2月12日は春節。学校も職場も冬休みとなり、中国では1週間ほどのお休みに入っている。
しかし、今年の春節ものんびりとはしながらも、「新しい生活様式」の雰囲気が漂っている。
新型コロナウイルス蔓延との戦いに「勝利」したと喧伝する中国、本来ならば祝賀ムードに浸りたい春節なのだが…。そんな2021年春節の様子を少しだけ見てみよう。
目次
昨年に続き緊張感のある春節
今年も昨年に続きやや緊張感を保った春節となりそうで、感染防止のために政府も「現在生活している地での年越し(帰省の自粛)」を呼び掛けている。
本来は実家に帰って春節聯歓晩会(日本の紅白+かくし芸大会のような年越しバラエティ)を見るというのが習慣だったが、今年はお預け。
例年は「春運」でごった返す上海駅や上海虹橋駅が、今年は閑散としている様子が日本のメディアでも報道された。
帰省が前提となっているこの季節は、国慶節同様に結婚式や同級生との集いなどが行われるケースが多い。
やや同情を集めるのは地方での労働者。
上海や北京といった大都市だけでなく、中国各地で行われているインフラ工事に従事しているエンジニアや労働者など、実家を遠く離れて暮らす人たちにとって春節はほぼ唯一の「一家団欒」。
しかしそれも自粛、もしくは自主的にPCR検査を受けて到着後は自主隔離といった措置が取られる。
国内での移動も団欒までのハードルが高いのだ。
また海外への移動。
日本の一部のメディアでは「春節に中国人観光客がやって来る」というやや「煽り」報道がなされたが、中国では現在「海外からの流入」に対する警戒心を高めており、海外渡航そのものが自粛ムード。
仮にPCR検査などを経、海外に行ったとしても帰国後には厳格な14日間の隔離があるため、春節休み後すぐに出社や登校することも難しい状況になる。
そもそも、航空便自体が数を減らしており、旅行することは不可能。
こうした事情を知らない一部のメディアは危険視するが、中国から大挙して日本へ来るこれまでの風景を今年は見ることはできないだろう。
各ブランドも力を入れる春節商戦
新型コロナウイルス拡大予防という意味では、国内、海外への移動が制限されるのは効果的と考えられる。
ただ日本にとってはインバウンド客が激減することで、インバウンド収入は引き続き望むことが難しい状況にある。
そこで注目されるのが中国国内にいての消費である。
中国政府は一部の地域では「不回家過春節」といったキーワードで帰省自粛を呼びかけると同時に、多額のクーポン券を発行。
現在の居住地でショッピングを楽しんでもらおうとの狙いである。
また中国年越し名物だったCCTVの春節聯歓晩会では外部アプリとの提携で「紅包」というお年玉を配るのが習慣となっていたが、2021年は「抖音(Douyin)」とタイアップで、2021年2月11日の旧暦大晦日から春節当日まで、番組中に抖音を通じて総額12億元ものお年玉が抖音を通じて視聴者にばら撒かれることになる。
ECプラットホームとしては最大手の天猫では、各ブランドも内需の高まる春節商戦に力を注いでおり、エスティーローダー、Olay、中国ブランドの花西子などもキャンペーンを展開。
中国の「紅」を中心にしたカラーリングの限定版、もしくは華やかな限定ギフトセットなどが各旗艦店をにぎわせている。
また完美日記(PerfectDiary)は春節シーズンと被る「バレンタインデー(情人節)」のキャンペーンも同時に展開。
春節×バレンタインという2つの商戦を抑えつつ、国内で高まる消費ニーズ取り込みに動いているといえる。
ただ、越境ECプラットホームとしての天猫国際を見ると「春節色」はやや薄く、“粛々”と展開しているように見える。
新型コロナウイルスという不確定要素によってインバウンド回復の目安が立てにくい中、こうした中国独自のキャンペーンにおいて越境ECがどのように存在感を見せていくのか、今後の課題として考えてみるべきだろう。
春節前後の動きから、2021年の注目ポイントを見る
さて、少し視点を春節から離してみよう。
前述のように春節聯歓晩会の紅包発行権を得たのは「抖音」であるが、同ブランドは2021年の春節前後で中国のオンラインアプリの業界での攻勢を強めている。
その一例が、中国オンライン業界大手の「テンセント(騰訊)」を訴えたというニュースがである。
「テンセント(騰訊)」といえば「バイドゥ(百度)」、「アリババ(阿里巴巴)」と並ぶ3巨頭といわれた企業である。
それに対して新興勢力である抖音はテンセントが市場の支配的地位を利用し濫用し正当な市場競争を阻害しており、抖音の権利を侵害している“反壟断法(独占禁止法)”違反」と訴え、公式なメディア上での謝罪と賠償金9000万元を請求したのである。
現在、10億人が使用しているといわれている微信(WeChat)にはチャット機能やモーメンツ機能などのコンテンツが備わっているが、そこでは抖音上のコンテンツを共有することができない。テンセント側が抖音を締め出している。
抖音の訴えはテンセントが構築した通信、娯楽、流通そして決済などの金融領域までひろげたオンラインネットワークを「市場の支配的立場にある」とし、その一部開放を求めたわけだ。
この一件が注目に値するのは、現在中国政府が独禁法をもって巨大化した中国企業、特にアリババなどのネット企業を制限しようとしているからである。その代表的なものが昨年のアリババグループの金融会社アントフィナンシャル上場失敗やアリババに対する立ち入り調査などの一連の動きである。
そうした中で、春節番組との提携によって、抖音の金融業務にも自然と勢いがつくことが考えられる。抖音にとってはまさに追い風。
人気のライブコマースにおいても昨年のW11でまずまずの成績を得、さらには抖音ライブからアリババ系列のECへの転移を打ち切っており、独自路線を構築する体制が整いつつある。
さらに中国では巨大プラットフォーマーへの独禁法規制を強めている。
これまで天猫や京東などは、その圧倒的なユーザー数、購買力などからメーカーにもやや高圧的な対応があったが、将来的にそれが認められなくなる可能性が出てきている。
中国の年末年始における抖音の動きから、今年のECそしてSNS市場への変化が予想されるのである。