前回、NikeおよびAdidasの国際的2大スポーツブランドのスニーカーに関するクチコミをチェックしてきたが、中国市場においてその2ブランドの牙城を脅かす存在となっているのが中国国産のスポーツブランドである。
いずれも老舗ブランドながら、現在はブランドイメージを大きく変化させ、Z世代に浸透している。
今回は代表的な中国国産スポーツブランドのスニーカーをクチコミ簡易分析し、そのニーズを考えていこう。
▼前回までの記事
【中国Z世代ライフスタイル】 足元オシャレが奏でる狂奏曲~中国スニーカーブルース
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目次
好印象比率が国際的大手ブランドを圧倒
中国国産のスポーツブランドからは「李寧(Lining)」、「安踏(Anta)」、の2ブランドをピックアップした。
李寧(Lining)は中国における「体操王子」とうたわれたオリンピアン・李寧が1990年に立ち上げたスポーツブランドであり「中国版Nike」というポジションを得ている。
創始者の李寧自身、中国スポーツ界最初のスター選手であり、2008年に行われた北京オリンピックの聖火点灯者としても知られている。
安踏(Anta)はそれより若干遅く、1991年に福建省に靴メーカーとして立ち上げられ、1994年ごろからブランドとして「安踏(Anta)」を展開し始めた。
日本の伊藤忠商事とも事業提携をするなど、日本ともゆかりのあるスポーツブランドである。
1年間のクチコミ件数をNike、Adidasの2ブランドを含めて比べてみよう。以下は直近1年間におけるそれぞれのブランド名×スニーカーで得られたクチコミ件数総数である。
【グラフ】直近1年間の各スポーツブランドのスニーカーに関するクチコミ件数比較
出所:Trend Express China調べ
やはりこれを見ると国際ブランドが上位を占めており、国産ブランドは件数の面で海外ブランドの後塵を拝すことになっている。
【グラフ】各スポーツブランドの月次クチコミ件数推移
出所:Trend Express China調べ
月次のクチコミ件数に関してみてると、Nike、Adidasは月平均で900~1,000.それに対して李寧(Lining)、安踏(Anta)ともに平均500~1,000件弱程度で推移しており、若干の開きがある。
2021年3月に李寧(Lining)や安踏(Anta)のクチコミ件数の増加し、国際ブランドに匹敵する件数に達しているが、それはこれまでに述べた「炒鞋」に関する報道によるものであると推測される。
では、国産ブランドは世界の2大ブランドに太刀打ちできないのかというと、別の視点見ること実は中国国内において優位に立っている部分があることに気づかされる。
それはクチコミのポジネガ比率である。
【グラフ】各ブランドスニーカーのポジネガ比率の比較
出所:Trend Express China調べ
これを見ると、ポジネガ比率という意味では、国産2大ブランドはポジティブが20%を超え、李寧(Lining)に関しては30%にせまる勢いを見せている。
それに比してNikeはブランドのポジティブ比率としては高いものの、13%余りに留まっており、李寧(Lining)の半分以下の比率になっている。
つまり国産ブランドは、クチコミ件数という点では国際ブランドに引けを取っているが、その中身、ポジネガの印象から見ると、国際ブランドを大きく上回っており、クチコミをしている消費者の内、多くの支持を得ていることになる。
その背景にあるのは、Z世代を中心とした若いSNS世代が、ブランド名だけではなく個性、見た目重視へと変化している中で、デザイン性が劣ると思われていた国産ブランドも海外ブランドのコピー的存在から独自のデザイン発展を遂げ、同時に巻き起こった「国潮」、「国貨」ブームに乗ることができた点が大きいと考えられる。
李寧(Lining)や安踏(Anta)の、主にデザイン面の発展に対しては中国でも驚きを感じる消費者も少なくない。
やや年配世代から見れば「ずいぶんとカッコよくなった」という印象を持つであろう。
中国における近年の国内ブランドの声調に関しては、単純に「中国産だから」、「国内産が(行政面の)後押しを受けているから」といった短絡的判断ではなく、国産ブランドそれぞれの企業努力に関しても詳しく分析、参考にしていく必要があるだろう。
オシャレスポーツブランドへの脱却
ではこれら国産ブランドに、中国の消費者はどのような印象を持っているのだろうか?
