【column】2021年を新たな法規制の面から振り返ろう

2021年もあとわずか。新型コロナ禍においては2年目の年も暮れようとしている。

その2021年を振り返ってみれば、とにかく「オンライン取引」、「オンラインマーケティング」の管理レギュレーションに対応を迫られた1年であったように感じる。

間もなくやってくる2022年を着実に乗り越えるためには、こうした中国の規制やマーケティングに関連する社会動向を理解しておく必要がある。

2022年への準備を進める意味で、もう一度それらの規定や事件を振り返ってみよう。

上半期に出されたECプラットホーム、そしてライブ管理規定

日本でも多く報道されているように、中国では2020年末ごろからEC、SNSを問わず大手プラットホームに対し、厳しい措置を行ってきた。

 

その記憶に残る事件としては、独占禁止法違反によってEC最大手であるアリババが、日本円で3000億円もの巨額罰金を科せられたことだろう。


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アリババが処分を受けた容疑は「二者択一の強要」であり、カギとなったのは、「アリババが市場の支配的地位にあったか否か」と「それを背景にした不当な要求である二者択一を強要したか」であった。

 

TaobaoやT-Mallに集まる消費者はネットの世界でいえば巨大な「Traffic」の塊である。

しかしその会員の管理、データ、さらにデータを基にしたマーケティングサービスなどはアリババが一手に引き受けており、店側としては店舗にお客を誘導したり、見つけてもらうためにはアリババのサービスを使用しなければならず、そのための一定の費用をアリババに支払う必要がある。

 

もしそれを断れば、店舗は開けても宣伝もしてもらえず、検索でも引っかからない…といった状況が生まれる。

 

さらに商戦期、特にダブルイレブンにおいては「最安値(他店より安い)」、「他のプラットホームのキャンペーンに参加しない」などの条件が求められ、それに応じないとつまはじきにされてしまう。

 

大量に訪れるであろうTrafficを分けてもらえなくなってしまうのである。

特にライブコマースの時代、TaobaoLiveからもたらされるTraffic、すなわち客量は膨大な量なのだが、店側としてはその源泉をアリババグループが握っていた。

 

それが「支配的な地位を有しており、その権力を利用した」と見なされたのである。

 

もちろんこの措置は、処分発表の直前、3月15日に出された『網絡交易監督管理弁法』の見せしめ的意味合いもあっただろう。

電子商務法の施行から2年、拡大を続ける中国のオンライン取引ではKOLや芸能人を用いたライブなど、新たな手法も広がり品を紹介。販売を行っていた。

 

さらには抖音も快手といった新たなプラットホームも自前のECを開始。

そうした変化で生じた諸問題を解決するために、2021年3月15日、消費者権益の日に発表され、同年5月1日より施行されることになったのが『網絡交易監督管理办法』だったわけである。

 

つまりは通常のECに加え、ライブコマース、社区団購など多様化するインターネット交易状況で、『電子商務法』を含めた関連法律をより浸透させ、プラットホーム、参加企業、そして消費者の権益を守ることを目的とした、より具体的な指針である。


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さらにそれ追いかけるように出されたのが、ライブコマースに特化した管理規則。

4月23日に「中国互聯網信息弁公室」、「公安部」、「商務部」、「文化和旅游部」、「国家税務局」、「国家市場監督管理総局」、「国家広播電視総局」の7部門連名で発表された『網絡直播営銷管理弁法(試行)』、すなわちライブを使った販売宣伝行為に関する管理指標である。


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この法律では、ライブコマースでの表現も広告法の規定対象になる事が明確化され、国の広告に関するレギュレーションを順守することが求められるようになった。

 

『広告法』第五十六条では、「自身が代言人として宣伝している商品が、消費者に対して損害を与えた場合(健康や生命に対する危険も含む)は、その商品を作っているメーカーだけでなく、代言人もその責任が問われる」というという規定がある。

