やや例年とは異なる雰囲気を醸し出していた2021年上半期最大のEC商戦618。その目玉の一つとなったのが抖音(Douyin)の正式参戦である。
ショート動画機能、ライブ機能を有し、膨大なトラフィックを稼ぐ同アプリの参戦は、T-MallやJD.comといった従来のECプラットホームのほか、その商戦に参加する企業(メーカー、ブラン)にも大きな影響を与えた。
今回は中国のメディアが618参加企業に行ったアンケート調査を基に、商戦と抖音の関係を見てみよう。
目次
2021年618、期待を集めたプラットホームは?
中国でECや小売業を専門に取材、分析を行っているメディア「億邦動力(ebrun.com)」。そのシンクタンクである億邦智庫では2021年618商戦の直前、参加企業に対するアンケート調査を実施。企業視点で、どのプラットホームに注力しているかなどを調べ『2021品牌企業618大促洞察報告』というレポートを公開した。
そこから、2021年618参加企業の動きを知ることができる。
最初に聞かれたのは「企業がもっとも重要視しているプラットホームはどれか?」という点である。
特に今年は『網絡交易監督管理弁法』が施行され、プラットホームサイドは参加企業に「二者択一」を迫ることができなくなり、同時に価格決定権も出店企業のものと定められた。
企業にとっては複数のプラットホームで、自社主体のキャンペーンが行えるはずだが、現在のEC市場はプレーヤー数も増え、戦国時代に。
どのプラットホームにどのくらいの資本や精力を費やすかを考えなければならない。
その中で中国の企業が出した回答が以下のようになっている。
【グラフ】2021年618で最も重要と認識しているプラットホームは?
出所:2021品牌企業618大促洞察報告(億邦智庫)
これを見ると、圧倒的な支持を集めているのがT-Mallである。
その母体であるアリババが独占禁止法違反によって処罰を受けているが、T-Mallは依然として中国EC業界においては最大手であり、昨年のダブルイレブンでも5000億元に迫る売り上げを挙げている。
膨大なユーザー数を有し、世界的なラグジュアリーブランを含む数多くのブランドが旗艦店を展開。その実力は圧倒的なものがある。
では次点をどこにするか、という問題がある。それを見ると通常、業界ナンバー2のJD.comが考えられるが、今回のアンケートを見てみると、抖音と並列しての2位であった。
すなわち、618の主戦場をT-Mall以外と考えた場合、「業界2位のJD.com」と「新興勢力の抖音」の間で悩む、という心理が見える。
もう一つ興味深いデータがある。
「有限の資本をどこに投下すべきと考えるか?」という問いに関する回答である。
【グラフ】資本に限りがある状況で優先的に注力するプラットホームは?
出所:2021品牌企業618大促洞察報告(億邦智庫)
こちらにおいても最優先されるべきはT-Mallで過半数が選択をしている。
しかし、次いで優先的に投下されるのは業界2位のJD.comではなく、抖音が続いているのである。
これは商戦参加企業が抖音の持つトラフィック、さらにはユーザーの嗜好を読み取ったターゲティング機能によってより効率的な集客、売上につなげられると期待しているからである。
こうした点から、中国のブランド企業が商戦期において抖音への期待値が高まっていると考えられる。
どれだけの予算をどこに? 商戦参加企業の戦略・予測値は
気になるのは、618に参加している企業がどのプラットホームに、どの程度の活動予算投下を考えているのか、という点である。
具体的な金額は企業秘密であり、また業界や企業の規模によって異なるため、618にかける予算の何パーセントをどのプラットホームに投下しているか、という調査を見ていこう。
本調査レポートではT-Mall、JD.com、PDD、Suning、抖音、快手への予算投下比率を聞いているが、ここからT-Mallと抖音、そして同じくショート動画の快手の状況をピックアップしてみた。
【グラフ】T-Mall、抖音、快手への予算投下比率
出所:2021品牌企業618大促洞察報告(億邦智庫)
やはり、予算投下の比率としてはT-Mallが大きく、半数以上の企業同プラットホームに手持ちの予算の30%以上を投下しており、それ以下は比較的少数となっている。
前述の「最重要プラットホーム」である以上、多くの予算を投下する価値があると見られているのだろう。
ただ抖音はそれよりも下振れしているものの、「50~80%の予算を抖音に」という企業も3%ほどおり、期待を高い期待を込めて抖音へ注力する企業がいることを示している。
一般に抖音のライバルといわれている快手ではあるが、商戦期の注力度合いからすると、決して大きくはなく、予算をかけるとしても5%程度という企業が大多数を占めている。
そして最後に見るのは、こうしてかけた予算に対して、どのくらいの収益を望むのか、というところである。
【グラフ】2021年618における予測売上構成比の比較
出所:2021品牌企業618大促洞察報告(億邦智庫)
調査結果は予算投下とほぼ一致している。
T-Mallでは全体売り上げの30%以上を期待している企業が多く、やはり売り上げの大きな比率を同プラットホームから期待していることが見て取れる。
同時に抖音に関しても20%以上の売上を期待する企業が2割ほどおり、抖音プラットホームに対する期待がうかがえる。
快手に関しては5%程度と見込んでいる企業が多く、同セグメントの抖音とは大きな開きが見え、同じショート動画プラットホームにおいても期待度は大きく分かれている。
以上、見てきたように、この618商戦において参加企業も抖音への期待は決して小さくはないことが見て取れる。
しかし同時に、老舗プラットホームの持つ販売力も捨てるわけにはいかず、最大手T-Mallに注力しつつも抖音の様子を見た商戦であったといえる。
抖音では「興趣電商(興味EC)」という新たなECモデルをより強化し、それに伴い現有のショート動画、ライブ機能も調整が加えられ下半期の商戦に臨むことが予想される。
プラットホームの垣根が取り払われつつある中で、その存在も大きくなっていきそうである。