拡大を続けている中国の消費市場。その拡大に伴って中国消費者の生活ニーズも多様化、より細かなニーズが生まれている。
そうした中国の消費者に向けて「あったらいいな」を提供しているのが小林製薬株式会社であり、中国のSNSデータを活用して、より細分化されている中国消費市場への参入戦略を実践している。
今回は同社ヘルスケア事業部マーケティング部の紀本慎一郎部長に、中国市場参入におけるソーシャルビッグデータの活用について話を聞いた。
<Guest>
紀本慎一郎
小林製薬株式会社
ヘルスケア事業部マーケティング部長
大学卒業後、花王に入社。営業を経験した後、中国でヘアケア、日本に戻りスキンケアのブランドマーケティングに15年間携わる。その後小林製薬に入社、上海に6年間駐在し、小林製薬(中国)有限公司の董事長として、営業、マーケティングなど全社の経営を行う。昨年1月に日本に帰任し、現在ヘルスケア事業部にて医薬品、食品を中心にマーケティング活動に従事。
<Interviewer>
濵野智成
株式会社トレンドExpress 代表取締役社長
大学卒業後、世界有数のコンサルティングファームであるデロイト・トーマツ・グループに入社。120社以上への経営コンサルティング支援を行い、グループ最年少のシニアマネージャーとして東京支社長、事業開発本部長を歴任。
株式会社ホットリンクに参画後、COO(最高執行責任者)としてグローバル事業、経営企画、事業開発、戦略人事、コーポレート部門を統括。新規事業として立ち上げた株式会社トレンドExpressをカーブアウト型で分社化して代表取締役社長に就任。累計資金調達12.8億円を先導し、クロスボーダービジネスの先駆者として東京と上海をベースに活動中。
目次
時間のかかる市場参入を加速させるSNS分析
濵野 中国歴も10年を超える紀本さんとのお付き合いは、紀本さんが小林製薬中国現地法人の董事長だったころ、上市商品や育成商品の成長プロジェクトで始まりましたね。
紀本 そうですね。まずは何が中国でニーズがありそうかを調査していただいて、商品を決めてから、そのブランドコミュニケーションを取り組んでいただきました。
もうそれから3年以上経っているんですね、ついこの前の事かと(笑)。
濵野 中国現地法人や貴社の取り組むオールバウンドプロジェクトでご一緒させていただいていますが、今回のヘルスケア領域でのソーシャル分析にはどういった期待を抱いていただいたのかをお聞かせいただけますか?
紀本 私が担当しているヘルスケア商品は、日用品と違って中国の導入に非常に時間がかかります。
申請して、許可を取る。商品によっては臨床試験が必要、そのままの処方では中国に持っていけないために処方を変える必要もあったりと、非常に手間暇、時間もお金もかかります。
そのために「どの商品を中国に導入するか」を考える際には、市場状況、競合状況、今後の将来性といったマーケタビリティを踏まえて検討してゆく必要があります。
しかしインバウンドやアウトバウンドではまだ火がついていない商品に関しては、市場データがあるようでいて無い。
それで、どの商品にしていくのかの選定基準のために調査をお願いしたというのが背景です。
市場に関してはリアル店舗もECもありますが、それぞれの市場が知りたい。
さらに市場規模だけではなく、そのクチコミの件数や中身も知りたい。
どのようなターゲットの消費者が買われているのか、今後その市場が伸びそうなのか、成熟市場なのかというのも知りたい、と言うことで市場規模だけではなく、クチコミの定量的側面と定性的な側面で分析をお願いしました。
濵野 確か比較的長い期間の経年でお出ししましたよね、3か年ぐらいだったと。
紀本 そうですね。過去3年のデータと、今後その市場が伸びるかどうか、 5 年後の市場予測も合わせて出していただきました。
また競合品も中国国産品なのか、海外品なのか、彼らがどんな訴求をやっているかといったことも調べたことで、弊社が戦えそうな環境かどうか、といったことも判断ができました。
そういう意味ではかなり充実したデータが取れたと感じています。
市場環境の明確化で、参入の優先順位策定にも説得力が
濵野 価格帯も含めてローカルブランドとの優位性を主に見ていた印象です。調査結果をご覧いただいた上で感じた部分などをお伺いできればと思います。
紀本 各カテゴリーにおいて結果がクリアになったことで参入のジャッジが非常にしやすくなりました。
市場によっては自分の肌感覚と同じで、「やっぱりそうだったなぁ」といった感想を持つ部分と、ある市場によっては中国の国産品が値段も安くて、訴求も何でも言いたいことを言っていてといった状況で「この市場で戦うことは難しい。諦めようか」といった判断ができたことです。
実際に当社では複数の参入候補商品があったのですが、その中でどの商品をやるのか、その優先順位付けが明確になりました。
われわれ自身の中で「どの商品で攻めるべきか」というのがはっきり出されたということと、それを社内で通していく、最終的な決裁の場においても市場、競合、消費者のデータが充実していたおかげで、「これだけ調べて、こういった優先順位ならすごく良くわかる」と説得力が高まりました。まさに欲しいデータが手に入った、期待通りでした。
濵野 ありがとうございます。貴社社長からも「きちんと分析され、ストーリーを作っている」とのお褒めの言葉もいただきました。社長をはじめ社内のステークホルダーが同じ基準で中国市場を見る、そのお役に立てたようで、これはすごく嬉しいですね。
ちなみに紀本さんも中国が長く、いろいろな市場調査もされていましたが、我々の中国SNSインサイト分析でしか得られないポイントはどういったものだと思われますか?
紀本 市場規模などのデータだけでなくて、多角的に各SNSの指数や検索トレンドだったり、Weiboや小紅書などのクチコミの件数だけでなく、その内容までしっかり取れるというところがほかの調査との違いです。
さらにトレンドExpressさんの場合、それが比較的リーズナブルなコストでやっていただけるというところです。ちょっと無茶をお願いした時のスピード感もありますし(笑)。
中身も良くて、市場以外の、例えば消費者のデータも取れるというところと、やっぱり値段的にもお願いしやすい、という点ですね。
濵野 大変ありがたいお言葉です。確かに中国の場合は色々なプラットホームがあって、「このデータだけとれば用が足りる」といった状況ではないですよね。そうした環境ではクロスプラットホームでデータが出て、さらに市場規模などをご自身の経験などと合わせて考えるのは必要な思考だと思います。
紀本 そうですね、皆さん中国に駐在された方はよく言われますが、中国ってデータがあるようで無いんです。
本当に大きいカテゴリーだとユーロモニターやニールセンなどのデータなどが存在していすが、私たちが戦っていく市場というのはニッチなので、まったく市場データがない。
そこで 大手の調査会社に調査を依頼すると、新規になるので非常に大きなコストがかかってしまいます。
今回は、そこまで大きなコストをかけず、一定レベルのデータを取得できましたが、非常に満足いくものだったと感じています。
濵野 ありがとうございます。最後に今後当社に期待されることを率直にいただければと思います。
紀本 中国はやはりスピードが早いので、今まで通用していたやり方が来年になったら、うまくいかず、新しいやり方がどんどん出てくるという環境です。
例えば今は抖音を使って認知を図り、T-Mall旗艦店に誘引してというやり方がありますが、多分それも通じなくなってゆき、今後は抖音の中で完結して、抖音がECのプラットホームに育っていくといったこともあるでしょう。
そういう変化に対して、素早く、最適な解を出していただくということに期待をしています。
濵野 承知致しました。いただいた言葉や期待を形にできるよう我々も努力していきます。本日はありがとうございました。