中国で突如巻き起こったスニーカー転売事件。
では、そもそも中国消費者はスニーカーにどういった印象、ニーズを持っているのだろうか?
今回はトレンドExpressの持つクチコミ分析ノウハウを用いて、スニーカーそのもののニーズを簡易分析してみた。
▼前回の記事
【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース
目次
スポーツファッション業界でも重きをなしているスニーカー
そもそも、中国においてスポーツファッションは急速に成長している。
ユーロモニターと中国のシンクタンク・前瞻諮詢の調査によると、スポーツファッション全体の市場規模は2007年の790億元から2019年には3,166億元と、12年間で4倍の伸びを見せていることが分かる。
【グラフ】中国スポーツファッション市場規模の推移(単位:億元)
出所:ユーロモニター・前瞻諮詢
特に2019年以降は中国国内のスポーツブランドである「李寧(Lining)」や「安踏(Anta)」などもZ世代の嗜好に合わせてデザインチェンジを図っており、スポーツファッション市場を底上げ。
単純なスポーツブランドから、カジュアルファッションのアイテムとして流行を見せている。
さらには一線都市などでは抖音の流行によってストリートファッションの拡大もあり、よりカジュアルファッションとしてのスポーツブランドが浸透しており、スポーツファッション自体の継続した拡大が見込まれている。
そのうちのスニーカー、スポーツシューズ市場の拡大を感じさせるのが下のグラフである。
【グラフ】スポーツファッション市場におけるアパレル類とシューズの比率推移
出所:出所:ユーロモニター・前瞻諮詢
これはスポーツファッションの市場規模におけるアパレル類とシューズの比率を示したものである。その数値を見ると2013年、2014年ごろまではウェアなどのアパレル類が半数以上を占めていたが、徐々にシューズが伸び、2015年には逆転。
その後はシューズ類が6割近い比率に達していることが見て取れる。
上記のスポーツファッションの市場規模と単純に掛け合わせると、スニーカーの市場規模は2019年には1800億元程度になっていると考えられる。
つまりスポーツファッション業界自体がスニーカーを中心に回っているのである。
クチコミ分析から見るスニーカーニーズは?
トレンドExpressでは自社の中国SNSクチコミ分析のノウハウを利用し、Weibo上で中国のスニーカーに関するクチコミを簡易分析を実施した。
期間は2020年8月から2021年9月の1年間である。
その結果が下の図である。
【グラフ】「運動靴(スポーツシューズ・スニーカーなど)に関するクチコミ件数推移
出所:TrendExpress China調べ
これを見ると、2021年2月、3月からクチコミ件数が上昇しているのが見て取れる。
3月は政治問題にも発展した中国国産コットンの使用をめぐって、欧米大手ブランドが中国の消費者からの批判にさらされた時期である。
そして5月ごろは中国で徐々に若者世代をターゲットにした「炒鞋」が問題視され始めたころで、スニーカーのクチコミが上がっている。
ただ全体としてみると、2021年は前年よりもクチコミ件数が多い傾向にあり、Weibo上での関心が前年よりも高い状況にあると言えるだろう。
ではそのスニーカーと一緒にどのような言葉がつぶやかれているのかをチェックしてみよう。
【表】「運動靴」関連キーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
まずは「跑歩鞋(ランニングシューズ)」が上位に出現する。
近年、若いホワイトカラーを中心にランニングが流行しているのもあり、ランニングシューズの需要が増加している。
2000年代中ごろまでは「ランニングに専用のシューズがある」という事を知らなかった中国消費者だが、ランニングの流行とともに「本物志向」が高まり、ランニング専用のシューズが市場の認知を得たことになる。
興味深いのは「百搭(コーディネートしやすい)」というキーワードである。
これは自身が着ているファッションに合わせやすいシューズを選ぶといった意味合いで、スニーカーやスポーツシューズを専門シューズとしてではなく、カジュアルファッションアイテムとして見る傾向が強いことを示している。
小紅書(RED)で「運動鞋搭配(スニーカーコーデ)」と検索すると、実に9万件以上のノートが投稿されていることが分かる。
そこには自身のスニーカーと服を合わせたファッションコーディネート例が数多く投稿されており、男女問わず多くの若者がスニーカーをどのようにファッションに取り入れるかのノウハウが披露されている。
