618が終了してから約一月。その興奮も徐々に収まりを見せている様と思いきや、中国のマーケティング業はいまだ大きな動きの中にある。
その中心はもちろんライブコマースである。
実践投入されたばかりの昨年も大きな盛り上がりを見せたが、今年はそのプラットホームの去就によって“戦局”が大きく変わり、今後の市場をも変えるのではと噂されているのである。
中国のライブコマースの高まりは業界に何をもたらすのか。見ていくことにしよう。
目次
ライブ発信元同士での火花が続いた618
まず今年の618におけるライブコマースでの話題を少し振り返ってみよう。
Taobao Liveにおけるカリスマといえば李佳琦と薇婭であり、そこは不動の存在であることには変わりはない。
しかし618においてはこうしたKOLだけではなく、これまで進められていた芸能人のライブコマース参入が加速した感がある。
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それは従来のTaobao LiveやJD LiveなどのECサイト運営によるライブプラットホームよりも、新たに人気を獲得しているプラットホーム、抖音・快手において顕著であった。
そもそもそれは618以前から開始されており、まず話題を呼んだのはマホメーカー「スマーティザンテクノロジー(錘子科技)」創業者・羅永浩と抖音の契約。芸能人ではないものの、芸能人級の知名度を持ち、また話題を振りまいてきた人物である。
彼の初ライブには数多くのユーザーが視聴し、EC、ライブ業界を問わず話題となった。
そうした流れは618においても継続的に行われていった。
抖音ではアーティスト・汪峰(チャン・ツィイーの夫としても有名)を起用し6月17日にライブを配信。
その結果は、そのライブ時間で300万元余りのオーダーを受け(主にヘッドホンなどの音楽関係の商品)、まずまずといった反応を得ていた。
対する快手は女優・張雨綺と契約を結び、彼女によるライブを行うなど、芸能人の起用を進めている。
こうした抖音や快手の動きを見ながら、老舗であるTaobao Liveはボーカロイドをライブコマースの主人公として投入する。
すでに中国初のボカロ「洛天衣」でのライブを行っていたが、618期間中には日本から初音ミクを“招いて”のライブ配信など、ボーカロイドによるライブコマースを加速させた。
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ついにバーチャルもライブコマース参入 変わりゆく消費者に迫られる新たな「影響力」の発掘
またそれ以外では何度か紹介したように、企業のCEOによるライブも継続して展開されている。
中国のエアコン大手「格力」では、董明珠社長によるライブを引き続き展開し、大きな成果を上げているし、家電大手の「美的」も同じように同社総裁のライブを実施。天猫、京東双方で家電部門売上トップの成果を得ている。
ライバーの多様化が進んでいるのである。
ライブの発展が中国EC業界を変える?
このようにライブの主体がKOLだけでなく、芸能人やCEO、ボーカロイドの登場は、より多くの消費者の関心をライブに向けさせ、ライブコマースそのものを拡大させていく。
同時にそれぞれのコンテンツが趣向を凝らしたもので競い合うことで、ライブコマースが単純な販売の場ではなく、エンターテイメントの場として発展していくことも考えうる。
さらに抖音と快手のような動画、ライブ機能を中心としたプラットホームの登場、成熟はECプラットホーム側、もしくはECプラットホームに店舗を展開している気企業にとってもメリットは大きい。
もともとTaobao Liveは李佳琦や薇婭のようなカリスマKOLがTrafficのほとんどを握っていた。そのため彼らに商品を紹介してもらうことでそのTrafficのおこぼれを企業側は得ていたことになる。
しかし抖音や快手が成長し、ECプラットホームとの提携が成立していれば、Taobao LiveのKOLたちとは異なるTrafficを自店舗に誘導させることができる。
特に抖音などはハイレベルなリターゲティング機能を有しているため、自社のターゲットに対してライブ情報をアプローチさせていくことも不可能ではないはずだ。
もちろんこれはECプラットホームにとってもメリットは大きく、本業である販売での成果が上がりやすくなる。
自然両者の間には以下のような提携関係が成立していた。
<2019年時点の各プラットホームの関係図>
出所:抖快淘拼 直播电商的背水一战(億邦動力)
抖音はEC業界2大企業とそれぞれ提携しており、また快手も抖音の提携先であるTaobaoグループ、そしてTaobaoグループのライバルである拼多多と提携していたわけである。
商品の販売が主業務ではないショートムービープラットホームである抖音や快手にとっては当然の戦略といえるだろう。
しかし、2019年末ごろから状況が変わり始める。
JD.comが拼多多の有している下沈市場を奪いにかかった。そもそも快手は下沈市場ユーザーが多く、その面で拼多多とも親和性があった。
この両者の関係を割く意図があったのかは定かではないが、JD.comは快手と提携を結び、下沈市場への浸透を図った。
これにより「Taobaoグループ&抖音」・「JD.com&快手」・「拼多多」という鼎立状態となることが予想された。
しかし、それは今年の618がターニングポイントとなりそうだ。
まず快手は自社の販売プラットホーム「快手小店」を活用しての618初参戦を宣言した。もちろんJD.comとの提携はそのままであり、618期間中はECプラットホームのためのライブを数多く配信した。
そして業界に大きな驚きをもって迎えられたのが抖音の運営元である「字節跳動(バイトダンス)」による「電商部(EC部)」設立であった。
これは同社の持つアプリ抖音(ショートムービー)・西瓜視頻(動画)・今日頭条(ニュース)のECに関連する業務を統括する部門と説明されており、同社が本格的に自社ECプラットホームの運営に乗り出すのでは、とみられている。
つまり、これまでTrafficをECプラットホームに提供する側であった抖音や快手が自身でECを運営するようになる可能性が高まったのである。
Taobaoと抖音は現在のところ「引き続き良好な関係を」と発表しているが、現時点での関係図は以下のようになる。
<2020年時点での各プラットホーム関係図>
出所:抖快淘拼 直播电商的背水一战(億邦動力)
この図の点線「潜在的競合」が、果たして正式に競合となりえるのか。現時点ですぐに変わるわけではなさそうだが、その動きによってはダブルイレブンの戦い方にも影響してくるはず。
今後も注視していきたい。