そのため、万が一自身がライブコマースで紹介した商品が消費者に健康被害やその他の損害を与えてしまった場合はライバー自身も責任が問われることも考えられる。

 

こうした責任感を持ったライブコマースを求め、消費者が安心して購入できる環境を作り上げようとしている模様である。

 

それ以外にも注意が必要なのが、ライブプラットホームはライブコマースの健全な運営を行うべく、そのライブのレベルに応じた管理制度を設けることが求められている。

同時にそれに従わないラーバーなどがいた場合は「ブラックリスト入り」として、関連当局に報告する義務を負うこととなった。

 

こうした、規制や管理の強化によって、混沌と発展してきたオンライン取引、特にライブコマースを、より整然とした秩序のあるものへと変えていこうという意向が見える。

下半期に入って芸能人マーケティングも規制対象に

夏以降になって世間を騒がせたのが「芸能人」および芸能人への影響力を利用したマーケティングを対象にした綱紀粛正施策であった。

 

いわゆる「飯圏」に対する規制である。

 

「飯圏」の「飯」とは、中国語読みの「fan」が英語の「fan」と同綴りであり、発音が近いためアイドルファンを指し、「圏」はいわゆるコミュニティのこと。

ファン同士はともに連携し、いわゆる「推し」を有名にするため、その「「推し愛」を表現するために多額の消費を行うことがあり、それを「飯圏経済」と呼んでいる。

以前からこうしたファンコミュニティやそのファンの人気を活用したマーケティング活動は行われてきたが、2021年に入りその「過度な盛り上がり」が問題視され、政府によって規制される動きが出ている。

きっかけとなったのは「創造営」や「訓練生」といった韓国のアイドル発掘番組を模した番組の人気であり、その象徴的な事件が「牛乳捨て事件」である。

 

牛乳捨て事件とはアイドル発掘番組《青春有你3》と牛乳メーカーがタイアップし、投票権を付けた牛乳を販売したところ、大量買いして推しに対する投票権を得、さらには人を雇って購入した牛乳を捨てさせていたという事件。

同事件はCCTVによって批判的に報道され、Weiboなどを中心に飯圏経済の在り方に批判が集まった。

おり悪く中国で「浪費禁止」の通達が出されたばかりであった。

 

こうした加熱するファンたちの“非理性的な消費”に対して、中国政府からは8月27日に『関于進一歩加強“飯圏”乱像治理的通知(ファン経済の行き過ぎ行為の一歩進んだ管理に関する通知)』を発し、アイドルやマネジメント会社、さらにはコミュニティサークル活動を提供するSNSプラットホームなどに注意喚起を促している。

 

その中には「ルールにのっとったファンコミュニティの運営」(公認を得ていない個人や組織のファンサークルアカウントは認めない)や、「理性的なファン消費の喚起(物を買うことで推しを応援するなどの行為の制限)」などが明文化されている。

注意が必要なのは、こうした規制ではアイドルなどが商品の宣伝を行うことを禁ずるのではなく「商品を買わせることで愛情(推し愛)を表現させる行為」を抑制している点である。

 

また、9月に出された芸能界関連の規制の中ではBL(ボーイズラブ)と並んで「娘炮」、すなわち「中性的な男子」や「女性化した男子」なども社会の風紀を乱すとして、規制の対象となった。

特に化粧品業界では、男性芸能人の代言人起用が浸透していた中だったこともあり、政府規制への関心が高まった。

 

その「娘炮」規制に関しては、12月に入った現在も官製メディア上での綱紀粛正が呼びかけられており、今後も影響を残しそうである。

 

いずれにせよ、中国政府は拡大化するオンラインマーケットを手放しで肥大化させるつもりはないようである。

むしろ積極的に法規制という形で参入し、「秩序ある発展を促す」ことを今後も計億していくと考えられる。

こうした変更に対応するためにも、こうした法規制動向はしっかり復習しておきたいものである。

 

次回は数々の規制が打ち出した中で行なわれた2021年の商戦を振り返ってみよう。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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