中国のZ世代を中心に人気スポット化している「美しい書店」。すでに数多くのデザイン性あふれる書店が中国各地に登場するまでになっている。
今回はその中から、中国の主要都市に展開する書店チェーン「鐘書閣」をクチコミ分析で見てみよう。
目次
コロナウイルス後のリベンジ来店が増加
中でも人気店となっているのが火付け役ともなった「鐘書閣」である。会社としては上海市に拠点をおいているが、店舗は2013年に江蘇省揚州市に初登場した。
現在上海や北京といった一線都市から、杭州市、成都市、武漢市といった注目の新一線都市。さらには貴陽市(貴州省)や都江堰市(四川省)など、日本ではあまり知られていない2線以下の都市にまで店舗展開。中国各地に20店舗以上にまで増加している。
そのクチコミを見てみると、やはり2020年1月、2月は新型コロナウイルスによる外出規制によって来店者も減り、クチコミ件数が大きく下落している。
しかし味方を変えれば「来店する→SNSに発信する」というのが一連のお決まりパターンであることが見て取れる。
【グラフ】鐘書閣の月ごとのクチコミ件数の推移
出所:トレンドExpress調べ
その後、外出規制の緩和とともに来店、そしてその模様をSNS投稿するケースが増えている。
その増え方からしてみると、外出できなかった第1四半期を取り戻すべく人気スポットへ足を運ぶ、いわゆる「リベンジ消費」が起きていると考えられる。
特に8月は大学も夏休みモードに突入。しかし海外旅行などはできないために、せめて人気スポットに足を運ぼうとする消費者が増えたと考えられる。
特に1線都市だけでなく、いわゆる2線などの地方都市への展開をしているために、小紅書の投稿などから、身近に気軽に行けるおしゃれスポット化している様子が見て取れる。
年末に入っても件数は昨年以上のレベルをキープしており、遠出や海外旅行できない若者の人気スポットとなっているようだ。
出店はステイタス。書店という名のフォトスタジオ化
では引き続いて、鐘書閣のクチコミキーワードを見てみよう。
ウェイボー上の頻出キーワードを見てみると、もちろん「打卡」が上位にあるほかそして「網紅(ネットで人気)」という言葉が上位に入っており、SNS映え目的での来店が非常に多いことを示している。
やはり現在の中国の若者にとって、デザイン性に富んだ書店は小売店というよりも、いわばコンテンツとして捉えているといえそうだ。
若者層を取り込むには、こうした思わずSNSに投稿してしまう実物や実体店のコンテンツ化が何よりも重要なのだと感じさせる。
【グラフ】「鐘書閣」書店のクチコミキーワード
出所:トレンドExpress調べ
そして並ぶのは、同店が進出している都市名である。
一部の都市では同店のオープン計画が公表されると「やっと私の街にやって来てくれた!」という投稿をするユーザーもおり、オシャレ感を求める若者にとっては自身が住む町に同店があるかないかというのが、一種のステイタスともなりつつあるようだ。
それらに混じって口込まれるのは、「インスピレーション」や「幻想的(ファンタジー)」といった店内の雰囲気に関するキーワードである。
ただ、残念ながら例えばベストエラー書籍や他では手に入りにくい希少書籍の入手に関するクチコミはランニング上位には上がってきていない。
上位のクチコミを見る限り、アーティスティック空間を楽しむ場であるという認識が強そうだ。
実際に小紅書(RED)の投稿でも、明らかにプロレベルの技術と機材で撮影されたと思われる店内滞在中写真があり、書店と言いつつもスタジオ化している感も見える。
キーワード下位に見える「攻略」というキーワードも、商品購入の攻略(本を探すなど)ではなく、どうしたらフォトジェニックな写真、SNS映えする効果が得られるかについての投稿である。
実際それでも店舗としては構わないようで、日本の書店のように「撮影不可」等ではない様子。
実際に書店とは言いつつ、コーヒーなどのドリンクも飲めるようになっているため、収益としてはbook caféに近しいともいえる。
中国において、伝統的な書店という小売業態が上手に現代社会に適応した形へと進化し、若者文化として浸透した事例といえるだろう。