若者を中心に世界的な「中毒」を巻き起こしているのがショートビデオアプリ「Tik Tok」。Z世代の求める“映え”る自己表現を可能にするアプリとして、多くの若者が自身の動画作品をアップしている。
しかし、中国国内における本家本元版の「抖音」は、世界とは異なる進化を見せている。
その新しい動きを見せているのが「抖音EC」だ。
今回はその抖音ECが目指している方向について考えていこう。
目次
中国におけるTik Tok「抖音」とは
抖音。
日本では呼ばれ方が難しい。そのままカタカナを使って「ドゥイン」と呼ばれるケースもあれば「中国版TikTok」などと呼ばれることも多い。
そもそも基本機能は同じで、ともにバイトダンス社のサービスであることから、当初は「抖音の海外版(中国以外版)=TikTok」だったと言っていい。
しかし、現在その両者は全く異なるものであるといえるのは、中国事業に携わる者であれば周知の事実である。
そして、その進化によって抖音はSNSだけでなく、ECプラットホーム、中国消費者の消費習慣にまで大きな影響を及ぼす存在になっている。
そんな抖音の進化を見る前に、まずそれ自体が持つ強みを振り返ってみよう。
抖音が現在有している強みを総括すると「巨大なユーザー数」、「コンテンツ」、そして「ユーザー嗜好分析力」といえるだろう。
ユーザー数に関しては「DAU6億人」ともいわれるほどで、その膨大なトラフィックはかつてはT-MallなどのECプラットホーム旗艦店への流入口としても活用されてきた。
そしてコンテンツ。日々ユーザーによってアップされるショートビデオは、クオリティが高ければ高いほど注目度も上がり、拡散されていく。
もちろん企業の公式アカウントの動画に関しても同様。なかでも、そのコンテンツを活用したマーケティングパッケージ「全民任務」は、ユーザーを巻き込んだ形でブランドの認知拡大が可能となる。
よりクリエイティブなイメージによるブランド確立・拡散が可能になるのだ。
そしてユーザー嗜好分析力。
もともと抖音および海外版のTik Tokには非常に精密なリターゲティング機能が付加されている。
ユーザーが視聴したりアカウントフォローしたりといった動作から、そのユーザーの興味嗜好を分析。それに合った動画が常に表示される仕組みだ。
抖音およびTik Tokではその精度が高く、それによってユーザーの「中毒性」を高めているといえよう。
拡大する「抖音EC」施策。あらたなECモデルの形成へ
2021年5月、バイトダンス社が、こうした抖音の強みにEC機能を組み合わせる形で提唱したのが「興趣電商」という概念である。
分析されるユーザーの興味に合わせたECサービスを大規模に展開しようというもので、バイトダンス社が発表したレポート『抖音電商生態報告』でも、それに触れられている。
抖音自体はメディアであるために、常にユーザーは動画を閲覧もしくはアップしている。それはすなわち、抖音は常にそのユーザーの好きな物、興味のある物という情報を収集し続けているのであり、そこに関連した商品を紹介していくことで、「潜在しているニーズを掘り起こす」ことが可能になるのである。
そもそも、抖音において正式に「抖音EC」が誕生したのは2020年6月のこと。618商戦終了後に同社内において「EC部門」が成立したことによるものだ。
その後、同年8月には同社独自の商戦「抖音奇妙好物節」を展開し、80億元を超える流通総額を達成。
同年ダブルイレブンを経て、2021年「3.8婦女節」においてもキャンペーン期間中、136.3億元の売上を上げている。
同社のEC事業は現在、中国国内に限られているが、前出のレポートにおいては、2020年1月からの1年間で、抖音におけるEC取引総額は50倍にまで成長したとされている。
抖音の提唱する「興趣電商」は、これら抖音EC事業をさらに加速させる構想として注目を集めているのである。
抖音ECにとっての課題とは
しかし、この抖音ECにはすでに懸念点も指摘されている。
それは、出店のハードルが低い分、トラブル、混乱が起こりやすいのでは?というものである。
抖音での開店ハードルは若干低い。
すでに多くの業者が抖音での店舗開設サービスを提供しているが、店舗の経営許可証を取得している場合(抖音店舗開設手続きのみ)では160元、所有していない場合には許可証の代理手続きと店舗開設の手数料込みで320元。
しかもそのほとんどが1日~2日程度で終わり、早ければ申し込んだ翌日には商品を並ばせられる、というものである。
もちろん開店に当たっては「デポジット(保証金)」が必要となるのだが、それも「店を閉めるときにいつでも返金される」となっており、その他のEC旗艦店に比べて非常に開店が容易になっている。
その結果生まれる弊害としては、資質の定かではない小店舗の乱立である。
中国メディアの調べでは、中国スポーツファッションのトップブランド「李寧」の名前を冠した店舗がすでに複数存在しており、いずれも「オフィシャル」をうたっている。
こうした状況は初期の淘宝や拼多多に見られるように、粗悪品やコピー商品の販売にもつながりやすい。
抖音ではEC部門を立ち上げた2020年6月から消費者権益保護キャンペーンを展開。これまでにコピー商品など法的に問題のある商品の販売停止が100万件以上、また販売店舗の不正行為も4万件以上摘発し、処罰を行っている。
抖音としてはこうした施策によって、消費者も安心して購入できる環境を整えていることをアピールしているが、国内ECにおいてはまさに淘宝や拼多多がたどってきたように「モグラ叩き」の感は否めない。
今後、国内ECに関してどのようなレギュレーションを設けるのかは気になるところ。またやがて展開されるであろう越境ECにおいて、どのような管理体制を敷くのかにも注目したい。
膨大なユーザー数を擁し、極めて深い浸透度を見せ、さらにはユーザーごとの嗜好の見極め・推薦ができる抖音。
そうした環境を背景にした同アプリのEC事業は、企業にとっても極めて魅力的に見える。しかし、それ故に多くの課題とも向き合わねばならないのもまた事実である。
中国トレンドExpressではこうした抖音の現況について、新たに強化されるECを含めたマーケティング活用の可能性を含め、基礎から考えていく。
次回はベースに立ち返り、抖音そのものを基礎から理解していこう。
■次回記事はこちら
【抖音分析】Vol1.0 抖音と抖音マーケティングを基礎から考える
https://gc.novarca.jp/blog/20210604-douyin-mark-2.html