新型コロナウイルスもなんのその、拡大を続けているのが中国のコスメ業界。幅広い年齢層に向けたスキンケアももちろんながら、2018年ごろからメイクアップ市場も成長を見せており、市場規模も450億元にまで成長している。
特に中国ローカルブランドの伸長も目覚ましく、2019年ダブルイレブンのメイクアップ部門売上1位も中国国内ブランドである「完美日記(Perfect Diary)」だった。
そうしたローカルブランドを中心に広がっているのが「業界を超えたタイアップマーケティング」だ。
目次
中国のブランド×IPの状況を振り返ろう
ドラマへの協賛やバラエティ番組の冠協賛など、日本ではあまり見られなくなった手法だが、中国のテレビ(ネットテレビ含む)業界では比較的広く行われている。
しかし、そうした枠を超えてこれまで企業とIPがコラボレーションを行う事に関しては限定的であった。
人気ドラマなどとのコラボとはいっても、その多くは「プロダクトプレイスメント」のように小道具として登場したり、セリフ内にブランド名を入れ込むといった手法が一般的であったのである。
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しかし、2018年ごろからドラマやアニメとタイアップした、オリジナル商品の開発、というものがコスメをはじめ数多く行われるようになった。
特にIPでもドラマ、アニメをはじめ、往年の異業種老舗ブランドと新鋭ブランドのコラボなど、幅広い。
なかでも話題をさらったのは2018年に行われたコスメブランド「潤百顔」と中国故宮博物院のデザインコラボだろう。
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中国におけるデザイン能力が向上したこともあり、「オリジナル商品」を開発するノウハウ、環境が整った、という事が背景にあるだろう。
中国ではこうしたコラボレーションはより幅を広げ、時代劇とメイクアップ商品とのコラボレーションも存在している。
時代劇とはいうものの、実際には現在中国で量産されているファンタジー・トレンディ時代劇ともいうべきジャンルのもので、史実や時代考証などの制約がなく、それでいてデザイン上は中国伝統風と銘打つことができるため、コラボレーションがしやすいのである。
なぜIPコラボが広がるのか?
さてこうしたIPコラボが進む理由について考えてみよう。
一つにはもちろん、話題作りという面があるが、中国の場合はより深刻なのである。
中国のインターネット大手「網易(ネットイース)」によると、ネットユーザーが中国における社会的事件に対してどのくらいの時間関心を示しているか、という調査を行っている。
それによると、事件発生直後から最長で3日間程度は関心が高まるが、3日を過ぎると急速に関心が衰えていくという傾向が見て取れる。
▼参考記事
在互联网,人们短暂地关注世界 (網易新聞)
これをマーケティング施策に置き換えればおのずと理解できる。一つの大きな施策を打っても、ネット上では最長で3日、それ以降は関心が衰え、他者の施策に目が行く。
しかし、ドラマやアニメ作品とのコラボであれば、少なくとも放映中、コアなファンに対しては原作が続いている間はそのコラボ施策への関心を維持することができるのである。
もう一つが消費者の変化である。特に中核となる消費者がこれまでの80後や90後世代から、より若い95後世代へと移っていることにある。
95後世代、すなわち欧米では「Z世代」などと呼ばれている消費者層に相当するが、幼い時から多くのコスメ情報に触れてきた同世代はコスメに対する興味関心が高く、また自己表現、コスメを通じて自分らしさを表現するという特徴がある。
彼らの多くは純粋なネット世代であり、多くをネットの動画サイトを利用して視聴しているのだが、その視聴においては「二次元」への関心が高いという特徴があり、動画サイトもこれまでの「優酷」、「愛奇芸」などから「B站」、すなわち「Bilibili」が多用されている。
こうしたB站で視聴されているアニメなどのIPとコラボすることは、ターゲット層である95後世代へのアプローチがしやすく、またコレクション意欲を刺激することで消費につなげやすい。
日本でアニメとコスメのコラボは比較的多くあるが、中国特有といえるのが、前述のコスメ(主にメイクアップ)と時代劇のコラボ商品である。
このBilibiで視聴するのは、もちろん日本のアニメーションが多いのだが、同時に若者に人気の中国の歴史風アニメやそれを題材にした国内ドラマであったりするのだ。
前述のとおり、こうした時代劇は実在の人物や事件、時代考証を考えたものではなく、中国の歴史風世界を舞台にしたファンタジー。出演する俳優もアイドル、スターであることが多く、ラブロマンスなどもふんだんに盛り込まれている。
前回紹介した「美康粉黛」と中国の国産IP『魔道祖師』などもそれに類する。
95後世代はまさにトレンディドラマや少女漫画を見る感覚で時代劇を見ているのである。同時に昨今の「国潮」ブーム(中国独自のものを評価する)や中国の伝統的なもので自分を飾ることが「インテリジェンス」ととらえる95後世代のニーズにマッチしたのである。
その代表が2019年にヒットしたドラマ『陳情令』と中国のコスメブランド「CigaLong(龍梓嘉)」のコラボ。同商品はT-Mall旗艦店での発売と同時に商品が売り切れるといった現象を生んでいる。
そしてこうしたIPがローカルコスメの中でも、新鋭ブランドに集中しているという点も注意が必要だ。
「完美日記(Perfect Diary)」をはじめとする新鋭ブランドは、どの企業も現代中国におけるSNSプロモーションにたけている。そもそもの視点が「どうSNSでバズるか」からマーケティング施策を考えているといっていい。
そうした企業にとって、ドラマなどとのコラボレーションはドラマ制作・放映会社と、認知拡大・ファン層の囲い込みという利害とも一致しており、かやた視聴率による広告、ブランド側はドラマや起用されている俳優人気をベースにした販売拡大を狙うことができるのである。
では、日本企業ができることは?
このように、中国ではすでにコスメ×IPコラボがマーケティングのトレンドとなっているが、中国市場における日本企業はまだこれからである。
特に中国企業のような中国のテレビドラマとのコラボなどは難しい。
しかし日本にはレベルの高い人気アニメが多数あり、多くが中国でも強い人気を博している。
こうした「中国で人気の日本IP」をいち早く獲得し、マーケティングに活用することは非常に有効な手段だといえるだろう。
しかし必要なことは、「〇〇という作品が人気だからコラボ」という安易な発想だけではなく、日本のアニメの何が、なぜ中国消費者に刺さっているのかを分析するという事が必要不可欠である。
もしそれを解き明かしつつ、中国消費者のインサイトを発掘できればアニメコラボだけでなく、訴求のためのキャッチコピー、動画制作における脚本など、多くの場に転用できるのではないだろうか?
IPコラボは話題を作り、関心を呼び、商品を売るという目的だけではなく、そこからより深く中国の消費者を理解し、次の有効施策を生み出す土壌ともなるのである。