2020年は中国の観光、トラベルリテール業界に非常に大きな事件が2つあった。1つはもちろん新型コロナウイルスであり、観光業界に深刻なダメージを与えた。
しかし、全く逆の盛り上がりを与えたのがもう1つの事件。
すなわち「海南島離島免税制度」の拡大である。
免税上限の増額、品目の増加などの要素で、中国国内の新型コロナウイルス抑え込みが見えてから一気に火が付いた。
今回は中国の観光、トラベルリテールにおける注目ワード「海南島」を、トレンドExpress社の最新レポートをベースに見ていこう。
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コロナ禍の夏休み 中国の旅行ニーズをクチコミから見る
▼今回活用している『魅惑の海南島白書』に関してはこちらから
目次
海南島大ブームをもたらした離島免税政策拡大
まずは2020年にわかに注目を集めた海南島の離島免税制度をおさらいしておこう。
離島免税制度自体は2011年から施行された、中国国内でも空港などと同様に免税でショッピングを楽しめるというものである。
海南島(海南省)の三亜市などには免税店が作られ、観光で訪れた消費者向けに免税の海外ブランド商品の販売などが行われていたが、その範囲が2020年7月から大きく拡大された。
免税対象金額を、1人年間3万元に設定したものを10万元に引き上げ、また対象となる商品も38品目から45品目へと拡大。これによってスマートフォンなどの通信機器も免税対象となった。
さらに、免税の条件となっている「単価8000元まで」との規定も撤廃され、高額商品も免税対象とされたのである。
そして起こったのは、中国消費者において「海南島観光ブーム」が到来した。
もちろん、新型コロナウイルスの影響で海外旅行ができないという背景もあるが、とにかく「海南島で免税ショッピング」が一躍トレンド入りを果たした。
トレンドExpressが販売している独自調査レポート『魅惑の海南島白書』ではオープンデータから、海南島離島免税制度拡大以降の観光状況を以下のようにまとめている。
【グラフ】海南島訪問人数及び観光総額※(2020年6月~2021年5月)
出所:『魅惑の海南島白書』(トレンドExpress)より抜粋
2020年6月には旅行者数延べ396万人程度であったものが、7月以降増加を始め、国慶節・春節の2大観光シーズンを経て、2021年5月には延べ720万人台で推移している。
1年足らずで実に倍近い伸びである。
月ごとの観光総額(一定時期において該当エリアが観光客に提供する製品・サービスの合計売上)も、離島免税拡大前の6月は47億元だったものが、2021年5月には145.14億元と3倍以上の伸びを見せている。
さらにこの数字を並べてみると、2021年に入って延べ人数は観光シーズンよりも落ち着きを見せているが、観光総額においてはシーズン中に近い金額を維持しており、1人当たりの消費単価が増えていることが予想できる。
まさに2015年ごろに起こった「爆買い」が、海南島に場所を変えて再現されているのである。
続いて『魅惑の海南島白書』から、クチコミ分析部分をピックアップして見てみよう。
SNS分析から見える海南島観光の姿
『魅惑の海南島白書』では、Weiboのクチコミから海南島観光の状況をリサーチしている。
そのクチコミを行うユーザーの属性を見てみよう。
【グラフ】海南島訪問男女及び年齢層割合(Weibo投稿者)
出所:「海南島」関連一般人Weibo投稿内容(2020年6月~2021年5月)を基に統計・分析(『魅惑の海南島白書』)
これを見ると性別では女性が6割、年齢で見ると20代・30代がほとんどである。
つまりは中国におけるもっともアクティブな層が海南島を訪れているのである。その目的をWeiboのホットトピックスから大別すると「観光」、「撮影(写真・動画)」、そして免税であることが見える。
出所:「海南島」関連一般人Weibo投稿内容(2020年6月~2021年5月)を基に統計・分析(『魅惑の海南島白書』)
つまりは20代、30代の女性が海南島を訪れ「旅行」をしながら「SNS映えする写真や動画を撮影」し、そして「免税」のショッピングを楽しむのが海南島旅行なのである。
スマホに化粧品。クチコミデータからも見える人気商品
では、中国の消費者は海南島でどのような消費を行っているのだろうか?『魅惑の海南島白書』では、海南島に関するクチコミから投稿数の多い商品群を整理した。
以下のグラフがその結果である。
【グラフ】ショッピング関連キーワードランキング
出所:「海南島」関連一般人Weibo投稿内容(2020年6月~2021年5月)を基に統計・分析(『魅惑の海南島白書』)
1位となっているのが携帯電話。スマホである。
2020年の離島免税拡大でスマホを含む電子機器も免税対象に含まれた。そのため、特にiPhoneへの注目が高まり、海南島での観光時にiPhoneを購入するという消費者が増加したのである。
それ以降は「美食」や「海鮮」、さらには現地特産品であるフルーツなど、そして「不動産」が並ぶが、注目すべきはやはり「化粧品」が上がっているという点だろう。
海南島におけるの注目はもちろん特産品を楽しむという点もあるが、免税対象となっている「携帯電話(iPhone)」と「化粧品」であることがデータからも見て取れる。
ただ、課題となっているのが、こうした離島免税を利用して化粧品を大量に購入し、内地に戻ってからTaobaoなどで売りさばく悪質な転売ヤーの存在。
離島免税においては、こうした「個人での消費を目的としていない免税購入(転売目的)の内地持ち込み」については「密輸行為」と見なしており、7月の拡大制度施行直後など、複数回にわたって摘発が行われている。
2021年7月にはこうした転売ヤーへの対応に新たな施策が打ち出された。
8月1日から化粧品や高級酒などの離島免税商品に対して、専用のQRコードが貼付され、購入場所・購入時間・購入者などの情報が登録されることになった。
これによって商品と購入者を一元管理できるようにしようというのであるのであるが、ここにも海南島を「純粋な観光消費の場にしよう」という政府の狙いが見える。
実際、今後は海南島居住者も免税で購入できるようになる「免税エリア」を構築するという構想もなされているために、その健全な実行のための布石と見る報道も中国国内で見受けられる。
この施策がどこまで及ぶのか現時点では未知数だが、一部の転売ヤーはいったん行動を控えているとの情報も入っている。
上記、増加している観光消費の一定レベルをこうした転売ヤーなどがもたらしていることは政府も知っているはず。
それを捨ててもなお、転売ヤー抑制施策を打ち出した点は、その「本気度」を見せているという事にもなるだろう。
今後は、単純な消費動向だけではなくこうした国内免税に関する国の施策にも注目が必要となる。
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コロナ禍でも衰えない訪日旅行への関心も予断を許さない現状が
※今回引用した、海南島に関連するデータを詰め込んだトレンドExpress社の『魅惑の海南島白書』、詳細はこちらより。