多くの視聴者が注目した中国マーケティング最前線で戦うビジネスマンが登壇した9月のウェビナー。視聴者からは自社の課題と照らし合わせてを、率直な疑問、相談が発せられた。人気ウェビナー記事化3回目の今回は、当ウェビナーで交わされた視聴者とのQ&Aを一部だけ紹介しよう。
<登壇者>
宮下 和也
Profile
佳麗宝化粧品(中国)有限公司 董事 事業統括本部統括本部長
兼)花王中国投資公司 化粧品事業部市場本部長
96年:花王入社 家庭品(パーソナルケア)事業本部
※スキンケア~ヘアケアの各ブランド戦略を担当
09年:KCMK(販売戦略部門)・化粧品担当
※日本国内の化粧品販売MKを担当
12年:ソフィーナ事業部 ブランドマネジャー
20年:佳麗宝化粧品(中国)有限公司(カネボウ中国)
董事 事業統括本部統括本部長
兼)花王中国投資公司 化粧品事業部市場本部長
<モデレーター>
濱野 智成
Profile
トレンドExpress代表取締役社長
大学卒業後、世界有数のコンサルティングファームであるデロイト・トーマツ・グループに入社。120社以上への経営コンサルティング支援を行い、グループ最年少のシニアマネージャーとして東京支社長、事業開発本部長を歴任。株式会社ホットリンクに参画後、COO(最高執行責任者)としてグローバル事業、経営企画、事業開発、戦略人事、コーポレート部門を統括。新規事業として立ち上げた株式会社トレンドExpressをカーブアウト型で分社化して代表取締役社長に就任。累計資金調達12.8億円を先導し、クロスボーダービジネスの先駆者として東京と上海をベースに活動中。
▼前回までの記事は
見えない中国を見える化するデータ分析とは? 中国データを語るウェブセミナーリポートVol.1
見えない中国を見える化するデータ分析とは? 中国データを語るウェブセミナーリポートVol.2
目次
必要な情報を商品開発に素早く落とし込む術とは?
Q:データから見えてきた情報をコミュニケーションや販促などのマーケティング施策に生かすことは可能かと思いますが、変化が速い中国市場において、時間を要する商品(開発)戦略への落し込みはどのようにされていますか?
宮下 例えばTMICのデータであるとか、また以前は調査をすると設計から実装して、それを集計してまとめるまで一定の期間かかっていましたが、今はデジタル化やプラットフォーマーと共同によって、かなり早く上がってくるということができています。
商品開発の時間短縮という意味では、そういう仕組みを活用しています。
ただ、様々な決済スピードを上げる事と、しっかりとした品質の担保する事は、一部で
トレードオフの関係にある場合もあります。デジタルを活用する事で時間短縮できる部分もあれば、まだまだ時間が掛かってしまう部分もあります。
濵野 私も結構プロジェクトのなかでこのご質問のようなケースに居合わせたことがあります。商品開発は足が長いので、2、3 年後どう読み込むのかといった話は、結構大事なテーマかなと思います。
そうした中でいうと「欧米で流行っているものが中国に来る」といったことは一定レベルであるかなと。
例えばSDGsのようなものがひとつ。今欧米の方が確実に先行していると思いますが、今後中国でも流行してくる可能性もあるような気がしています。
それ以外では現在中国の一線都市で流行ったものが二、三という風に流れていくもの。さらに、今後はその逆流、つまり地方都市で流行ったものが一線都市に逆流してくるといった可能性もあります。
すなわちエリアというセグメントでトレンドの発祥が中国でどのように伝播しているのかというとのがあると思います。
また年代感というか、例えば20代で流行ったものっていうのは、30代、40代に普及しうるのかなど、今流行っているものがどこに行きそうなのかを見ていくというのは商品開発分析をする時には大事な切り口のひとつかなと思っています。
あとはカテゴリーですね。
中でも商品分析の中で、当該カテゴリーの市場のインサイトがどうなっているのかということがすごく大事かなと思っています。
価格競争に陥りがちな中国マーケティング。それを避ける方法は?