クチコミキーワードを見ていきたい。
【表】李寧(Lining)、安踏(Anta)のクチコミキーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
これを見ると、李寧(Lining)はNikeに近い、ブランド先行型に見える。
代言人として活用した「肖戦」の名前が見えるほか、とにかくWeibo上で自分の穿いている靴を晒したがる小米(Xiaomi)の代表・雷軍(李寧(Lining)の靴もアップしていた)、また「代言人」といった、ブランディングキーワードが上位に上がっている。
それに対して安踏は「バスケットシューズ」、「ジョギングシューズ」といった目的別のスポーツシューズが状に上がっている。
また共通するキーワードとして「白いスニーカー」も上がっている。
これは、ファッションコディネートへのしやすさ、オシャレ感などから若い世代に求められており、こうしたキーワードからも同ブランドがかつての「海外のダサいコピーブランド」から、「ファッションにも使えるオシャレスポーツブランド」へと昇華したことをうかがわせる。
社会的な貢献活動がバズを生んだ国産スポーツブランド
2021年、にわかに注目集めた中国国産ブランドが鴻星爾克(ERKE)である。
中国における2大スポーツブランドはいずれも1990年代初頭にそのひな形が形成されていたが、鴻星爾克は2000年設立された、2大ブランドと比べれば比較的若いブランドである。
そのブランドが脚光を集めた理由を述べる前に、同ブランドのクチコミ月次件数を見てもらいたい。
【グラフ】鴻星爾克のクチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
これを見ると2021年7月にクチコミ件数の急増がみられる。それは同ブランドによるCSR活動によるものなのだが、その様相が非常に特徴的である。
7月、同社のCSR活動がメディアによって取り上げられた時期、7月後半から8月の日ごとのクチコミ推移を見てもらいたい。
【グラフ】2021年7月15日から8月25日までの「鴻星爾克」単独クチコミ件数
出所:Trend Express China調べ
これを見ると7月22日から24日かけて爆発的にクチコミが伸びているのが分かる。
この時期、中国中原エリアの河南省において数百年ぶり単位の集中豪雨が続き、それに伴い河川の大規模な洪水が発生。その様子は日本でも取り上げられた。
その際、同ブランドは被災者向けに総額5000万元相当の支援物資を寄付した。
そこまでであれば、単に企業の社会貢献活動で終わるのだが、その後ネットなどを通じ同社が「2020年の収益が2.2億元の赤字」、「2021年の第1四半期も6000万元の損益」であったことが伝えられると、「経営的に苦しい中で多額の寄付!」という部分がクローズアップされ、「このような(身を切って他者を助ける)企業をつぶしてはいけない」と中国消費者が立ち上がった。
同時期に行われた同ブランドのTaobao Liveや抖音直播では、半ばチャリティのような商品購入が集中し、中国のECデータを分析しているEC datawayの調査によると、同ブランドの2021年7月、8月のT-Mall+Taobaoの販売額はそれぞれ前年2020年同月比で前者は1443%、後者が236%増という、爆発的な売り上げを見せた。
一説にはこの2か月で、2020年1年間の売上に近い販売額となったともいわれている。
もちろんクチコミの爆発的増加は数日間にとどまっているものの、その急増後の月次クチコミ件数は、急増前を上回っており、一定レベルでのブランド力向上効果を見たといえるだろう。
デザイン性、オシャレ感といった要素は極めて重要ながら、こうしたブランド(企業)の社会性という面も、中国消費者は目を向けているという一例といえるかもしれない。
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