また面白いのが「情侶(カップル)」。若いカップルではペアルックならぬペアシューズという形で、2人で同じモデルのスニーカーを履く、という行為も行われている。
こうした習慣をターゲットに一部のシューズブランドでは1つのデザインモデルでメンズ、レディース用にサイズの幅を広くとるケースも見られている。
ブランドを見てみると中国のスニーカーブランド「鴻星爾克(ERKE)」が上位に登場しているが、これには理由があり、別途詳しく分析してみることにする。
ただ、同ブランドを始め「特歩(xtep)」、「回力(warrior)」など国産のブランドが多い点には留意したい。
それ以外には「駱駝(CAMEL)」が上がっており、近年のキャンプやグランピングブーム、またアウトドア風ファッションなど、新たなニーズによる影響も見受けられる。
同時にレディースオフィスシューズブランドとして知られる「達芙妮(daphne)」も2019年からスニーカー市場に参入。
カジュアルファッションを好む若い女性や、女性の「通勤」用の靴として等、市場を広げつつあることが見て取れる。
靴そのものの気になる点といえば「靴底」や「中敷き」。
安物や有名ブランドのコピー商品(偽造商品)ではこうした部分のコストを削って作っているらしく、Taobaoで売られているニセモノの靴などはすぐに足が痛くなる(注:筆者の経験による)。
「除臭」というキーワードも、シューズ周りで注目しておきたいニーズである。
スニーカーなどは汗を吸うために、ニオイが気になるケースもあり、また夏場、大学新入生などは軍事訓練が義務付けられており、そこでの靴のニオイに悩むケースもある。
こうした靴のケアやお悩み解消ニーズも、今後の中国シューズ市場の中で成長していく可能性は高い。
話題の「炒鞋」。クチコミ分析で何が見える?
最後に少しだけ、話題の「炒鞋」にも触れておこう。
▼「炒鞋」についてはこちら
【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース
同様に「炒鞋」でWeiboのクチコミ簡易分析を行った。期間も上記スニーカーと同様2020年8月から2021年9月までである。
Weiboクチコミ件数としては、報道などがなされた2021年3月および4月に急激に増えている。しかし、それ以降も500件近いクチコミがなされており、その水準は2020年の状況を若干上回っている。
【グラフ】「炒鞋」クチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
また、そのクチコミのポジティブ、ネガティブ比率を見てみると、当然だがネガティブ比率は非常に高く、20%を超えている。
しかし、ポジティブなクチコミも7%あり、一種の「ビジネス」として受け入れているという一面もありそうである。
【グラフ】「炒鞋」クチコミのポジ・ネガ比率
出所:Trend Express China調べ
またクチコミ件数は少ないものの、キーワードは以下のようになっている。
【表】「炒鞋」クチコミキーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
これを見ると「案件(事件)関係者」や「内通者」、「経済犯罪捜査」など、非常に生々しいキーワードが上位に登場している。
上記ポジ・ネガにも見えるように、転売に関してはネガティブなイメージがあり、かつ価格を釣り上げる行為は中国では犯罪行為に類する。
そのため、今回の「炒鞋」騒動においてはビジネス・流通の関連部門が目を光らせているのである。
またブランドを見てみると「Nike」および「李寧(Lining)」の国際&国産2大ブランドの名前が挙がっている。
Nikeは同騒動のきっかけとなったAir Jordanシリーズなどのほか、中国限定デザインなどの限定品も多く、「炒鞋」の対象となりやすい。
李寧(Lining)に関しても同様で、特別モデルなどが転売者のターゲットとなっており、価格のつり上げ現象が起こっているブランドである。
当然のごとく、その“現場”となっているAPP「得物」をキーワード上位に姿を見せている。本来はスポーツカジュアルファッションにおける人気モデルを気軽に購入できるアプリとして登場していたが、現在は炒鞋における「首魁」となりつつある。
政府による明確な規制は行われておらず、その活動自体は続いている炒鞋。ただ、やはり価格のつり上げなどには眉を顰める消費者が多いようである。
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