前回、現時点での中国SNSの状況の内、小紅書、抖音、そしてB站ことBilibili動画の動向について簡単にまとめた。
その中で、現在注目が集まっているのがB站である。注目されている理由は同サイトが現在、大きな転換を図っているからだ。
二次元から三次元へ。
リアルな「市場」という世界に足を踏み出そうとしているB站の現状をまとめた。
目次
2020年Q2業績報告とBilibili動画の魅力
中国でも夏場は上場企業のQ2や上半期の業績が発表される時期。Bilibili動画(以下:B站)もナスダックに上場しているため、Q2の業績を発表している。
それによると、まず売上(営業収入)は昨年同期比で70%増の26.2億元。その粗利率も23.1%と5期連続で増加している。
また2020年Q2の平均MAUだが、昨年比では55%増の1.72億人となっている。しかしQ1に比べればわずかに減少している。
Q1は新型コロナウイルスによる巣ごもり生活の影響を受け、その前の四半期よりも30%以上の増加を見ていたため、いわば特殊な数値とみることができる。
この減少を「流出」とネガティブに見る向きもあるが、新型コロナから脱却し生活が「正常化」しつつある中でわずかな減少にとどめているのは優秀といっていいのではないだろうか。
また再生数に関していえば、日平均動画再生数は12億回と最多記録を更新。昨年同期比97%増という数字をたたき出している。
【グラフ】B站四半期ごとのMAU推移(単位:万人)
出所:B站公開資料を基に中国トレンドExpress編集部で作成
こうした人気を支えてきたのがB站のもつ特殊性だ。
B站は10年前の誕生以来、メインを「ACG」すなわちアニメ、コミック、ゲームの3つに置いてきた。
すなわち、サブカルチャーである。主に二次元物が主力ではあるが、現在アニメやゲームを舞台化した2.5次元、またアキバ系アイドルなどもここが網羅している。
このACGはいわゆるZ世代から熱烈な支持を受けている分野であり、B站の主力ユーザーがいわゆるZ世代。
B站ではZ世代の定義を「1990生~2009年生」と定義し、その人口を3.28億人としている。
そして2019年Q3の平均MAUが約1.28億人であったことから「若者の4人に1人はB站ユーザー」と表現するまでになった。
確かに中国Z世代における日本アニメーションへの人気は極めて高く、アニメだけではなくコスプレ、周辺商品の購入など、自身の価値観の赴くままに日本のアニメを楽しんでおり、中にはそこからアニメーターや声優などを目指し、海を越えた中国Z世代も現れている。
昨年7月に起こったあの痛ましい「京都アニメーション放火殺人事件」においても、海を越えて強く憤り、そして深く悲しんだのがまさにこのB站ユーザーたちだった。
この中国Z世代の支持、そしてユーザーの増加がB站の転換を促すことになる。
B站が挑む「出圏」とは?
さて、このB站だが、現在中国のビジネス業界でも注目されている。
ともにつぶやかれるのは「出圏」というキーワードだ。
これは従来のコミュニティから飛び出るという意味あいがあり、芸能人がこれまでとは全く異なる役柄やイメージ(楽曲)にチャレンジする際に「これまでの殻を破る」という意味で使われる。
B站が破った殻とは何だったのだろうか? それは簡潔に言えば「二次元から三次元へと幅を広げた」といえる。
前述のように主にサブカル、二次元のアニメ・コミックを中心に、その周辺までをカバーしていたB站だったが、ここにきて三次元、リアルの内容を多く盛り込もうとしている。
一つは音楽番組の制作、放映である。
アキバ系のアイドル(AKBなど)はサブカルの範囲に入るのだが、それとは異なる歌手を取り上げるのは、これまで多くはなかった。
しかし『説唱新世代』のような、サブカルを切り離した、歌唱力を持った若者たちの戦いをテーマにした番組を打ち出したことは、B站のコミュニティでは全く新しい試みだったといえる。
また、今年の「五四青年節」では『後浪』という、若者を肯定する動画を配信。国のベテラン俳優を起用したドキュメンタリータッチの動画は、これまでのアニメやそれに関連付けたコンテンツの中では異彩を放った。
これは、より幅広いコンテンツをそろえることで、より多くのユーザーを獲得していくこと。そしてそこに向けた広告などの収益を増やそうというB站側の戦略である。
また、最近は映像制作会社を買収し、よりリアルなコンテンツの獲得に向けても動いている。
まさに「サブカルメインの動画サイト」という殻を打ち破ろうとしているのである。
殻を打ち破りにかかるB站に冷静な声も
ビジネスとしては業務の幅を広げるのは悪い事ではない。さらにより多くのユーザーを獲得できるのであれば、喜ぶべきはナシであるように見える。
しかし一部ではそこに冷ややかな目、または不安を感じる声がある。
それは、そもそもB站のユーザーが「二次元」に対する愛情で固められている点であり、「聖域」とまで呼ばれていた。
こうしたB站のファン層がリアルな動画を増やすことによって離れる動きがあるというのである。
以前、筆者も上海で話を聞いていたのだが、20代の女性からは「B站の良さは清純さ」というコメントを得ていた。
二次元世界での青春という、リアルな人間界における暗部を排除した清らかさ、また中国でいわれる「正能量(ポジティブパワー)」の発信として、多くの若者世代の支持を得ていた。
しかしそこに、リアルすぎる作品が増えることによって、「聖域を侵された」と感じるユーザーが現れているのかもしれない。
またもう一つは幅を広げることでのライバルの増加を指摘する声である。
実際にショートビデオに関しては抖音、快手がある。
またドラマに関しては騰訊視頻や愛奇芸などの競合がひしめいており、それぞれが同様に動画制作会社などを子会社に従えている。
それは差別化という点においてもデメリットになってしまうという懸念もある。
これまでの人気の基礎である「サブカル・二次元特化」という強みが薄まり、他社と同質化してしまうという恐れもあるのだ。
B站としては、これらZ世代消費者への熱視線は無視できない。こうしたユーザーがあってこそ、事業展開も可能となる。しかし事業展開してしまうと
まさにタイムリーな、最も熱い消費者層を抱え込んでいるだけに、事業とコアユーザー満足度のバランスをいかにしてとるのか。
ある意味ではこのダブルイレブンが試金石となると思われる。