中国の消費は拡大をしているが、常に「成長」も続けている。
単純な量的、もしくはネームバリューに頼った消費から、消費者が自分の好みや必要に応じた商品を選び、かつそれを深めていくという消費である。
それを考えるものとして、今年2月の新店オープンによる中国コーヒー消費から中国消費者の消費嗜好の変化について考えてみよう。
目次
世界の人気コーヒーブランドが中国発進出
2022年2月25日、上海市で長蛇の列ができた。
最長で6時間待ちといわれる規模の行列である。
それは中国最初となる「ブルーボトルコーヒー(中国名:藍瓶珈琲)上海一号店」のオープン。つまり、カフェでコーヒーを飲むために6時間並んだわけである。
実は上海は中国におけるカフェ激戦区である。
中国の第一財経のデータでは市内にあるカフェの店舗数は2021年1月時点で約7,000軒、2022年に入ってからの一部報道では8,000件を超えているともいわれている。
そこに世界でも人気のカフェブランドが進出したのである。
▼2018年ごろの中国コーヒー事情はこちら
その模様は多く若い女性に支持を得ているSNS・小紅書(RED)でも紹介されている。
長蛇の列を動画で撮影し、
また中には「スターバックスのコーヒーを飲みながら順番を待つ」という姿も見られたという情報もあり、やや複雑な人気の模様がうかがい知れる。
中国社会に浸透しつつある「コーヒー」
そうした中国でのブルーボトル人気。それを理解するためにトレンドExpressではWeiboによるクチコミ簡易分析を行った。
まず単純に「コーヒー」というキーワードを見てみると、直近12カ月で毎月平均50万件もの投稿がなされている。
【グラフ】Weibo「コーヒー」クチコミの月次件数推移
出所:Trend Express China調べ
そのなかでも6月以降、8月にかけて夏場のクチコミが増えていることが見て取れる。
この時期は夏の暑さのためにアイスコーヒーの消費が増えること、またスターバックスなどのカフェにおいてはフラペチーノなどの、SNS映えするアイスドリンクの消費が増え、それによる投稿が増えるとも考えられる。
フラペチーノは厳密に言えば「コーヒー」ではないが、中国においてはカフェで消費する「コーヒー飲料」という認識がされているという一面もあるだろう。
【グラフ】Weibo「コーヒー」クチコミのポジネガ比率
出所:Trend Express China調べ
また「コーヒー」クチコミのポジネガを見てみてもポジティブ比率が23%と高い値を示しており、中国消費者もコーヒーという箔来の飲み物を受け入れ、生活の中に浸透していると考えられる。
ブランドキーワードから見える「こだわり」消費
次いで「スターバックス」、「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」、「マナーコーヒー」、「ブルーボトル」の4ブランドのクチコミを比べてみると、特にブルーボトルコーヒーのクチコミキーワードで若干の違いがみられた。
【表】コーヒー4ブランドクチコミキーワード比較
出所:Trend Express China調べ
「スターバックス」、「ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)」、「マナーコーヒー」のクチコミにおいて、言及が多い商品はカフェラテ、またスターバックスではフラペチーノなどが上位に現れる。
小紅書(RED)でも、こうしたブランドの投稿にはオシャレなカフェラテ、フラペチーノなどの写真が添えられている。
こうしたキーワードから見えるように、中国ではコーヒー消費というより「コーヒー飲料」が中心であり、同時にSNS上でのオシャレ消費としての意味合いが濃かった。
その中でブルーボトルコーヒーの進出は意義が大きい。
同ブランドのキーワードを見ると「豆」、「ブラックコーヒー」、「コロンビア」などのコーヒーへのこだわりを感じさせるワードが見え、単純なオシャレ消費からこだわり消費へと変わりつつある様子が感じ取れる。
その背景はやはりSNSで、生活の余裕による趣味の多様化によってコーヒーを豆や淹れ方にこだわる様子がアップされ始めたのである。
ちなみに同ブランドのクチコミワードに「東京」、「日本」、「大阪」といったワードが上位30ワードに含まれて来ており、小紅書でも同ブランド名検索では東京店舗の体験記事も見受けられる。
ブルーボトルはまさに海外、近場では日本で味わえる「本格的コーヒー」だったのである。
こうしたSNS上のクチコミ蓄積が「6時間並んでも」との人気を生み出したわけだが、こうした変化には中国消費者がブランドとともに、その消費対象に「こだわり」を求める動きが浸透していると考えられる。
中国のコスメ業界においても先はブランドやオシャレ感といったものから、「成分党」といわれるように、ブランドと同時にその内面、さらに自身の状態に合った、より効果的なものを求める方向にニーズが変化している。
おそらくはコスメ、コーヒーに限らず、多くの消費材に対して消費者の「こだわり」を見せてくると考えられる。
またその「こだわり」も、全体的、画一的なものではなく、よりパーソナルなものへとなってくはずである。
消費者を見る場合も、これまでのような「80後」や「90後」などの大きなくくりではなく、「〇〇年代生まれの、××派、□□好き」というように、より細かなセグメント分けで見て行く必要が生じるのではなかろうか。
前出の前瞻経済研究院では中国のコーヒー市場が年間15%程度の速度で拡大すると予想しているが、どのような「こだわり」を見せていくのか、非常に興味深いところである。