新型コロナ情勢下にあって拡大のスピードがさらに増したライブコマース。その中で重要な役割を果たしているのが、商品の魅力を消費者に伝える「KOL」たちだ。
都市封鎖や外出規制によって自宅に閉じこもっていた消費者の心を楽しませたのが多くのライブだった。それに伴い従来のトップKOL以外に、多くのインフルエンサーたちのフォロワーが増加、KOL業界も大きな盛り上がりを見せた。
しかし、同時に起こりつつあるのが新規プレーヤーの参入などによる市場構成の変化だ。
中国で長らく注目されてきたこのKOLの世界の変化を整理しながら、今後のKOLマーケティングの在り方を考えてみたい。
目次
李佳琦と薇婭、そして芸能人たち
もともとKOLの社会的地位を確たるものにした存在といえば李佳琦と薇婭の2大トップKOLだろう。
2019年の中国のマーケ業界は、この両名に注目が集まった。とくにダブルイレブンでは両者の戦いがメディアを騒がせた。
2020年に入っても両名の活躍はとどまらず、新型コロナウイルスにおいて両名ともに武漢への支援を惜しまず、支援物資を送るなど、メディアの注目対象になった。
さらに薇婭に至ってはこれまでにない「ロケット」のライブコマース(しかも瞬殺)を行う傍ら、インタビュー番組にも積極的に参加。KOLという事業主として、また母親としての思いや葛藤を吐露し、KOLだけではなく多くの女性の共感を呼んでいる。
ただ、こうしたカリスマKOL一局の情勢に変化が訪れ始めているような状況が生まれている。
その一つが、芸能人・アイドルの積極的なライブ参入である。
これまで人気芸能人・アイドルと企業のコラボといえば、主にイメージキャラクター、CM起用といったものであったが、近年はそうした芸能人の影響力を利用してのSNSマーケティング、さらにはライブといった部分にまで進出している。
つまりは芸能人がKOL領域に進出しているのである。
90後世代のカリスマとなっている欧陽娜娜など多くの事例があるが、「帯貨女王」との異名をとる女優・楊幂などがKOLのライバル的存在としてより注目を集めている。
今年4月には李佳琦とこの楊幂がコラボするライブコマースが行われ、メディアの注目が集まった。
報道を見る限り、多くの視聴が集まった割に効果のほどは…といった状況だったようで、芸能人、KOLの活用方法を考え直すきっかけになっている。
その活用に関しては今後、詳しく行っていくとして、ライブおよびライブコマースの現場においては純粋にKOLの独壇場とはならなくなっている状況が考えられる。
芸能人に続いてCEOも参入。乱戦状態へ
さらにライブ業界を複雑にしているのが、新たにカメラの前に立つ存在が登場しつつある点である。
中国では2020年開始と共に新型コロナによる影響が深刻化。そのなかでリアル店舗展開をしていた中国の化粧品ブランド「林清軒」では、KOLではなく会社のオーナー自らがライバーとなり商品を紹介した。
また、中国の靴メーカーである「紅蜻蜒」でも婦人節商戦時に同社のトップ自らがライバーとなり、商品をPRし、大きな注目を集めた。
これまでこうした企業トップはライブ時の「ゲスト」としてKOLからの取材を受けたり、一緒にコメントをするというわき役であることが多かった。
しかし、今年の春以降は「ライブができるCEO」ブームが到来。コロナウイルスで大きな打撃を受けた観光業からはC-tripのCEOが、若者に人気の「漢服(中国明代の服装を模したコスプレ)」を着用してライブに登場。
こうして、中国のライブコマースにKOLではなくCEOが参入することとなった。
もちろん成功事例ばかりではない。エアコンブランドの「格力」では、同社トップ・董明珠氏によるライブを行ったが、初回はネット環境が悪かったのか、途切れ途切れの配信となり、全く逆の意味でネット上の話題となった。
それでも同社は改善を繰り返し、CEOライブへのチャレンジを続けている。
こうした動きは徐々に広がっており、今年の618においても各大手ブランド企業トップの去就が注目されている。
またCEOのライバー化とは別に「人以外」のライバーを活用する試みが行われているが、これについては次回に譲るとしよう。
変化の中で苦境に立たされるMCN市場
さて、2019年で急速に成長したライブコマース。その陰で同じく急拡大したのがKOLのマネジメントを行うMCNである。
さぞかし、どこも儲かっていると思いきや、中国のEC・小売専門メディアである「億邦動力」では、気になる実態を報道している。
その中で、2019年に中国国内におけるMCNは2万社を突破しており、2015年から2018年までの総数を上回る数の企業が展開しているとしている。
その内情はといえば、あるMCNのコメントとして「そのうち90%は“食えていない”」状況なのだという。
その原因となっているのは「ショートムービーやライブの関連人材不足、概算で4000万人」という現状。
人員の数としては存在しているのだろうが「9割以上のKOLはライブに適さない人材」であり、さらに「8割以上のMCNには競争力がない」といわれている。
そうした現状に拍車をかけたのが新型コロナである。
中国のMCNの収入源としては1つは広告費、もう1つはECと連動したインセンティブや売り上げを得るタイプだが、多くのMCNは前者、すなわち広告費のみで運営しているのである。
業界では「2年前にはKOL1人を雇うもしくは契約して、広告をいくつか取ればそれで養えた」状況だった。しかしこの新型コロナウイルスの影響で広告費自体が大きく削減されたり、素養の良くない企業では広告費の支払いが滞ったりという状態を招いた。
企業の商品によっては都市封鎖や外出規制などで売り上げが大きく落ち込んだこともあり、やむを得ない状況だったが、これは2019年のブームに乗って成立した多くのMCNにとっては大きな、まさに死活問題となったのである。
この情勢下で、徐々にECを中心に収益モデルを見直す企業、KOLトレーニングスクールを開講する企業、ライブスペース(スタジオ)運営などを考える企業など、多くのMCNが生き残りに向けて模索を始めている。
しかし「淘汰の時代はまもなく」と億邦動力は見る。上記のようなKOLから芸能人や企業のトップ、さらには「別の存在」など、ライブ動画によるマーケティングの主役が目まぐるしく変化し、それに対応していけるMCNはそう多くはない。
さらにはこの混沌とした変化の中でユーザー、消費者の関心もうつろい代わり、今までのように「確実なトラフィック」を確保するのが難しい。簡単に言えば「票が割れる」可能性を含んでおり、コロナによって企業側の広告投資が限られる状況と相まって、一部の新興MCNの収益に悪影響を及ぼしているのである。
従来型KOLだけではなく、様々な発信源が生まれている中国のライブ市場。我々はその状況を踏まえ、より効果のある手法、チャネルを模索する必要が日に日に強まっている。
次回はそんな中国のライブ市場における「人ならぬライバー」ニーズについて探ってみよう。