中国で分析が進んでいる中国の新世代「Z世代」。
これまでとは全く新しい価値観、習慣を有している彼らを知ることは、今後の中国市場において非常に大きな意義を持つ。
これまでその大まかな環境、そしてコスメニーズなどを見てきたが、今回は彼らのブームの中から、彼らの心理に踏み込んでみようと思う。
目次
周囲にないものを目指してのサブカルチャー
中国のZ世代の興味の先として挙げられる代表的なものが「二次元」、「サブカルチャー」である。
特に日本サブカルチャーの熱烈ファンの主力は大学生、すなわちZ世代である。
日本のアニメーションの特徴としては、週刊少年ジャンプ系の作品に代表されるような「努力」、「友情」、「勝利」といった内容。
これは中国でも非常に強い共感を得られるが、環境が若干異なる。
周知のとおり、中国では過度の学歴社会となっており、大学入試のための少年期となっている。
上海のある高校生と話をしたことがあるが、その際「クラスメートは友人ではなくライバル。親もそう言っている」という言葉にショックを受けた記憶がある。
そういった若者にとって、日本のアニメのように常に励ましあい、協力し合い、身を捨ててまで守ろうとする友人がいることに強い感銘を受けるのだという。
また、昨今の漫画やライトノベルをアニメ化した作品には学園モノが多いが、その学園生活には友情あり、恋愛あり、部活動やサークルなどの勉強外の活動があり、その中での感動が描かれる。
それも中国のZ世代には魅力的に映るようである。
そもそも彼らは常に「自分に合うもの」、「自分らしさを表現できるもの」を求めていながら、同時に社会には勉強以外に選択肢がない。
それに比べると日本のアニメ作中の若者は数多くの選択肢を有しているのである。
そうした、今現実の環境下では表現できない自分を求めて日本のアニメを視聴し、そのためにbilibili動画などへと集まっているのである。
燎原の火のように広がる「中国伝統」キーワード
もう一つの特徴が中国の「国潮」ブーム、そして「漢服」ブームといった、中国伝統様式をに対する関心である。
これは、一部の日本識者が「愛国教育の影響では」と言っているが、筆者にはそのようには映らない。
これもZ世代にとって自己表現のための、新たな選択肢であるにすぎない。
そもそも新中国(1949年以降)は伝統文化を否定してきた背景がある。そのため一般生活の中でかつての伝統文化を見ることはできない。
それが90年代、2000年代に入り、社会が発展してくると徐々に再認識され、チャイナドレスなどがより広く着られるようになってきた。
しかしZ世代が登場した時には、チャイナドレスもすでに当たり前になっており、自分たちを表現するには十分ではない。
そんな時に目に入ったのがトレンディドラマ調の時代劇やゲームであり、その中の衣装であったのである。
いわゆる「漢服」ブームである。
これはが若者の心をとらえ、また国としても自国の伝統文化を広める意味で推奨した結果、全土へと広がったのである(実際に正しい伝統文化であるかは謎だが)。
さらにそこに、「中国伝統意匠」をあしらったメイクアップ商品が登場し、その機運はまた高まる。
今年の美容博覧会ではほぼすべての国産ブランドはこうした「国潮」デザインの商品を出したがために、ブランドの見分けがつかなくなったという報道もあるほど膨れ上がった。
すでにどこを見ても「国潮」、どこを見ても「漢服」といった状況ではたしてZ世代の「自己」を表現しているのかはやや疑問ではあるが、今後どうなるのかは気になるところである。
流行を作るZ世代の心の内
さて、このような流行を眺めながら、中国で公開されている分析レポートの中で興味深い結果が目に留まった。
それは、自身のコミュニティに他の消費者が参加してほしいかどうかの調査結果であったが、実に60%が「自分のコミュニティに参加してほしい」と回答している。
もっと自分のコミュニティに参加してもらいたい
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ここで注意が必要なのが、自分がほかのコミュニティに参加するかではなく、他者が自分のコミュニティに参加してほしいと感じているのである。
つまり彼らの基準は自分であり、自分がその領域内の主宰者でありたい。そして、そのコミュニティの中に「他者が加わり」、その中で自分が優位性を保ちたい、という心理があるように感じる。
さらに面白いのが「他者が所有しているものを所有したいか」という質問には57%が「所有したい」と回答している。
他人が持っているものも所有したい
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自己表現や自分だけの価値観とはいうものの、やはり他者は気になるのである。
つまり、中国Z世代の特徴として考えられるのは「自己をきちんと持ち」つつ、それが「他者によって承認される」とことを期待し、「他者が主動的に自身のコミュニティに加入する」ことを望んでいる。
そのためには、自身の興味のある領域で他者以上の存在価値を有していなくてはならない。そのために、他者が所有しているものはもちろんながら、自分だけか持ちえない、オンリーワンの商品を得ようとする。
そのためには若干高い価格であっても購入するのである。
先の漢服やサブカルチャー、コスプレブームにおいても、そのコミュニティの中の他者が知りえない専門知識、他者ではしたことのない経験を自らが得ることで、自身の存在価値を感じ取る。そのためのコミュニティ参加であり、熱狂的なまでの情報収集であり、そしてSNS発信であるように見える。
こうした、やや複雑な意識をもった中国Z世代。中国トレンドExpressでは引き続きその心の中を追いかけていきたい。