中国で注目されている「私域流量」という言葉。前回はその大まかな意味を確認した。
続いて今回は、その私域流量がそもそもどういった場所で使われてきたのかを見つつ、その効果(目的)を分析。そして次回、この私域流量を活用して成長した中国のコスメブランド「完美日記(Perfect Diary)」の手法を分析しよう。
▼前回の記事は
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め! ~「私域流量」ってなに?
▼次回以降はこちら
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め!~その成功モデルを「完美日記」から見る
中国マーケ業界ホットワード「私域流量」を掴め!~ミニプログラムとの甘い関係
目次
「私域流量」はどこから始まった?
さて、中国の新型コロナウイルス情勢下に至って注目されたこの「私域流量」だが、突然登場したものではない。
実は2019年の第2四半期あたりから、徐々に特定の業種においてその活用が始まっていた。
その特定業種とは「微商」と呼ばれる人たちである。
微商とは読んで字のごとく主にWeChat(微信)上をビジネスの主戦場にする人たちのことだが、中国では中小の化粧品OEMメーカーの自社ブランドやドクターズコスメ、サプリメントの販売を行っている人たちを指すことが多い。
簡単に言えば、メーカーは各地域に代理(一次代理)を見つける。多くの場合、これは法人ではなく個人。メーカーと一次代理は各地の代理を集めたWeChatグループでつながっている。
そして一次代理は自分の人脈などから、より販売を広げられる二次代理を探し、自身でWeChatグループを作成し、管理する…。
という簡単に言えば、ネットワークビジネスに近いモデルのビジネスである。
微商のWeChatグループモデル
このモデルは、主に地方の消費者が個人のビジネスの一環として行うことが多く、それぞれのグループ内では新商品の紹介や売り方、また末端の消費者を抱える代理商のグループでは商品の使い方レクチャーや使用感などの積極的な討論が行われる。
それによって商品の消費者の販売意欲も高まり、リピート購入を誘発させていくのである。
もちろんモーメンツ投稿なども積極的に行う中で、グループオーナーは商品情報以外の個人的な投稿も発信、グループメンバーとの心理的な距離も縮める。「仲良くなれば個人的な情報、旅行や家族のことなどの雑談なども生まれ、よりグループ内のロイヤリティも高まる」(河北省の微商代理 30代女性)という。
このように微商が活用した、小規模企業がWeChatグループによって繋がり、その繋がりを強化することで売り上げを上げるモデルが「私域流量」マーケティングの原型ともいえるものである。
ソーシャルバイヤーたちも「私域流量」活用
「私域流量」を使ったマーケティング、もう一つの事例は我々の身近な存在、ソーシャルバイヤー(代購)たちである。
彼らは日本の商品を中国の消費者に販売するという役目をおっているが、そのユーザーとの会話はほとんどがWeChatである。
一部のソーシャルバイヤー、特にハンドキャリータイプのソーシャルバイヤーは、仕入れのタイミングや消費者属性によってグループを作り、そこで新しい商品の情報や使用方法、また購入時の様子などを共有する。
こうすることで、ユーザーに対して「本当に日本で買っている」という安心感を与える。
同時に個別チャットでは、個々の質問対応によってユーザーの悩みやニーズなどを聞き取り、フォローすることも忘れない。
ソーシャルバイヤーのWeChatグループモデル
さらに、こうしたWeChat上のやり取りの中で、日常生活の「雑談」、なかには日本に旅行するときの観光情報など、直接ビジネスにかかわらない内容のコミュニケーションも少なくない。
こうした会話は、ユーザーにとってのソーシャルバイヤーを単なる販売員としてではなく、身近な「ご近所さん」といった見方に換え、関係性を深めるのに役立っているのである。
新型コロナウイルスでブランドからの注目
初期の「私域流量」の活用として、微商とソーシャルバイヤーのモデルを簡単に解説した。
双方ともにWeChatのチャット機能、グループ機能、モーメンツ機能などを活用しているが、やはり重要なのはフォロワーを多く集めるだけではなく、「フォロワーとの関係性をより深め、活性化させる」ための努力が必要、という点であろう。
すでに多くの企業がWeiboやWeChatの公式アカウントを展開し、商品情報やお役立ち情報を発信しているが、受け取る消費者側からすれば、発信された情報は「企業・法人」としての内容であり、やはり「企業のPR情報」として距離を感じざるを得ない。
しかし、微商やソーシャルバイヤーは消費者と向かい合っている「人」の面を出すこと、さらにそれはWeChatという「クローズ空間内で双方向に行われる」ことで、相手を企業ではなく「個人」として認識。その距離感が縮まることで、「仲の良い友人やご近所」のような存在へと変わってくる。
簡単に言えば企業を人化することで「親近感」が生じるのである。
さて、2020年年初、中国は新型コロナウイルスによって多くの商店が臨時休業を余儀なくされた。
確かにEC化が進んでいる中国ではあるが、メーカーにとって実体店は消費者とメーカーが直接触れ合う重要なポイントであった。
さらには、湖北省や武漢市を応援する声が高まる中で商業的な広告を打ちづらい環境にもなった。
企業としては消費者との接点、アプローチ手法の大きな部分が失われたことに大きな危機感を感じていたのである。
しかし幸いなことに、多くの大手ブランドには、これまで購入してきた消費者のユーザーのデータが存在していた。
これを活性化させることで「私域流量」化し、マーケティングを継続できるのではないか。そうした思いが、多くのブランドをして「私域流量」マーケティングへの関心を高まらせるきっかけになったのである。
しかし、微商やソーシャルバイヤーは、はっきり言えば正統的な企業のビジネスモデルとはいいがたい。この手法は大手が活用する手法といえるのか?という疑問もあったが、幸いなことにある国内コスメブランドが、まさに「私域流量」の活用で大きく成長していた。
それが「完美日記(Perfect Diary)」であった。
では次回はそんな「完美日記」のマーケティングモデルを見てみよう。