中国ですでに始まっているのが「W11(双十一)」に向けた戦略。ブランド、ECサイトはすでに動き出しているが、今年はライブ機能を有するSNSもW11という決戦に向けての戦略を張り巡らし始めている。
今回は現時点で気になるSNSの動きをまとめてみた。
目次
中国版インスタの転換期。ECはあきらめる?
まず動きを追いたいのが「小紅書(RED)」である。
「中国版インスタグラム」ともいわれ、一般ユーザーが写真とともに自身の「体会」、すなわち体験・経験をシェアするSNSとして人気を集めている。
特にコスメに関しては、「実体験をベースにしたクチコミ」重視する中国消費者にとっては重要な情報源となっている。
中国女性消費者にとっては必須SNSとなっており、すでにブランドにとっても消費者向けの情報発信を行う上で必ず攻略せねばならない拠点となっている。
その小紅書もライブに関しての動きを見せている。
それは「Taobaoとのリンク」という一手である。
そもそも小紅書は独自でECを展開していた、TaobaoやT-Mallにとってのライバル的な存在であった。
しかしここにきて、小紅書で情報発信を行っているユーザーの内、トップKOLのライブにおいてはTaobaoの当該商品へのリンクを認める方向へと舵を切った。
その背景はやはり「どうあがいても三巨頭に及ぶことはない」ことが明確である以上、発信メディアとしての役割に徹するという割り切りがあるように見える。
実際に同社のECもそれなりに注目されていたが盛り上がりに欠け、逆にメディアとしての能力が評価されていた。
同時に「動画」においても新たな施策を展開している。
小紅書では基本「写真」と「テキスト」が主流で、動画に関しては1分~5分が上限とされてきた。
それを一定条件を満たしたユーザー(KOLなども含む)に関しては15分まで認める、というレギュレーションを発表した。
こちらの背景は、主力となっているコスメ情報では「品質の同化」が激しく、いわゆる「種草」投稿においては、商品が共通していれば投稿間の差別化がほぼないという状況が続いていた。
いわゆるクリエイティブのマンネリ化だったわけである。
こうした状況の打開策として優良なクリエイティブ能力を有するユーザーに、より能力を発揮してもらおうという狙いがある。
しかし同時に、あるサイトを意識しての施策という見方もある。
そのサイトとは「B站」こと「Bilibili動画」である。
「サブカルの聖域」が世俗に染まるのか?
では、そのBilibiliはどのような施策を打ってきているのだろう?
まず、ほぼ同じ施策である「ライブ配信時におけるTaobaoリンク」の活用という手を打ってきた。しかし同じ施策でも目的が異なる。
B站は多くのZ世代ユーザーを惹きつけているが、サイトそのものは赤字が続いていた。その原因は「商業化できていない」のである。
広告収入こそあるが、積極的な「種草投稿」を行ってこず、そのために収入モデルがユーザーの課金などに頼ってきた。
そこでのライブにTaobaoのリンクを認めれば、企業からの広告出稿も増え、Taobaoへの導線によってコミッション収入を得ることもできる。
さらにこれまでに囲い込んだ数多くの「次世代の主力消費者・Z世代」ユーザーという優位性もあり、より多くの収益が見込めるのである。
それは同様に若い世代の女性を取り込んでいる小紅書にとっては脅威となる。それが小紅書の長尺動画という施策となって表れたのであろう。
しかしBilibiliにとってこの施策は諸刃の剣にもなりえる。
なぜなら、同サイトのユーザーは「サブカルチャー」や「クリエイティブ動画」に惹かれ、かつ広告が少ないという「純粋さ」が人気であったからだ。
もしB站において優秀なアニメ作品よりも、種草動画やライブが増加してしまうと、その「純粋なサブカル世界」を求めてきたユーザーの離脱を生じさせてしまうという懸念がある。
今度同サイトではその施策のバランスにも注目したいところである。
革命児・抖音はどこまで市場を変える?
最後に、現在中国マーケティング業界の台風の目となっているのが「抖音」。
同プラットホームがとったのは、小紅書やBilibiliとは全く異なり「限流」。すなわちこれまで良好な関係にあったTaobaoを含めた外部ECへのTraffic流動を制限するという動きである。
618ののち、抖音を運営する「字節跳動(バイトダンス)」ではEC部門を立ち上げ、抖音を始め、運営する動画サイト・西瓜視頻やニュースサイト・今日頭条のECに関連する業務を集約させつつある。
さらにはコスメ分野のライブにおいて(通常ショート動画投稿は対象外)、抖音小店を経由した場合と直接外部のECサイトにリンクする場合で、コミッションのパーセンテージを大きく変えるなどの施策をとった。
外部リンクへのコミッションコストを上げることによって、自社の持つTrafficを外部へ流出させないようにしたのである。
さらにはその対象が「すべての商品群」へと拡大されるに及んで、「抖音とTaobao決裂か‼」と思われた(制限されるのは10月以降)。
ところが、それから間もなく「抖音×Taobao新規提携成立」の報道が流れ、その金額は100億元超、プロモーションおよびEC各業務に渡る提携との紹介がなされていた。と
Taobaoとしては、抖音に集まるTrafficは決して無視できない。そこから流れ込む消費者が多くの買物をしてくれるのである。
その点、出店しているブランド側としても抖音に大きく期待を寄せるポイントになっており、Taobaoも無視することはできない。
また抖音としては自社のECを立ち上げ、「自立」を目指したいところだが、完全自立までにはやはり時間がかかる。
その準備期間ともいえる現在は、Taobaoとの提携を続けることで、ユーザーの購入意欲を満足させることができる。
こうした背景からりあえず両社はこれまで通りの関係を保つことになったわけだが、まさに「同床異夢」。
コミッションコストを始め、来年以降にどのような変化があるのかは不明である。
中国のEC、そしてSNS業界は「ライブ」という点において同じ方向を向いている。
しかしそれは同時に「誰がこの巨大な一塊の肉をより多く食べるのか?」という戦いを生み出している。
そこに商品を流通させ、そしてプロモーションを展開していくブランド側は、その「巨大な肉」をめぐるEC、SNSの布陣、施策、そしてそれを活用しているユーザーの心理を深く分析理解しつつ、商戦を有利に展開していかなくてはならない。
これまで通り「〇〇の施策をしさえすれば」は通じない。
ブランド側も大きな環境を見て決定する分析力と判断力が試される。