2021年も中国では恒例の商戦が展開され、多くの商品が消費者の元へと届けられた。
ブランド側としては1年が終わり、肩の荷が下りたところだろうが、2021年の商戦ではやはり多くの変化が起きていた。こうした変化を無視して2022年を迎えることはできない。
2021年最後の週に、もう一度この1年間における中国の2大商戦を振り返り、中国消費市場の変化を考えてみよう。
目次
自社経済圏構築へ動き始めた618商戦
2021年618は、JD.comのオーダー金額が3,438億元と、W11越えとはならなかったが、2020年の2,692億元を上回る成果を達成している。
【グラフ】JD.comの618オーダー金額の推移(単位:億元)
出所:公式発表をもとに作成
また、注目の抖音に関してはライブコマースにおいて、期間中に配信されたライブの総時間が2852万時間に達した事、累計で372億人が視聴し、1000万元以上のGMVを獲得したライブスペースが153あったことが公式に発表されている。
抖音の商戦本格参入は2021年618が初となっている。
そのため、この抖音小店の活用に関しても、多くのブランドがテストランであったり、参加せず様子見を行っている状況が続いている。
売り上げ上位に来ているブランドもまだローカルブランドが多い印象となっているのは、そのためである。
2021年の618時点では、抖音自体が抱える膨大なトラフィックのなかで、公式アカウントの開設などによって情報発信を続け、環境を整えることで、抖音小店を非常に効果的に活用できるように考えられる。
商戦の最終目的を売り上げではなく、会員の獲得という動きを中国の業界メディアなどが紹介している。
会員化(ファン化)した後の消費者は、1回の消費金額も消費回数も、非会員よりも高まり、長期的に見ればより高い経済効果を生み出すというのである。
中国国内のメーカーにとって、618のような大型商戦は単純に安く売る場、というよりも、自社の会員ユーザーを獲得するための場という認識が広がっていると考えられる。
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雰囲気ががらりと変わった最大商戦ダブルイレブン
2021年のダブルイレブンが終了した。その様相は例年とは全く違う物であり、Afterコロナにおける最初のダブルイレブンとなった2020年とは異なる意味で印象に残る商戦となった。
前夜祭こそ例年通り開催されたが、カウントダウンもなく、またT-Mallの広報が発表する「戦報」、すなわちオーダー金額推移の公開もなされないまま、またT-MallのWeibo公式アカウントを見ていても「君はもう買ったか?」といった消費を煽るメッセージもなされず、まさに“粛々と過ぎた”11月11日であった。
こうした背景には、ダブルイレブン商戦全体として、過度に消費を扇動するようなメッセージ、マーケティングを自粛する動きがあったのではないかと予想される。
最終的な結果としては天猫で「5403億元」と昨年比で約8%の増加となった。それに比してライバルである京東は取引総額「3491億元」と天猫よりもだいぶ少ないが、前年比としては28.6%の増加が見えている。
【グラフ】W11におけるT-MallとJD.comのオーダー金額の推移(単位:億元)
出所:公式発表を基に作成
天猫は2020年、2期制度を導入したことで一気に取引総額を伸ばしたが、その分2021年は成長を鈍化させている。
それに対し京東は20%台後半の成長を維持し続けていることになる。
中国のブランド、小売動向を観察するメディア「中国品牌」では、2019年以降のダブルイレブンの取引総額全体に対するプラットホームの割合を、星図数据などのデータから概算で算出している。
これを見ると、天猫の市場占有率は2019年には65%を超えていたのに対して、2021年は57.8%へと減少している。
それに対してライバル京東は17.2%から27.1%と一気に増加を見せている。
ただ、天猫から流れ出たものがNo.2である京東へと流れており、第三極である抖音、快手といったショート動画プラットホームはまだ、その恩恵を受けるに至っていない。
中国当局によるECプラットフォーマーへの規制の影響は、現時点においては、分散化をもたらすというよりは「天猫 VS 京東」の2強対決がより先鋭化していく方向に向かっていると見ることができるだろう。
また、2021年のダブルイレブンにおいて大きく押し出されたのが「ローカーボン」消費という環境へ配慮したてーまであった。
毎年11月10日夜に行われるダブルイレブン前夜祭番組では、オリンピック選手や国潮ブームなどを通じた中国の発展、強大化を称える一幕もあったが、番組最後のメッセージを合わせてみると、「環境に対する配慮ができること」と、中国がこれまで求めてきた「発展した中国、強くなった中国のあるべき姿」とを結びつけ、環境保護活動が大国たる中国のなすべきことと考える雰囲気を漂わせていた。
今後は番組最後のメッセージにもあったように「緑色時尚(グリーンファッション)」など、環境保護と消費がより深く結びつき、新たなグリーンビジネスを生み出せるかに注目が集まる。
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そして考える。KOLとブランドのありかたとは?
さて、今年はこうした商戦を通じていわゆる「KOL」との関係や「ライブコマース」の在りかたを考え直さねばならない事件も起きている。
現在は有名KOLのライブで商品を紹介してもらう方式が最も効果的とされている。ただその代わりとして、ブランド側はKOLにアサイン費用やインセンティブ(売り上げの20~30%)を支払うのが一般的になっている。
こうした状況が中国では1,2年以上続いてきたが、最近はブランド側がKOLと距離を置く動きも徐々に見えている。
ひとつが李佳琦とロレアルとの衝突である。
李佳琦はライブで同ブランドのフェイスマスクを「最大の優遇価格」として紹介したのだが、その後、ロレアルの旗艦店のキャンペーンチケットを使うと、同じ商品がよりお得に購入できてしまったのである。
「もっともお得に購入できる商品を紹介する」というのが信条である李佳琦にとって、ロレアル側のこの行為は背反行為であり、面子を大きく傷つけられたようで、Weiboのアカウント上で本件について言及。
結果としてロレアル側が説明、謝罪。李佳琦および薇婭も「しばらくはロレアルとの提携は控える」旨を発表するという事態になった。
しかし、ブランド側から見れば、上記のように非常に大きな「コスト」がかかるKOL経由よりも、より安くしても直接販売のほうが利益が上がる、といった打算がある。
戦略的にもこうした最終的なブランド直接販売をしやすくするために、KOLのライブによって認知度、一次購入者を増やすという戦術が成り立つのである。
この思考から考えれば、騒動になったロレアルは、行為のタイミングこそ間違ったが、戦略構想としては決して間違っているとは言えない。
もうひとつが、有名KOLたちが「税金」に関連して法的ペナルティを科せられるというスキャンダルが続いていることである。
手始めに、というわけではないが、ダブルイレブン終了後には、業界で売上第3位の「雪梨_Cherie」と第8位の「林珊珊Sunny」が脱税容疑で罰金、追加徴税処分を受けている。
そして2021年最後になって業界を揺るがせたのが業界No.2であり、2大カリスマKOLの一角である「薇婭」の脱税発覚である。
その処罰も課税分、追加徴税、罰金あわせて13.42億元という巨額のペナルティを科せられることとなってしまった。
さらに芸能界をはじめとしてライブ業界に対しても「綱紀良俗を乱す人物」の起用を避ける傾向があり、これによって薇婭は発覚当日から以降のライブが休止、その復帰もまったくの白紙状態になっている。
こうした国によるKOLの管理強化もブランドのKOL起用方法を再確認するきっかけとなるだろう。
2022年以降は商戦においてもこうした状況を頭に入れた戦略がより重要性を帯びてくるだろう。