中国の生活の中で「ライブコマースから購入する」という消費行動は、すでに浸透している。商品を生産、販売する企業の側から見れば、「ライブコマース」は、落とすことのできない販売チャネルとなっている。
しかし2021年、こうしたライブコマースに対して政府が明確なレギュレーションを設定し始めたばかりか、年末に至っては業界を揺るがせる大きな事件も発生。ライブコマースという場が徐々に変化を求められる状況に至っている。
それでは、この2022年はライブコマースがどのような状況に置かれ、企業は何を求められるのか、現在ある状況をまとめながら予想してみることにしよう。
目次
相次いだ「大物」ライバーの摘発。「業界のクリーンアップ」?
2021年12月20日、中国マーケティング業界において大きな事件が起こった。
2大カリスマKOLの1人であり、中国におけるライブコマースを牽引していた薇婭の脱税が発覚し、追加徴税など合わせて13億元余りの支払いを科せられたのである。
彼女は既に李佳琦と並ぶライブコマースにおけるトップライバーであり、商戦期には億人単位の消費者がそのライブを視聴。GMVも数十億元レベルという驚異の数値をたたき出していた。
その商品も、化粧品に止まらず調味料、アパレル・アクセサリー、果てはなぜか「ロケット」などという巨大なものまで、商品としてライブコマースで販売してきた。
それと同時に、注目を集める人物として有名テレビ番組の取材を受けたり、バラエティ番組にも出演したり、また日本でも中国ライブコマースを紹介する記事の際に必ずと登場していた人物でもあった。
しかし現在は、ライブコマースどころか、すべての公的な場への露出が無くなっている状況である。
さらに言えば、その1ヶ月ほど前の11月には点淘(Taobao Live)No.3の「雪梨」、そしてNo.8の「林珊珊」も同様に脱税容疑で罰金・追加徴税を科されており、ともにライブコマースを停止したままである。
一部の日本のメディアは安易に「富裕層の締め付け」といった論調が見えたが、必ずしも正しいとは言えない。
そもそも、中国のライブコマースは2017年ごろから徐々に注目を集め、2019年の618そしてコロナ禍の在宅生活を経て一気に拡大した市場。
その規模は艾媒諮詢の調査によれば2021年で1兆元を超えるまでになっているが、いかんせん、未成熟の市場で、業界のレギュレーションを含め従事者の職業道徳意識もいきわたっておらず、2020年のW11でもライバーがデータ不正を告発するなどの問題が注目されてきた。
中国ライブコマース市場規模の推移(単位:億元)
出所:艾媒諮詢調べ
中国行政としては、その管理監督の強化、市場のクリーニングが必要な状態だったのである。
それもあって2021年の315(消費者権益の日)以降、ライブコマースに特化したレギュレーションが出され、その監督を強化していた。
また薇婭個人においては、中国でよくあるように複数の企業を登録し、それらに自身のギャランティを振り分けることによって「節税」を行ってきたのだが、事業の拡大によってそれが巨大な額となったことで行政の注意を引いたという一面もある。
薇婭不在のライブコマース、トラフィックの行方は?
いずれにせよ起こってしまった事件はどうしようもない。
いま、中国のマーケティング業界で取りざたされているのは、「薇婭が抱えていたトラフィックはどこへ行くのか?」という話題である。
商戦期の視聴者数は延べ人数で1億人を超えることが中国でもニュースになっているが、こうした薇婭のライブファンが、今後誰のライブに流れるのか、というのは非常に大きな問題である。
順当に言えば、その恩恵(?)をNo.3、No.4が受けていくことになるのだろうが、No.3も同様にライブができない状況になっている。
そのため、業界では薇婭のトラフィックが「宙に浮いた状況」となっているのである。
その行き先の有力候補となっているのが、やはり李佳琦である。
ただし、薇婭のクライアントの多くは大手だけでなく中小も多い。それに対して李佳琦のアサイン費用やインセンティブは、薇婭の時と変わらない。
むしろ薇婭がいなくなったことで、彼の価値も上がり、諸費用も上がってしまうことも考えられる。
となると、注目されるのは中堅クラスからそれ以下のKOLたちである。
すでに点淘(Taobao Live)では“次の薇婭”を求めての活動が始まっており、
ただ実際にはKOL、ライブコマースの急拡大によってライバー市場は玉石混交、また中小のMCNもデータ偽造に見られるように、多くの課題を抱えている。
その中から薇婭と同レベルの信頼感を得られるライバーが登場するには、もう少し時間がかかってしまうだろう。
しばらくはこうした中堅どころのライバーをトライアルとして活用し、その反響を各種データを用いて客観的に精査していく作業が必要となる。
ライブのできる駐在員を派遣できるか?
もうひとつの動きが、企業による独自ライブ、旗艦店ライブである。
2021年W11ののち、李佳琦とロレアルの確執が話題となったが、大手ブランドでは徐々に「カリスマKOL離れ」を模索し始めている。
こうした中、以前から注目されていた「PrivateTraffic(私域流量)」、すなわちファンマーケティングの重要性も高まって来るのではないだろうか。
ただ、ここには大きな課題がある。
こうした場合、もちろん前述のような中堅ライバーなどを招く方法もあるが、自社内でライブができる人材も養っておく必要も捨てきれない。
商戦期においては経営層もライバーとしてスマホの前に立つ必要があり、海外ブランドではWhooやロレアルなどが行っている。
その状況に応じて言えば、日本の化粧品ブランドにおいても経営層がライブコマースの現場に立ち「帯貨(販売)」のライブを行う必要が生じる。
こうした要素も、今後日系商品(化粧品、日用品に限らず)の現地法人のトップにもとめられる資質という事になる。
グローバル人事においても、中国法人の経営層に「ライブ経験」という要素を考える時代に入っているといえるだろう。