中国は数千年にも上る歴史を有する国であり、独自の文化を形成してきた。それは中国のみならず朝鮮半島や日本にも波及していたのは周知の事実。
そんな中国の文化文明において秀でていたものが漢字という文字であり、漢字によって記載された文章、すなわち「書籍」である。
実はここ数年、中国ではその書籍を販売している“書店”が注目されている。
近年、中国Z世代に広がる書店ブームをクチコミデータから紐解いてみよう。
目次
オンライン社会で増える実体書店
2020年1月、一年前に発表された『中国実体書店産業報告』によれば、中国の実体店としての書店は全国に7万店以上が確認されている。
2019年1年間では約4000店が新規開店するなど、増加傾向が続いている。
Weiboの2019年12月から2020年11月の期間、月ごとの「書店」に関わるクチコミ件数を見ると、右肩上がりで上昇しているのが見て取れる。
【グラフ】Weibo「書店」キーワードクチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
特に3月、中国における新型コロナウイス対策として行われた外出規制が緩和されたあたりから、書店に関するクチコミは急速に増加している。
夏ごろいったん伸びは落ち着くが、それでも2019年末の状況を上回っている。
そして、そこからまた年末、寒くなる11月ごろにかけて件数が上昇傾向を見せている。
もともと中国は教育大国。
学習や資格試験の勉強に関しても熱心であり、そのための参考書も多く売られている。
また海外のビジネス書も多く中国語に翻訳され、書店に並ぶ姿が多くみられる。
しかし、同時に中国では書籍のデジタル化が広く進み、
こうした書店人気、中心になっているのは若者、Z世代である。
小売や情報発信のオンライン化が日本以上のスピードで進んでいる中国で、オフラインの小売である書店が若者に人気になっているのには理由がある。
しかし、こうした書籍も逆境の時代を迎えている。
購入に関しても、1999年に書籍を中心とするEC「当当網」(現在は総合ECサイトとして書籍以外も販売)が成立し、オンラインでの購入が増加した。
同時に急速なモバイル化によって書籍そのものの電子化が進んだり、SNS、動画サイト、ショートビデオなど、新しい娯楽の普及・浸透によって紙の書籍は時代遅れに。
筆者も2010年代前半に「何で紙の本なんか買ってるんだ?時代遅れな」といった言葉を上海で投げかけられた記憶があるほど、電子化が進んでいたのである
そもそもスタバでタブレット端末やスマホなどで電子書籍を読む“姿”がステイタスと言う意識が強く、紙の書籍を時代遅れのものとして捉えていたわけである。
しかし、その価値観がそのままに書店の数が増えている。
そのカギは、「新しい書店」の登場にある。
映えを求めて「美しい書店」へ。日本企業のマーケティングも
紙の書籍は忘れられながら、近年その書籍を売る書店に注目が集まっている。
その背景にあるのは「最美書店」と呼ばれる新しい書店というキーワードである。
これは特定の書店を示す言葉ではなく、美しく、建築にこだわりを持った書店のこと。書棚に書籍が並べられているだけの書店ではなく、たとえばハリーポッターに登場するようなアンティークなイメージの書店やきらびやかなモダンデザインによって作られた書店を指す。
もともと中国のZ世代には「意識の高い」消費者が多く、これまで顧みられなかった文化的要素を漂わせることをステイタスと考える傾向がある。
「国潮」や「国貨」といった中国的要素の意匠をスタイリッシュなものとして捉えたのも彼らである。
そうした彼らの興味の先には「建築デザイン」というのも存在しており、「隈研吾」や「安藤忠雄」といった日本の建築家も名前が知られている。
そうした文化的なものを知っている、そして文化的な空間に染まることがステイタスだと感じるのである。
この「最美書店」は、そうした意識から生まれたものだといえるだろう。
では中国の若者が何を求めてこうした書店へ向かうのか、Weiboのクチコミ調査から見てみよう。
【表】Weibo「最美書店」クチコミキーワード
出所:Trend Express China調べ
このクチコミワードを見てみると、Z世代がこうした書店に行く目的は「書籍を購入する」ことだけではないことが見て取れる。
その代表的なものが「最美書店」という言葉とともにつぶやかれる3番目のキーワード「打卡」。
「SNS映えするスポットに行く」ことを示す中国のネット用語だ。
つまりはこうした書店に行くことの主目的は、その美しい書店の店内写真および自分が店内にいる姿を写真に撮り、SNS上にアップすることなのである。
6位にはまさに「話題」というキーワードは入っており、「最美書店」に行くことは、話題、流行に乗った行為であることが見て取れる。
ランキング上の地名はこうした最美書店が存在している都市名であり、すべてが28位に入っている「鐘書閣」という書店の展開先である。
またランキングでも下位にはなるが「写真」や「朋友圏(ウィーチャットのモーメンツ機能)」というキーワードが見え、美しいデザインの書店での姿を友人に共有するという生活様式が定着していることを示している。
ちなみにではあるが、この調査を行った2020年12月、日本のキヤノンが最美書店を活用し、そうした店舗で撮影を行うキャンペーンを展開していた。
美しい書店で、美しい生活のワンシーンを同社のカメラで、という意味が込められたキャンペーンであったのだろうが、クチコミ件数では「最美書店」キーワードの2位に入っており、その規模を見る限り同社の発したメッセージは確かに中国消費者に刺さったようである。