2022年春、中国のドリンク市場が盛り上がりを見せている。
その盛り上がりとは「コラボレーション」。
より多くの消費者の心をつかみ、自社のファンを獲得するため、中国のドリンクブランドがコラボ戦略を展開しているのである。
今回はその中からSNS上で話題となったコラボ戦略を2件ご紹介。同時に何が話題となるのか、その裏側も考察してみたい。
目次
日本人アーティストとのコラボで注目のティーブランド
中国の若者を中心に広がっているのがオシャレなティードリンクである。
日本では中国発のティードリンクというとタピオカミルクティーを想像するが、中国で最初のオシャレティードリンクといえばスチームチーズティーで、それにより成功した代表的ブランドが「HEY TEA(中国名:喜茶)」である。
この中国オシャレティードリンクの牽引役ともいえる同ブランドがタイアップしたのはなんと日本人デザイナーであった。
それが「藤原ヒロシ(Hiroshi Fujiwara)」
日本のファッション・デザイナーでありミュージシャン。
ヒップホップのストリートカルチャーをハイファッション・芸術と融合させたスタイルが人気を博し、裏原宿系ブームのカリスマであり、世界中のファッション関係者からも「キング・オブ・ストリート」と称される人物である。
喜茶は2022年4月8日から、同氏が主宰する「FRAGMENT DESIGN」とのコラボレーションで、特別パッケージ商品を開発、売り出した。
なぜこの人物を選んだのかというと、実は藤原氏は中国のZ世代に大人気のデザイナーなのである。
喜茶自体は白を基調カラーとしていたが、ここではこれまでにない漆黒のデザイン、特別バッグなどもラインナップ。
瞬く間に中国SNS上で話題となった。
中には捨てるのがもったいないと、手に入れたコラボカップを花瓶にして残すという消費者も現れた。
話題を振りまいた国産コーヒーブランドも大型コラボを実施
もうひとつ、現在注目されているドリンク業界のコラボは中国のコーヒーブランド、瑞幸珈琲(Luckin Coffee)の新コラボ戦略であり、その様子は既に中国国内メディアの注目となっている。
▼参考記事(中文)
少し前に財務報告書の偽造などの騒動を起こした瑞幸珈琲だが、そこから財務面でも立て直し、徐々に回復を見せている。
その同ブランドがコラボ対象に選んだのが「椰樹牌」である。
中国に駐在、留学経験のある人であれば必ず見たことがあるはずだ。
中国で30年以上もまじめにココナッツミルクを作り続けてきた老舗ブランドで、その美味しさは中国消費者だけでなく、中国に住む外国人も虜にするほど(筆者もファンである)。
そして、独特の変わらない(でも実はちょっとずつ変えている)文字デザインと「中国有名女優・徐冬冬」を起用したことでも知られる、ココナッツミルク業界におけるトップブランドである。
今回のコラボは瑞幸珈琲で同社のココナッツミルクを用いた「ココナッツミルクラテ」を開発。
椰樹牌デザインのカップやペーパーバッグで世界観を統一するなど、非常に気合の入ったコラボレーションを展開している様子が見て取れる。
ラテの味も消費者から好評を得ているだけでなく、このパッケージ、話題性からSNS映えもするようで、Weiboや小紅書でも数多くの投稿が見られている。
さらには椰樹牌のイメージキャラクター「徐冬冬さん」も自身の小紅書のアカウントで投稿するまでに。
このコラボ、瑞幸珈琲の再ブレイクのきっかけになるのか?注目したいところである。
ドリンクコラボが狙うもの、刺さる背景とは?
ではなぜ、こうしたコラボレーションが話題となるのだろうか?
ひとつはその対象の希少性である。
喜茶の場合はZ世代に人気の日本人デザイナー、瑞幸珈琲の場合は老舗国産ブランドでありながら、他者とのコラボをする様子がうかがえなかった椰樹牌である。
こうした異色のコラボはもちろんターゲットであるZ世代だけではなく、それ以外の世代の度肝を抜くであろう。
しかし中国Z世代に刺さる一つの要因としては単純な話題性というよりも、その裏に「語ることのできるストーリー性」が必要である。
喜茶から言えば「世界的なアーティスト」という点。特に昨今の中国の若者はアートを「語りたがりたい」。それが自身のステイタスになっていると感じたがる傾向が強いのである。
と同時に、それを所有したことで、コミュニティーにおける優越感を得たいという願望も強い。
もうひとつ、現在の中国Z世代に生まれているのが「コレクション」欲、つまり「変わったものを集めたい」。そして集めたものを眺めて自己満足したいという欲求である。
盲盒が良い事例だろう。
1つのキャラクターが複数のバリエーション存在しており、それを集めたいという願い。特にそれが希少であればあるほど、実体価格を上回る費用をかけてもそれを欲しいと思う。
今回のコラボもほぼ同様である。
SNSで話題になれば、手に入れることで自分自身のステイタスにもなり、かつ「瑞幸×椰樹牌」のような今までになかったようなコラボであれば、その欲求はより強まる。
そして手に入れれば、それを眺めて楽しめる、という次第である。
そしてそれは、中国消費者が「自己満足」という実利の少ない欲求に金銭を投じることを無駄と感じなくなったことを示している。
それだけ豊かな環境で育ち、自由な意識を持つようになった世代と言えるだろう。
こうした中国Z世代をターゲットとしたコラボレーション戦略には、単純な「話題創出」とは言い切れない、消費者への深い分析があるのではないかと思われる。