3.8婦人節においては、各ブランドの主戦場ともなったライブコマース。しかし、3月15日の消費者権益デーにおいて直接名指しをされた「悪質ライブコマース問題」。
すでに中国の消費者にも中国市場で事業を展開するブランドにとっても欠くことのできないものになったライブコマースだが、2022年の3月にはまた僅かな変化が見えてきている。
今回はそうした変化から、中国におけるライブコマース、そしてライバーの方向を考えてみたい。
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巨大なGMVを誇るものの、その動きに注目
2月27日8時から始まった「天猫38女王節」の予約スタートにおいて、中国で“No.1”KOLとなった李佳琦はライブコマースで279の商品を紹介。のべ7000万人の視聴者を集め、GMV28億元を記録した。
昨年には「TOP2」すなわち彼と薇婭、それぞれが3月1日~3日までの3日間で7億元という記録を作っていたが、2022年はそれを大きく上回った。
まさに中国ライブコマース業界における「一強」体制を作り上げた印象である。
しかし、一部からは若干首をひねる印象が聞かれた。
李佳琦や薇婭などのカリスマ級KOLはライブコマースにおいて複数名の「助播(アシスタントライバー)」をつけるのが一般的であった。
しかし、メインは李佳琦や薇婭であり、アシスタントはあくまでも横にいて補佐をするというのが主な形式であった。
しかし、2022年3月8日の李佳琦のライブにおいては、李佳琦自身が商品を行う時間が明らかに減少し、代わってアシスタントが商品紹介を行う時間が長くなったというのである。
ここで多くの憶測を生んでいる。
その際たるものが、李佳琦が徐々に一線を退き、プロデュース業へと移行、彼自身がMCN的な立場になるのではという憶測である。
そのプロデュースを行う相手というのが現在の助播(アシスタントライバー)たちであるという。
同様の流れはすでに現れ始めている。
薇婭が表舞台から去ったあと、彼女のアシスタントライバー複数人が集まって新たなライブアカウントを開設。この婦女節でもライブコマースを展開している。
もちろん彼らの影響力は個々を見ると李佳琦、薇婭に及ぶべくもないが、それが集まることによって話題性、またTrafficという点においても一定のものを見込むことができる。
つまりは1人のカリスマ的トップKOL中心の業界構成から複数の中堅KOLがひしめく市場へと姿を変えていくのではないかという予想がなされているのである。
しかもそれはTaobao Liveだけではなく、話題となった抖音ライブの羅永浩においても同様の動きがみられているという。
企業側の「脱KOL」も市場変化を加速か
こうした現象は、実は依頼主である企業・ブランドにおいては、水面下での「トップKOL離れ」という動向も存在している。
実は自ブランドのアカウント、いわゆる旗艦店ライブの方がKOLへの委託ライブコマースに比べて「リスクが少ない」という企業・ブランド側のメリットがある。
特に2021年末にライブコマース業界における複数の大物が「脱税」容疑で摘発されており、ライブができない状況に陥っている。
実際に「来月アサインしていたのに…」という声も日本企業からも聞こえてくる。
こうした不意の事件事故によってライブが中止になることは企業・ブランドにとっては大きな機会損失となる。
であればコントロールが効く自ブランドの旗艦店ライブへと切り替えたいと思うのは自然な成り行きであろう。
ちなみに李佳琦に関しては、同時に彼個人のブランド(ペットの名前を取ったブランドがある)の強化のため、Taobao LiveではなくWeChatのミニプログラムを強化しているという情報もある。
これがもし事実であれば、彼は彼なりの「退路」を用意しているといえるだろう。
これまでのように自身が数時間に及ぶライブを行い、商品を販売していくのではなく、そうした人材を育成・運営していきつつ、培った影響力をもって自身のブランドを販売していく。
そうした条件を整えてようやく生き残っていけるという計算なのかもしれない。
315で指摘された悪質ライバーは、李佳琦や羅永浩のようなカリスマではなく地方中小企業によるライブだったが、そこに見られるのは「国民総ライバー」の様相を見せている中国において、以下に影響力があるといえども「安泰」を感じられないライバーの現状もある。
もちろんそこに行政の監督強化を呼び込む結果にもなる。
さらにそうした様子を見て取ったクライアントでは、KOLから離れて自前でのライブへと切り替える新たな動きも目に入ってくるようになった。
李佳琦のような明敏な人物だからこそ、自身が生き残る道を模索しつつあり、それが新たな中国ライブ市場を形成していくのではと思われる。