い込んだユーザーを活性化させ、ロイヤリティを高め、新たな消費を生み出していく施策、コンテンツが必要となという点だ。
「私域流量」が注目され、重要視されているといっても、何のためにそのユーザー囲い込みをしたのか、囲い込みをして何をするかまで設計して初めて、そのトラフィックは生きるのである。
次回以降はそうした「私域流量」が発展した背景、そしてそれを活用したローカル企業の実例を見ていくことにする。