2020年ダブルイレブンから考える KOLとライブのこれから

「ライブをやれば日本の商品は中国で売れる」、「芸能人やKOLとつながっていて、彼ら彼女らにライブをやらせれば、すぐに簡単に商品が売れる」、「中国SNSやライブは日本よりすごい。日本人でも有名KOLになれる」…。

そんな言葉が、日中のビジネス業界で大っぴらに語られる季節になってきた。

特にインバウンドビジネスが停止している現在、新たに中国への販売を目指す企業が増え、なかでも中国でのライブコマースに活路を見出す日本企業も少なくない。

しかし、本当にそれが「活路」なのだろうか? KOLやライブといった活路を見出すために必要なことを、今だからもう一度考えてみよう。


2020年ダブルイレブンKOL成果ランキング

2019年の618で火が付いた中国の「ライブコマース」。

2020年に入ると、コロナ禍による外出規制の影響を受け、巣ごもり消費チャネルとしてその成長は加速度を増した。

 

それは2020年3月の「婦女節(アリババの女王節)」、上半期最大商戦「618」と時間を経ることに成長を続けてきた。

同時にその内容もこれまでのKOLや有名芸能人だけでなく、紹介されるブランド商品の企業トップ(CEO)、さらには百貨店のスタッフなど多様化。

またプラットホームもTaobaoやJD.comといった大手ECプラットホームによるライブのみならず、若者向けショートビデオアプリ「抖音」、「快手」といった新星の参入など、市場構成はより複雑化してきた。

 

そんな中で迎えた2020年のダブルイレブン。累計オーダー総額4900億元という空前の成果をあげた商戦もやはり、ライブによって盛り上がりを増した。

 

ブランドを起点に見れば韓国の「The history of Whoo/后」が訴求商品の集中化とライブによってスキンケア部門で4位に上る人気を見せたことは先に述べた。

ではKOLを基準に見てみたらどうなるだろうか。中国で公開されているデータから分析してみよう。

【表】2020年ダブルイレブンKOL成約金額トップ10

出所:胖球数据などの公表データを基に作成

トップ2は不動の薇婭、李佳琦が占めた。3位の辛有志は鳴り物入りで快手直播に参入し、1回のライブで18億元の売上を上げていたが、シーズンを通じてみると2位の李佳琦とは2倍近い差がある。

逆にトップ2人を合わせると158.2億元と全体の6割を超える金額を得ており、残りの7人で3割強を分け合っているという状況にある。

【グラフ】ダブルイレブンKOL成約額トップ10の売上金額比率

出所:胖球数据などの公表データを基に作成

さらに視野をTOP50まで広げるとより顕著である。

【グラフ】ダブルイレブンKOL成約額トップ50の売上金額比率

出所:胖球数据などの公表データを基に作成

これを見ると、KOL48人が合わさってようやく薇婭、李佳琦に対抗しうるという局面を見ることができる。

日本のメディアでは「中国のライバー(KOL)の凄さ」、「ライブコマースの勢い」などという報道のされ方をされていたが、KOL市場、中国ライブコマース市場とは、商戦期を含め薇婭、李佳琦の両名のことを指しているといってもいい。

 

中国の調査会社・艾媒諮詢がダブルイレブン後のKOL、ライブコマース問題(後述)に関するレポートを出し、その中で指摘しているが、華やかなKOL業界とは言っても、日本のメディアで紹介されるような事象を生み出す存在は「トップKOL」と呼ばれる存在で、全体の2%余りに過ぎないのである。

こうした現状を頭に入れて「KOL活用」というものを考えなければならないのである。

ダブルイレブンで暴露された偽造。メーカーができることは?

こうしたKOLによるライブコマース市場、ダブルイレブン直後に1人のKOLが行った「告発」がまた波紋を広げている。

 

それはライバー・李雪琴が行ったダブルイレブン中のライブについて。

 

同ライブではデータによると「311万人」の視聴があったことが表示されていた。しかし、彼女が後日スタッフから聞かされたのは「実際に視聴した人数は11万人に過ぎない。残りの300万人はコンピューターによる偽造」と聞かされた。

 

李雪琴はその事実を自身のSNSなどで公表し、騒動となっているのである。

 

前述した艾媒諮詢では『“李雪琴经历直播带货造假”+事件舆情监测报告』という、同案件に関する内容とKOLライブにおける諸問題をまとめたレポートを発行している。

その中には、「11月6日にあるKOLのライブで家電1323台を販売したが、翌日1012台が返品された」といった事例、「7月の価格200元の茶道具ライブでは2000元程度しか売上は無かったが視聴者数は90万人に達していた」など、明らかにデータに不整合性がみられる事例をあげ、KOLおよびライブコマース市場の問題点があげられている。

 

すなわちKOLやMCNが疑似視聴者や疑似購入者を金銭で委託し、委託を受けた側は専用のシステムや人を活用して、データ水増しを行うという仕組みである。

 

レポートではこれらの事例の一原因としてそれでもライブコマース市場が拡大するのは、やはり「KOLにライブやらせれば売れる」というメーカー側の安易な意識がある。

同時にそうしたメーカーは関連データに対する専門知識は乏しく、自身ではその整合性や効果を判別できない。

 

こうした事件を避ける最も良い方法はメーカー側がきちんとデータを把握しMCNと交渉できる能力を身に付けることだが、そこには専門人材の配置などハードルが高い。

そのため、できる方法としては、より正確かつ公正にデータを分析し、メーカーの意向に対して専門的な意見を述べられる企業を仲介に選ぶことになるだろうか。

 

ただ、根底にあるのは「売りたいが、業者の言いなりになるしかない」というメーカーの状況が、多くの不正ライブ業者、MCNに付け入るスキを与えてしまっているということ。

中国で商品を販売するメーカーが頭を冷やして、冷静に市場を見ることが最優先なのである。

 

ちなみに、ライブコマース市場の拡大とともに増え続けているこれらの問題。中国ではすでにメディアを統括する中国国家広電総局が薇婭、李佳琦など具体的な名前を上げながら、偽造などの諸問題防止のために「管理監督を強化する」旨が発表されている。

 

中国消費者協会もそれを受け、同様の発表を行っていることから、2020年の残り時間から2021年はKOL,ライブコマース市場の綱紀粛正が図られる可能性が高くなっている。

今後の動きを注視したい。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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