中国のZ世代におけるファッションアイテムとなっている美瞳カラーコンタクト。その市場は現在、大きく変わりつつある。
その変化の代表的なものが、新鋭ブランドの台頭である。
今回は資金調達を行い、一気にマーケ活動を活発化させている注目の美瞳ブランドをクチコミ分析してみた。
tool:Weibo
期間:2020年8月~2021年7月
▼前回までの記事は
中国Z世代の「瞳」を彩る新たな市場に資本も注目
中国Z世代の「瞳」を彩る新たな市場~クチコミから見る中国カラーコンタクトニーズ
目次
資金調達でマーケティング活動を急拡大
現在、中国のコンタクトレンズ市場でその動静が注目されているのがブランド「Moody」である。
前回の「美瞳」のクチコミ調査でも名前が挙がっていたが、Z世代を中心に人気を集めている新鋭ブランドである。
同ブランドは成立こそ2019年と3年目の若い会社である。
しかし、2020年6月にはエンジェルおよびラウンドAで6,000万元を調達。さらに2021年3月にはラウンドBおよびB+で3.8億元を一気に調達し、本格的にマーケティング活動を強化している様子である。
Weiboのクチコミ簡易分析にもその様子が見えている。以下のグラフは同ブランドのクチコミ件数の月次推移である。
【グラフ】Moodyのクチコミ件数推移
出所:Trend Express China調べ
これを見ると2020年は2,000件弱程度。ダブルイレブン時にはそれが3,000件を超えるレベルになっている。
しかし2021年3月のラウンドBの資金調達が終了した時点から、クチコミ件数は徐々に上向きに向いており、2021年6月に入ると618商戦もあり、一気に3万件を超えるまでに急拡大していることが見て取れる。
おそらくは資金調達を果たした同ブランドは、その資金をマーケティング(主にSNS、オンラインなど)に一気に投下し、その活動を活発化させたものと考えられている。
調達した資金を一気にマーケティング領域および商品開発に投下し、市場を抑えにかかるというのは、コスメ業界における「完美日記(PerfectDiary)」以降、中国の新鋭ブランドの常套手段となっている。
また出資側も、ブランドがこうした動きをし、市場を押さえていくことでリターンを期待できるといった思惑もある。
徐々に大きな利益が望める投資案件が減りつつあるといわれている中国で、こうした新市場への投資はベンチャーキャピタルなどの機関投資家にとっては注目を集めており、新鋭ブランドが育ちやすい環境にあるといえるだろう。
Moodyもこうした潤沢な資金を基に、次々にマーケティング施策を打ち始めているのである。
クチコミのポジティブ・ネガティブ比率を見てみると、「美瞳」全体では15%近くをポジティブなクチコミが占めているが、Moodyでは5.2%と若干低い値になっている。
【グラフ】「美瞳」と「Moody」クチコミのポジ・ネガ比率
出所:Trend Express China調べ
その分ネガティブ比率は低い値に抑えられているが、大部分が「ニュートラル」となっている。
つまりは、消費者としては大々的なマーケティングを始めた同ブランドの商品を「よいかどうか」冷静に見ている状態と考えることができる。
今後は、こうしたニュートラル層を体験やその共有によって「ポジティブ化できるか」という部分が課題であり、同ブランドの今後のマーケティングの中心となっていくように思われる。

T-Mallにおける同ブランド旗艦店
コンタクトの悩みを突いたメッセージ
では、同商品のクチコミキーワードを見ていこう。下の表が、上位30件である。
【表】「Moody」クチコミキーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
気になるのは商品の「直径(大きさ)」。自身の瞳のサイズに合うか否かなど、気になるポイントである。
同時に「含水量」や「保湿」など、コンタクトレンズ着用時の注目ポイントが上位に来ており、「つけていても目が乾かない」というメッセージを打ち出していることが見て取れる。
同ブランドに関する投稿を見てみると、「コンタクトレンズって目が乾燥したり、異物感があったりするよね。でもMoodyのカラコンは潤いがあって、付け心地もいいし……」といったように、コンタクトレンズのよくある悩みを訴えつつ、同ブランドの長所である潤い感などを強調するパターンが多い。
「潤いのない」や「異物感」など、一見ネガティブなコメントが見られているのは、こうしたメッセージ発信によるものであると考えられる。
定番の見せ方ではあるが、コンタクトレンズのようにユーザーの気になるポイントが集中している商品では効果的なメッセージ発信であると考えられる。
小紅書などを含め、極めて広範囲へのマーケティング、UGC情勢を行いつつある同ブランドであるが、前述したようにこうしたポジティブ体験クチコミを増やしていくのではと予想される。
IPコラボで一気に加速したマーケティング
こうしたMoodyだが、マーケティングにおいては積極的な戦略に打って出ている。
その中で大きなものが「IPコラボ」である。
同ブランドは618を控えた2021年5月から「Line Friends」とのコラボレーション商品の販売を始めた。
主にパッケージにLine Friendsのキャラクターをデザインしたもので、複数のカラーを備えたシリーズ商品となっている。
中国国内ではSNSとしてのLINEは使用できないが、IP、すなわちキャラクターとしてのLine FriendsはZ世代を中心に浸透しつつあり、こうした層へ向けて「かわいい」を主体とした訴求を展開している。
冒頭の月次のクチコミ件数では、2021年5月から急速に増加しているが、こうしたIPコラボも影響していると考えられる。
新鋭ブランドとして話題を盛り上げ、ターゲット層の注意を惹く意味でもIPコラボが非常に多くの役割を果たしているものと考えられる。
それ以外にも、中国国潮ブランド「SMFK」とコラボ商品を発表。上述のLine Friendsとは正反対のシック、クールなイメージの商品も打ち出している。
これは、カラーコンタクトを使用する層(主にZ世代)が、単純に「かわいい」や「華やか」だけではなく、三坑に「ゴシックロリータ」が含まれるように、クールなイメージを求める層も存在していることから、異なる2つの層を共に取り込もうという動きである。
T-Mallにおける同ブランドの販売件数を見てみると、販売件数においては華やかなカラーのものの件数は非常に多い反面、SMFKコラボ商品の販売件数少なく、ニッチ商品となっていると考える。
今後、同ブランドがカラーコンタクト業界における「完美日記(PerfectDiary)」となれるのか。
中国Z世代のトレンドを図る上でも、そのマーケティング、商品開発などは注目しておきたい。