中国の飲料市場に新風を吹き込んだのが元気森林。メイクアップの完美日記、お菓子の三只松鼠と同じくデータドリブンマーケティングを得意とする新鋭ブランドである。
この元気森林はどのように消費者に受け入れられているのかをクチコミ簡易分析で見てみた。
同時に同社が大きく伸びるポイントはどこだったのか。簡易クチコミ分析の結果、そして少し同社の発展までの流れを振り返ってみよう。
▼前回の記事はこちら
中国市場分析 5年で10倍以上に急成長の無糖ドリンク市場を追う
目次
元気森林をクチコミ分析。ドリンク業界でも成分党の波?
ではクチコミから元気森林を見てみよう。下のグラフは「0糖×元気森林」の簡易クチコミ調査の結果である。簡易であり一部ノイズなども含まれるが、その傾向を把握することが可能だ。
【グラフ】2020年月ごとの「0糖×元気森林」クチコミ件数推移
出所:Trend Express China調べ
これを見ると2020年は新型コロナウイルスの外出規制が緩和された時期、企業も本格的なマーケティング活動を復活させた時期にクチコミ数が激増している。
特に春から夏は全国的に気温が上がり、ソフトドリンク業界にとってはまさに書き入れ時となっていることから、クチコミの増加がみられる。
また注目すべきは10月の件数急増。
これはもちろんダブルイレブン直前のプロモーションによるクチコミ増大と考えられる。食品飲料業界でここまで顕著にクチコミを増やす例は多くなく、元気森林がファッションやコスメ等と同じようなスタイリッシュな商品に近い位置でプロモーションを展開しているのではと想像される。
12月に至ってクチコミ件数は下落を見せているが、それでも水準は2020年1月以上の件数を保っており、2021年もより件数を高めていくのではと予想する。
続いてクチコミキーワードを見てみる。
【グラフ】2020年月ごとの「0糖×元気森林」クチコミキーワード
出所:Trend Express China調べ
もちろんブランド名がトップに来るが、「泡」、「ソーダ」等がそれに続いており、すでに「無糖炭酸飲料」という印象が根付いていることが見て取れる。
それに次ぐのが「代替糖」。つまりこれまでの砂糖とは異なり、よりヘルシーな甘み成分のことである。
中国では代替肉などの研究も進んでいるが、元気森林の登場によって新たに新しい甘味料も注目を集め、同社に甘味料を提供しているサプライヤーの業績が大きく伸びたことも報じられている。
中国の若い消費者は「甘い」、「美味しい」といった感想以外にも成分に対する興味が強く、「ゼロ糖なのにほんのり甘い」という同製品の成分にも、その安全性を含め関心が向けられている様である。
また元気森林では販売チャネルを「ネット」、そして「コンビニ」という若者がよく使うチャネルに集中させている。
そのため「コンビニ」というキーワードもランキング。
また甘いものを接種することでダイエットに悪影響があるという「罪悪感」からも解放されるという印象があることも見て取れる。
人気の元は「日系」?元気森林が取った戦略とは?
健康志向が高まる中で「ゼロ糖、ゼロ脂肪、ゼロカロリー」といった商品のニーズはヒットする要素があった。
しかし単純にゼロ糖飲料を出しても大手ブランド、例えば外資であるコカ・コーラやペプシ、統一集団や康師傅といった企業に対抗できるとは限らない。
しかし、そのドリンク市場で全くの空白に近かったのが「ゼロ糖炭酸飲料」という市場であった。
フランスの「ペリエ」などはあったが、1線都市のカフェなどで売られているような、お高いブランドであり、一般的とは言い難かった。
そこにロープライスの価格で飛び込めば勝機がある。だが、その参入の仕方も考えなければならない。
すでに数多くのブランドがひしめき合っている飲料市場では普通の進出では消費者の注目を集めることは難しいのである。
そこで元気森林が取り、多くのメディアで注目されているのが「偽日系」というイメージであった。
ちょうど世の中ではZ世代が注目され、B站(Bilibili動画)をベースにした日系二次元ファンが多くいた。
さらには日本のモバイルゲーム「たびがえる」が、従来とは異なりユルさ、癒しを求める中国の若者世代に刺さっていた時期。
同時に2014年ごろからのインバウンドブーム以来、日本の「健康」意識や関連商品が注目されていた。
この「日本好き」、かつ「健康大国・日本」というイメージによる「ゼロ糖・ゼロ脂肪・ゼロカロリー」というポイントは、B站や健康的美容思考の小紅書といった人気SNSとの相性がよく、これらのSNSでの露出が増加。
もちろん同社もB站、小紅書での広告投下に力を注いでいる。
そうした話題の増加を基礎として、メインターゲットに好まれるバラエティ番組への協賛も数多く展開。若者世代に注目されるアーティストを起用した気軽に見られるバラエティ『元気満々的哥哥』等への冠協賛で知名度、影響力をさらに広げた。
こうした番組への協賛は、単純に「SNS上で人気になっている」という話題性に、「番組協賛するだけの実力のある会社」という箔をつけることにもなり、消費者の信用度向上にも効果がある。
若者をターゲットにしながらSNSだけにとどまらないマーケティングを効果的に展開した事例といえるだろう。