視聴者数1億人! カリスマKOLの新たな記録も変化の予感

中国へのマーケティングは、すでにKOLという存在をなくして語ることができなくなっている。特に李佳琦(Austin)、薇婭(viya)の名前は日本の業界でも知られるようになっている。

その2大巨頭の1人である薇婭が5月21日、新たな話題を振りまいた。カリスマKOLのパワーを見せつけたその成果は華々しく報道されたが、同時にその陰に今後のKOLという存在の変化を垣間見ることが見えた。

今回は5月21日の薇婭ライブの模様を中国の報道をベースに見ていこう。

視聴者数1億人越えのライブとは?

まず簡単に概要だけ説明しよう。

ライブが行われた5月21日は、前日である5月20日同様、数字の発音が中国語でI Love youを示す「我愛你」と似ていることから、2月14日、5月20日、そして旧暦の七夕などと同様「恋人たちの日」とされている。

 

この日行われたのが中国のKOL会を代表するカリスマKOL薇婭(viya)による大規模ライブコマースである。

テーマは「感恩」。すなわち、1年間の感謝を伝えるというテーマの、新たなライブコマースイベントなのである。

同日18時からスタートしたライブには、薇婭だけではなく現在中国の芸能界で高い人気を誇るアイドル、アーティストがリスト上だけでも26名が参加。

最新スマホや家電、ハイエンド化粧品、さらには自動車まで、160以上の商品、参加商品の市場価値合計6000万元以上というものを、いずれも5.21元で早い者勝ち販売をするという、消費者からすれば非常にテンションの上がるイベント。

 

参加ブランドも国内だけではなく、P&G、Unileverといった世界的なブランドも多数姿を見せた。

またこのイベントは公益活動に熱心な薇婭らしく、例年通りチャリティ要素が含まれており、貧困地区での学校建設などの募金も発表され、終始華やかな、そして暖かな雰囲気のイベントであった。

 

イベントの結果は、ライブ視聴者数1.17億人と日本の総人口にも匹敵する視聴を集め、中国マーケティング業界における新たな記録となった。

KOLは株価をも動かす? 521の陰で起きた株騒動

さて、近年中国の株式市場では「紅網概念股」(“股”は株の意)という言葉が言われるようになったことをご存知だろうか?

直訳すれば「KOL概念株」という、KOL市場に関連した企業の株の事だが、なかなかイメージがわきにくい。

具体的な例を示せば「MCN」の株、すなわちKOLを抱えたり契約し、企業からのプロモーションを請け負うマネジメント会社である。

こうした会社はKOL市場が拡大し、有名KOL契約することで株価は大きく上がる。

 

もう一つは「有名KOLに紹介されたことで売上が大きく伸びた企業の株」である。こちらはケースバイケースであるが、例えば李佳琦の紹介で爆売れしたような商品のメーカーなどである。

 

簡単に言えば、KOLの成果が株式市場にも影響しているという事である。

そんなKOL株に関する事件が、この薇婭による521感恩ライブで起こっていたことを日本ではあまり報じられていない。

 

事件の主人公となったのは湖南省に拠点を置き、ベッドシーツなどの製造販売を行っている「夢潔家紡股份有限公司(以下:夢潔股份)」という上場企業。

同社は今年5月11日に薇婭のマネジメントを行う「謙尋文化」と戦略提携を締結。薇婭のライブにおける多方面での事業提携を行い、展開することとなった。もちろん521ライブもその中の重点プロモーションとなっていた。

 

この時点から徐々に同社の株価は上昇を始めた。もちろん薇婭による販売効果を期待してのもので、同社株価は戦略提携を始める前の5月8日からライブ当日の21日までで124.13%も上昇、同社の時価総額も41億元の増加となった。

 

しかしその陰で思わぬことが起きた。

のちに発覚したのだが、このタイミングと同じくして同社トップの前妻であり、第二株主である「伍静」は自身の同社所有株の売却を開始。それだけではなく、同社複数の幹部もしくはその家族も所有していた株の売却を始めた。

この売却は“5月22日ごろ”まで継続したのだが、薇婭効果によって上昇した株価によって合計で1億元近い現金が、株主たちに流れ込んだのである。

 

しかし、週が明けた5月25日には一転して株価が7.87%も下落。慌てた投資家の売却が続き、同社の株は大きく値を下げ、ついにはストップがかけられることになった。

 

果たしてこれは偶然の産物なのか、それとも同社の幹部が薇婭の影響力を利用し、より多くの現金を手に入れたかったのか、現在でも結論は出ていないが、

多くのファンが集まる一方、離れるファンも

1億人以上の視聴者を集め、なおかつ株式市場にも影響を与えた今回の薇婭のライブ。まさい中国プロモーションにおけるカリスマKOLの実力を見せつけたものとなった。

しかしそこに対し、一部では冷たい目を向ける消費者もいるようである。

 

それは薇婭がトップになる前から彼女のファンであったフォロワーであるという。

 

もともとKOLは第三者的視点で商品を紹介してきたため、KOL個人に対するロイヤリティが高かった。いわば信用商売だったのである。

そうした「信用」によって薇婭を支持していたフォロワーの目的は、彼女の紹介、説明が聞きたかった、それによって商品の良し悪しを判別したかったのだが、入れ代わり立ち代わり登場するゲストによってそれは「攪乱され」、薇婭自身の評価が聞けなくなった、という。

 

同時にインタビュー番組で「ファンのため」と子供との時間を削ってライブを行う彼女、また当初無名のライバーだった彼女を奮闘などに心打たれ、彼女のファンとなる消費者も少なくない。

 

そうしたファンにとって、「感恩(感謝)」と銘を打ちながら、アイドルたちを呼び、そのアイドルのファンに向けて商品を紹介している姿は寂しく思えたのかもしれない。

 

同時にそれは、「流量(Traffic)」や「視聴者数」という囲い込む数を追う現在のライブ配信に、何かしら疑問を投げかけているようにも感じられる。

 

もちろんメーカーとしては1回のライブで大量の商品が売れれば、投資回収ができ、収益も上がり、喜ばしいこと。そのためにはKOL1人の力だけでなく、とにかく「人を呼べる存在」を多数活用できるに越したことはない。

 

だが、それはKOLにとっては諸刃の剣になりかねない。これまでファンとして高いエンゲージメントをもたらすフォロワーに背を向けられ、その場だけのユーザーを囲い混んでいては、その影響力を保っていくことはできなくなってしまうのではなかろうか?

 

またメーカーとしては、単純な「ライブ1回でどれだけのトラフィック」といった単純な視点だけではなく、有名KOLが紹介することで、そのKOLを信じるファンに安心して購入してもらう、ブランドへの信頼度を高めるためのKOL起用という広報的視点も必要なのかもしれない。

 

徐々にではあるが変わっていくKOLとそれを見る中国消費者。今後どのようにKOLと付き合っていくべきなのか、日本企業にとっても大きな悩みどころだ。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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