【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース

常に数多くのものがブームとなり、そのたびにネットで話題となる中国のZ世代消費。現在も、その消費から社会的な課題として見られているアイテムがある。

それは「スニーカー」。

中国のZ世代を中心とした若者世代では突如、スニーカーへの興味関心が増加。それに伴い、人気モデルなどが投機の対象となるほどの騒ぎを見せている。

今月は中国で巻き起こっている「スニーカー騒動」を見ながら、中国Z世代の消費嗜好を考えてみよう。

小売価格の40倍も! 加熱する「靴炒め」

中国でスニーカーへの投資が過熱している。

といっても、スニーカーブランドへの出資ではなく、一般消費者が高額を出してスニーカーを買い求めているという現象が、中国で起こっているのである。

 

この現象はこれまで起こった投機ブームに沿って「炒鞋」と呼ばれている。「炒」は元来、料理の「炒め物」の意味合いだが、高温で焙ってその「熱量を上げる」といった意味合いで、値上がりを目的とした投資に使われる。

もっとも有名なものは「炒房(不動産投資)」である

 

日本では1990年代半ばに、ナイキ社の「エアマックス」が大流行し、それを穿いている人からその靴をはぎ取るという暴力事件にまで発展したことがあった。

中国ではこうした暴力事件こそ起こっていないが、「炒鞋」の呼び名にふさわしく、転売によって当初の小売価格の数倍から数十倍の価格で取引されるという異様な現象として登場している。

 

すでに2021年9月下旬にはこの「炒鞋」が「小売価格1599元のスニーカーが約7万元に」といった見出しで中国国内メディアにも取り上げられている。

実に40倍もの価格上昇である。

いったい誰が買っているのかといえば「95後」、いわゆるZ世代の若者たちなのである。

 

そもそも現在の若者たちの間ではストリートファッションが人気である。

背景にあるのは抖音(Douyin)などのショート動画アプリで、軽快なラップミュージックやストリートダンスなどは、若者たちにとってファッショナブルなトレンドとして定着。そうした動画に映し出されるストリートカジュアルもまた、人気を高めていった。

 

そのなかで注目されたのが、イケてる若者の足元を飾るスニーカーである。

 

デザイン性にも優れ、特に「自身の個性を表現する」若者にとって、オシャレなスニーカーは必須アイテムとなっていた。

さらにそこに限定デザインモデルなど、より希少性の高い商品が登場することで、熱狂し、それを手に入れようと躍起になるのである。

Z世代を狙い撃ちにしたECプラットホームがスニーカー投資を生んだ

この「炒鞋」の渦中にあるのがスマホ用アプリ「得物」である。

同アプリはTaobaoなどと同様に、BtoC以外にも個人が出品して商品を販売できるCtoCモデルを併せ持ったECプラットホームである。

ただし、Taobaoと異なるのは、ターゲットをZ世代を中心とした若者層に限定し、取り扱う商品も前述のようなストリートカジュアルファッション、特にスニーカーからスタートさせたことである。

 

さらには、中国CtoCプラットホームによくある「偽物」や「劣悪品」によるトラブルを避けるために独自の商品鑑定チームと鑑定モデルを備え、正当な取引を実現しているという。

 

しかし、今回は「炒鞋」騒動を引き起こしたアプリとして、メディアからはやや厳しい目が向けられている。

 

実際に同アプリを除いてみると、大部分の商品は一般小売価格もしくはそれ近い価格で販売されている。

 

しかし、眺めていく中で一定のキーワード検索をすると、とんでもない価格の商品が飛び込んでくる。

例えば、台湾アーティスト「ジェイ・チョウ(周傑倫)」と同モデルのスニーカーには3万元(約50万円)近い値段が付けられている。

アプリ上には通常販売価格も明記されているが、その値段は「1,300元(約2万2000円)」程度。約25倍の金額となっている。

同時に「求購」という表示も表記されており、希望購入価格として表示価格より若干低い2万6000元などの金額が表示されている。

ちょっとしたオークション感覚だが、スニーカーの値段とは思えない金額が並べられているのである。

 

中国でECと言えばどうしてもTaobaoやT-Mall、JD.comなどの大手サイトを考えてしまうが、中国における消費の中心層の変化によって、この「得物」のように、よりターゲットを狭めたプラットホームが登場していることも覚えておきたい。

コレクション欲、そして入手欲に目覚めた世代を理解、攻略するには

さて、なぜこの「スニーカーブーム」に注目したかを、Z世代の消費嗜好と合わせて考えてみよう。

それはこの消費はこれまでの80後や90後世代では起こりえなかった消費の様相を呈しているからである。

 

不動産をはじめとして理財商品、自動車、さらには「高級」化粧品やブランドなど、対象物に詳しくない人が聞いてもすぐに「高価」であることが分かる商品にお金を費やすことが一般的だった。

またその目的も、自分が買って楽しむというよりは、自身のステイタスをよりひり範囲の人に向けて見せるという目的も多分に含まれていた。

 

高額を出して購入するには、より幅広い人たちに高価であるという価値が認知されていることが重要だったのである。

 

さらにその購入にあたっては、特に価格面ではシビアであった。

広く知られている者だけに、その価格も公開されているものだ。いわゆる市場価格という物である。

ステイタスであるだけに効果であることは受け入れるが、市場価格よりも高い場合、手出しを控える傾向が強かった。むしろ、「高級ブランドは、モノは確かなのだから、若干でも安い方に…」という意識が強かったといえる。

 

しかし中国のZ世代はそれとはやや色を異にしている。

 

まず購入の基準となるのは「自分が好きか否か」である。

周りの人が理解してくれているかよりも、あくまでも自身の嗜好が中心なのである。特に「コレクションをして楽しむ」という行為が本格化した世代であると考えられており、「好きなスニーカーを1足持っている」のではなく、「自分の興味対象となっているものを集め、コンプリートしたい」という欲求を持っている世代なのである。

 

その代表的な消費が「盲盒」ブームであったように考えられる。


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ここに初めて(?)中国の消費に「プレミア」という概念が生まれたのではと、筆者は考えるのである。

プレミア価格というものは、その対象商品に強い興味・所有欲を持つ者にとって有効な価格である。

ただ、大衆的というよりは、やや狭い範囲の消費者で起こりやすい。

 

簡単に言えば「欲しい人にとっては大枚をはたいても買いたいが、興味のない人にとってはどんなに安くても手は出さない」という文化。

それが中国において顕在化してきたのが現在のZ世代なのである。

 

こうした環境においては、単純に「Z世代をターゲットにする」という認識ではなく、Z世代の中でどういったグループが自社の商品を気に入っているのか(もしくは気に入ってくれるのか)の明確化がより重要であるといえるだろう。

 

その明確化自体は市場調査、分析などの深い考察を経なければならないが、しかし同時にそれが明確になってしまえば、そのグループに向けて限定版や有名人、人気IPとのコラボモデルといった形で、消費者の購入熱量を上げていくことも可能となるだろう。

 

次回はこうした中国Z世代のスニーカーニーズを、トレンドExpressの簡易クチコミ分析を使ってみていくことにしよう。

▼次回の記事はこちら
【中国Z世代ライフスタイル】 中国スニーカーブームをクチコミ分析で見てみる

中国Z世代のニーズを詳しく知りたい、より中国消費者の深いニーズを探りたいという方はこちらまでお問い合わせを。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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