2021年にはライブコマースの管理法案が発表され、中国マーケティング業界にも少なからぬ緊張感を与えた3月15日の「消費者権益の日」。それから1年経った2022年の同日イベントはいかなる問題が指摘されたのだろうか?
2022年中国におけるCCTV「315晩会」から中国マーケティングに関連するトピックスをピックアップしてみよう。
目次
中国で拡大する「ライブ」に含まれる問題を指摘
1991年から始まった中国の消費者権益保護のための特別番組「315晩会」。そこで指摘されるテーマはそれぞれの時代背景を反映している。
2022年の同番組は現在、中国国内ですでに生活に書くことのできないものとなった「ライブ」から始まった。
指摘にあったのは「娯楽ライブ」。
簡単に言えば男性ユーザーが美女ライバーとコミュニケーションをする目的で使用されるライブである。
番組で取材した企業では「ライバーとファン、一対一型のコミュニケーション」を標榜している。
しかしその実態は、カメラの前に立つ女性こそ本物だが、そのファンたちとWeChatなどでコミュニケーションを取るのは雇われた男性たち。
こうした男性スタッフは、ライバーのふりをしてファンたちと甘い会話を行い、ライブ時の「プレゼント」つまり投げ銭をねだるのである。
その金額は1回で3000元から1万8000元という高価なものまで。
男性スタッフたちは慣れたもので、ライバーの写真とセクシー写真を合成して送ったり、思わせぶりな言葉を送信するなどして、ファンの心をつかみ投げ銭を煽る。
その金額に応じて男性スタッフたちはインセンティブを獲得できるというものである。
中国における初期のライブサービスであり、「まだあったのか」と思うのだが、315まで取り上げられるとなると、かなりの規模になっていると考えられる。
表現は悪いが付け込まれる「スケベ心」があったという点で被害者に同情する気も薄れるのだが、ライブに隠れた状態でのファン(消費者)コミュニケーション、衝動的消費の誘発という点で見れば摘発も止むを得ないと言えるだろう。
人気を集めた宝石ライブコマースに隠された事実
もう一つ取り上げられた問題はやはりライブコマースである。
特に重点的に取り上げられたのは翡翠を扱うライブコマース。
紹介されたライブの多くが「原価数千元」という触れ込みの翡翠商品を、格安価格で販売している。
ライブの画面ではライバーが「売り手」といわれる人物と価格のやり取りをし、強引な方法で販売価格を値切っていく。
最終的には「赤字覚悟の出血価格」と数百元で販売しているが、ライブで見せている商品だけが本物で、配送されるのは原価数十元程度のニセモノという手法だ。
ライブ中の「売り手」とのやり取りももちろんウソ。
きちんと脚本が作ってあり、ライブ中に暗号を使って最終価格を伝えあっている姿が公開され、翡翠ライブコマースの裏側が暴露された。
さらに悪質なものとしては、翡翠の産地である「ミャンマーの翡翠鉱山からのライブ」や「国境を越えてミャンマー人と原石の取引」というものも。
もちろんいずれも虚構で、現場は雲南省のオフィスでミャンマー人に扮したスタッフを用意したり、同じくオフィス近くの山の中を国境に見立て、ミャンマー人商人から原石を奪い取るなどのシーンを「演じ」、それをライブで販売していた。
この場合の原石はライブでは本物(借りてきた)もので、購入した消費者に輸送されるのはニセモノという手口である。
増加するクレーム、より強化されるライブコマース消費に関する管理監督
今回は翡翠のライブコマースの悪質なものが指摘されたが、ライブコマースそのものには否定的ではなく、「必要なのは健全な消費環境を整えること」というニュアンスが読み取れる。
中国消費者協会の調べによるとライブコマースに関するクレームのうち、
- 価格の問題(誤誘導)が33.37%
- 商品品質問題が31.06%
- 虚偽広告が30.54%
となっており、この3つが主な課題と見られている。
前述のライブコマースに対する指摘もこうした問題に沿ったものと考えることができる。
14億総ライバーともいわれ、拡大を続けるライブコマースにあって、こうした問題の解決は中国にとっても優先課題。
中国最高人民法院(日本の最高裁判所)では3月1日に『最高人民法院関于審理網絡消費糾紛案件適用法律若干問題的規定(一)』(インターネット消費トラブル案件の法律適用における若干問題に関する規定)を交付し、3月15日から実施する。
その規定の第十一条から第十七条に至るまでがライブコマースに関して言及されており、ライブコマースにおける消費者権益保護により一層の力を注いでいくことが考えられる。
この規定に関しては、また改めて見ていくこととしたい。
クチコミ偽造、水軍。かつての問題も依然として存在
中国消費者の消費活動においてはクチコミが非常に大きな影響力を持つことは周知の事実。そのため、企業もあの手この手を用いて自社ブランドのクチコミを蓄積させている。
そうした動きに付け込み、クチコミを「造り出す」企業も今回の315で指摘された。
指摘されたのはいわゆる「Q&A」を活用したクチコミ偽造。
あるクチコミマーケティングの会社では、企業からの依頼に基づいて素人ユーザーに扮しメタバース投資に関する質問を投稿。
それに対するポジティブな回答も同社が投稿し、メタバースへの投資を煽るというもの。
こうした企業では複数のアカウントを作成し、さも異なる人物が回答しているかのように見せかけ、消費者にポジティブな印象与える。
時には「水軍」と呼ばれるバイトの「クチコミ書き込み屋」などを雇い入れ、いわばニセのポジティブクチコミを増加させ、クライアントの業績につなげるというものである。
またこうした企業では、数万、十数万の検索キーワードに合わせて検索結果を上位に表示させる機能も提供していた。
同時にAIを使ってキーワードを組み込んだQ&Aを制作し、それを異なるアカウントで質問投稿、回答投稿を行わせている。
それだけではなく、クライアント企業のネガティブなイメージを与えるクチコミがなされるページを「404」化、すなわち一般のネットユーザーから見れないようにする、またネガティブ評価のクチコミのタイトルをポジティブ風に偽造するなど、クチコミ偽造サービスを提供している会社であった。
これらの手法は中国におけるウェブマーケティング初期から問題視されていたもので、中国政府も管理監督を強化、複数回にわたって摘発を行ってきたが、現在でも隠れて行っているローカル企業も少なくない。
日系企業もほぼすべてオンライン上のマーケティングを展開する現在においては、看過しえない問題なのである。
2022年315晩会ではこれら以外にもお馴染みの地下食品加工場や医療美容におけるトラブルなどが紹介されたが、昨年中国でも法制化された個人情報保護法に基づく、個人情報の不法取得およびマーケティング活用に関する問題も指摘され、消費者権益のデジタル化が進んでいるように感じられた。
また番組前の「315在行動」という番組においては過熱する「盲盒マーケティング」に対しても警鐘が鳴らされた。
転売による価格の高騰や、「シークレットキャラクター」の出現率の低さ、さらにはグッズの品質劣化(キズ)などの問題が指摘され、人気になったマーケティング手法における過度な集中や質の低下が存在していることが問題視されている。
これら指摘された領域では、一定レベルの監督強化もしくは新規定が現れる可能性があることを気にかけておきたい。