中国でZ世代を中心に加熱するスニーカーブーム。
そのスニーカー市場において中国を含めた世界を牽引しているのが世界の2大スポーツブランドのNikeとAdidasである。
両ブランドは2021年3月に政治的な影響を受け、特に前者への批判が高まったが、その結果はクチコミにどのように影響したのだろうか?
トレンドExpressのクチコミ簡易分析機能を用いて両ブランドの状況を見てみた。
▼前回までの記事はこちら
【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース
【中国Z世代ライフスタイル】 中国スニーカーブームをクチコミ分析で見てみる
目次
新疆綿問題の渦中にあった2大ブランド。クチコミ状の影響は?
すでにスポーツブランドと言えばNike、Adidasの2ブランドがまず上がる。
中国でもそれは同様で、この2ブランドが市場を牽引しているような状態である。特に中国のZ世代はストリートカジュアルとしてのスポーツファッションを好む傾向が強く、Adidasなどはシューズだけではなく、スポーツウェアもファッションとして受け入れられている。
しかし2021年3月、この2ブランドは中国市場において逆風に晒された。
「新疆綿問題」である。
同問題に際し、両ブランドともに本社のコメントとして新疆ウイグル自治区の綿を使用しないことを明言。それによって新疆の綿生産に強制労働は存在しないとする中国国内においてはネットなどを中心に多くの批判を受けている。
では、クチコミで見てみるとかの事件はどのように影響しているだろうか。それを知るためにWeibo上のクチコミを調べる簡易分析を試みた。
まずは両ブランドのクチコミ件数を月次で見てみよう。
【グラフ】Nike、Adidasの月次クチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
これを見ると、まずAdidasが2020年9月に新商品プロモーションなどを行った関係でクチコミ件数が一時的に伸びている。
その年のダブルイレブンにおいては両ブランドともT-Mallのスポーツブランド分野で上位を占めており、国潮ブームに沸く中国国内でも変わらない人気の強さを見せている。
その後、両ブランドとも安定した件数で推移しているが、2021年3月に急上昇しているのが見て取れる。
これはまさに「新疆綿」問題でアパレル業界におけるH&M、スポーツブランドではNike、Adidasが批判にさらされた一件である。
これを見ると2021年3月の、中国国内での報道や外交発言が増加した時期に関してはクチコミ件数が急激に増加しているのが見て取れる。
しかし4月に入ると件数は一気に「通常状態」に近しい件数にまで戻っており、データ上で見ると両ブランドに対する批判は一過性のものであったように見受けられる。
その裏付けとして、両ブランドのクチコミのポジネガ比率を見てみる。
直近1年間を通じたものであるが、事件以降の内容も含まれているため現時点での両ブランドに対する平均的な印象を見るための参考とすることはできる。
【グラフ】Nike、Adidasクチコミのポジティブ・ネガティブ比率
出所:Trend Express China調べ
これを見ると、いずれもニュートラルが主流であり、ネガティブな言論は5~6%程度にとどまっている。
おそらく2021年3月のみを取り上げるとネガティブ比率が高くなると予想されるが、1年を通してみると、事件の影響は決して大きなものではないと考えられる。
特にNikeに関しては事件時点では大きな批難を受けたが、ポジティブ比率としては10%を超えており、高い状況であることが見て取れる。
日本ではH&Mを始め、ナイキなどへの批判の模様が報道され、「今もそれが続いている」との誤解を生んでいる部分があるが、実際に加熱したのはその時期のみであり、中国政府やその傘下にある報道機関も、海外からの批判に対する反応の継続報道をしていないため、鎮静化を見たのであると考えられる。
かつて日中間が「氷河期」と呼ばれた時期があったように、両国間の交流・ビジネスは政治による影響を受けやすい。
こうした時に、一部の報道や印象だけで判断するのではなく、そういった時こそデータを活用し、市場を冷静に見ていく必要があるのである。
市場価値重視とファッションブランド。分かれるブランドイメージ
では続けて両ブランドのクチコミキーワードを見てみよう。
【表】Nike、Adidasのクチコミキーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
まず中国の特徴がよく表れているものとして「莆田」というワードが双方に見える。
これは広東省の地名であり、中国どころか世界的なスポーツシューズ生産の集積地である。2ブランドもこの地に一部のOEM生産委託をしているといわれており、中国における靴生産の聖地と化している。
同地周辺にはそうしたブランドシューズの素材生産企業などサプライチェーンが集中していることから、「周辺を一回りすればNikeの靴が作れてしまう」といわれている。
実際にそうした素材を集め、有名ブランドとほぼ類似デザイン・同品質の靴を生産し、Taobaoなどで低価格販売をしているケースもある。
これらは「莆田系鞋(莆田系シューズ)」と呼ばれ、安く程よい品質のスニーカーという印象を持たれているが、同時にNikeやAdidas、中国の李寧(Lining)などの有名ブランドを騙って販売するといった模造品も出回っており、Taobaoなどで購入する際には見極める目が必要と言われている。

Nikeの人気モデル「エアフォースワン」の真贋チェックを紹介する小紅書の投稿
両者のキーワードを比べてみると、若干の相違がみられる。
Nikeのキーワード上位には「限定」や「原版」、「収集家」、また下位ながら人気商品の「エアフォースワン」といった、前回までに述べたような「炒鞋」の影響が色濃く見られる。
▼「炒鞋」についてはこちらを
【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース
それに比してAdidas側は「バスケットシューズ」や「ランニングシューズ」といった穿きたい靴のモデルや「経典(クラシックモデル)」といった、長期に渡って人気のデザインに関するクチコミが上位に上がっている。
またAdidasの「白いスニーカー」はコーデしやすく、またオシャレとして人気が高い。
ただ、Nikeに比べて市場投機の影響は若干低く、オシャレグッズとしてのスポーツブランドの色合いが濃くみられている。
2021年にいろいろな議論を呼んだ世界の2大スポーツブランドだが、それぞれ異なる形で中国消費者の注目を集めている様である。
次回は国内での人気が高まる中国国産スポーツブランドをクチコミ分析する。
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