Q:中国ローカルブランドが確実にシェアを伸ばしてきている中、販促競争もこれまで以上に激しくなっているように感じますが、販促費にも限界がある中で消耗戦にならない為に今後すべき対策、ライブコマース等も含め価格を下げずに売上を上げる為に実施していることがあれば、ご教示いただきたいです。
宮下 皆さん、日々同じようなことを悩まれているんですね(苦笑)。
確かにローカル企業が低価格な形で入ってくるということで、競争が激しくなり、こちらも価格競争という形になっている一方で、化粧品の業界においては、特に新型コロナを経て、昨年ぐらいから世界的に行き場を失ったマネーやリソースみたいなものが、ほとんど中国に流れて来ています。
結果としてプレステージ ブランドがマスブランドの領域に入ってくるという、日本のマスブランドとしては両ばさみの状態となっており、確かに競争も激しくなっています。
具体的な競争の激しくなり方としては、投資に対してのトラフィック、例えばECの場合いわゆる ROI がものすごく低下してきます。なので、結果的に投資に対してのそのトラフィックが減っている以上、着実に GMV、セルアウトを上げていくには、コンバージョンを上げていくか、客単価を上げるしかなくなります。
そのコンバージョンを上げていくという点においては、やっぱり質を一個一個上げていくこと、量的なマーケティングの計算式もすごく発達しているし、数学的世界も非常に精緻化されているんですけど、例えば直播(ライブコマース)を例にとって見ても、もしかしたらある人にはどのブランドも同じようなライブコマース映像に見えるかもしれない。
「ライブコマースを一回やる」という場合、その内容自体は「一回は一回」、同じかもしれないんですけど、その一個一個の在り方あり方や質を改善していかないと価格競争にだけ埋没して行きますし、それこそおっしゃる通り消耗戦になっていくと思います。
濵野 10年スパンくらいで見たときの転換期で言うと、商戦一極主義から「平時にどれだけ商戦に偏らせない」、「商戦での GMV に頼らない」という戦い方がすごく重要になってきているなと思っています。
商戦で見ると、コンバージョンレートがあるって結構当たり前の話かなと思っていました。それで安くなっていることと、消費者みんなが買う時期だからというところだと思うんですが、その商戦期以外の平時にどれだけそのコンバージョンを上げに行くかということです。
コンテンツが何かとか、伝え方が何かとか、本ウェビナーでも話していた「質観測」でいえば何に響いているのかってことを見つけ出すということにこだわっていけば行くほど、コンバージョンレートも改善していけるように思います。
また「ハイブランド化する」と言ったら変ですけど、そのブランドを「買いたい」と思ってもらうことが何よりも重要。
価格、例えば本当に“売る”ソーシャルバイヤーさんって、旗艦店とそこまで値段変えずに、逆にブランドの体験を創出するとか、そのブランドの価値をどれだけ引き上げられるかといった手法で、その店舗自体をブランディングするケースもあったりするんです。そういう店舗さんを味方にしていくっていうのが大事だったりとするわけです。
そういう商戦期依存ではない、プラットフォームも多様化してくる状況を見ていると、本当に質的観測というのが、すごく大事な時代になってきているんだな、という風に感じます。
中国スピードについて行くための一番のネックとは
Q: 事業スピードの速い中国でついていくために、事業として基本的に必要な要素をいくつか挙げていただけますか?また、そのスピードのトレードオフとなっているものとしては、品質以外ではどのような要素だと感じられますか?
宮下 決済スピードは会社の規模にもよるかもしれないし、会社の決済段取りの決まり事に影響すると思います。
弊社の場合ではできるだけあのスピード落とさないように、できるだけ決済できる範囲とか、ローカライズするであるとかいったものが必要になるのかなと思っています。
ただそれだけ中国事業で判断して、決済して、実行するだけの力と能力が備わってないと、それがなし得ないし、そのためにもローカル中国として、自分たちの資質を高めるということが大事かなと感じています。
そういったためにも、この中国における組織自体が自分たちの実力を上げていかないと、スピードが結局止まってしまいます。
すべてを上に推し量って判断をゆだねていると、スピードが落ちます。事実、生々しい話させていただくと、プラットフォーマーから「このリソースをいくらでどのぐらいのリターンであげるけど、 15分以内に決めて」といった話がよくあるので、そういうものをある程度の自分たちが決済範囲の中でスピード速く回せるっていうのも、チャンスロスの防止という意味でよいのではと思います。
なるべくこちらの中国からも TP であったり協力会社に対して委託をしていますが、できるだけ信用できる、そういうパートナーを見つけて、なるべく任せられるものは勇気をもって任せるスタンスでいます。
ある程度早く回していかないと、すべてをクオリティーチェックで目くじらを立てていると、1プロモーションで100コンテンツ作らなきゃいけないとか、そういった部分はある程度信用関係の中で任せると割り切らないといけないかなと思います。
一方で、失われているものとしては、ひとつひとつのクオリティーは正直どこかで落ちている可能性はあります。なので、そういうリスクも兼ね合いの中で、スピードを重視して行くっていうところがあるんですね。
濵野 すごくグッとくる話だったなと思います。
私も1つ目は同じように、任せられる人に権限移譲することかと思います。
結構選りすぐりのプレイヤーの方々、例えば本社役員が中国に行くとかっていうケースもいくつかあったりします。
宮下さんのように、いわゆる事業部長としていくつかの事業部を持たれている方、化粧品のエースと言われている方が現地の責任者になるなど、その場で現地で決済が行われていると、 いちいち本社にお答えを取らなくてよくなるんですね。
そういった権限移譲、パートナーへの信頼と移譲もそうだと思います。任せられる人、任せられるパートナーにどんどん権限委譲して行かないと、スピードが追いつかないですよね。
2つ目はローカライズといった、やや大きなテーマになるかなと思います。
やっぱりあのわからないことがあることによって確認が必要な事が生じますが、現地のメンバーの活用で結構うまくいってる会社さん、ユニクロさんなんか代表的な例だと思いますが、そういうローカライゼーションといったものは結構重要なテーマかなと思います。
3つ目としては情報戦というか、「わからないことを確認するための時間ロス」というのもすごくあります。
ただ、常に情報をデータとして取り込んでおくと、意思決定や「勘」ですかね、「きっとこうだよ」となっている仮説に対して敏感に反応できたりするので、データに常に触れておくと言うか、常に情報量を max にしておくのは大事なのかなと感じます。
上記以外にも白熱した「データと中国市場」を語ったウェビナー。全編は動画で配信中。ご興味のある方はこちらへ。