ゴールデンウイークも終了し、日本ではこれから梅雨、そして夏へと季節が動いていく時期。その季節、夏前の準備として必要なのがUV対策、すなわち「日焼け止め」である。
中国でも日焼け止めは、特に女性たちにとっての一大事。毎年、あの手この手のUVケアで夏の紫外線を乗り切っているのである。
そんな中国消費者の「日焼け止めニーズ」、2022年の様子をクチコミ分析を見ながらら考えてみよう。
目次
志向の高まり、新規参入で拡大する中国UVケア市場
中国の消費者は紫外線対策には非常に敏感である。
一つには、特に女性の美的感覚がいまだに保守的であり、「白い肌」を貴ぶ価値観が、いまだ色濃く残っており、年齢に関わらずそれは普遍的な価値観として残っている。
スキンケア化粧品業界において、日本や海外では神経質になる「美白」というキーワードも、中国においてはニーズが高く、広く使用されているゆえんでもある。
さらに紫外線が将来的な「シミ」、「そばかす」などの原因となるという意識も強く、そのために若年層からの紫外線対策も一般化している。
もう一つには健康志向という点も挙げられるだろう。
紫外線→日焼け→皮膚がんの確立が上がる、という認識を持ち、強く意識する層も存在している。
そのため、単純なオシャレ、「美白維持」のためのUVケアだけではなく、自身の健康対策としてUVケアに注意を払うという一面もあるようだ。
そんな、中国のUVケア市場の規模、古いデータではあるが2019年で70億元~100億元規模といわれている。
幅が大きいのは調査機関によってその金額の差があるため。日焼け止めそのものに加え、日傘、サングラスなど多岐にわたり、また消費者の認識(雨傘を日傘としても使用したり)の幅も広いため、調査が難しいためと予想される。
【グラフ】中国のUVケア市場の市場規模推移予測(単位:億元)
ただ、これも保守的な数字という考え方もあるようで、中国の一部のメディアではこれまでの市場成長が加速傾向にあることから、2024年には224億元という規模にまで発展するものと予測する報道も現れている。
市場加速の要因となっているのは、UVケア(日焼け止め)市場の拡大を見越して、新たなプレーヤーが参入していることが上げられる。
例えば中国国産メイクアップブランドの代表格としても知られる「花西子」でも、UVケア化粧品をラインナップに加えている。
これまでは欧米系、日系などの化粧品・日用品ブランドが広く展開していた業界ではあるが、近年の中国コスメブランドの成長に伴い、プレーヤーも増加。それが市場拡大に寄与しているものと思われる。
もう一つの要因に関しては後述したいと思うが、主に消費層の拡大である。
これまでは「若い女性」がメインターゲットであり、最も大きな市場であった。
それは現在においても変わらないが、近年は性別、また年齢層に広がりを見せている。つまりは新たな消費層が市場全体を拡大に導いている、という点であろう。
さらに、UVケア自体に新たなニーズが生まれているという部分も見受けられる。
単純に「紫外線から皮膚を守る」というニーズ意外に、「プラスα」の機能を求める声が現れ始めているのである。
そうした新たなニーズをSNSクチコミ簡易分析から探ってみよう。
もとめられるUK対策以外の機能~SNSクチコミ分析から見る
まずはWeibo上で、広義での「日焼け止め」を示す「防晒」という言葉のクチコミ件数を、直近1年、月ごとに見て行こう。
【グラフ】「防晒」キーワードのクチコミ件数推移
出所:Trend Express China調べ
これを見ると5月、すなわちちょうど今ごろがクチコミ件数のピークとなっており、その後は徐々に件数が下落。
そして新暦の年明けごろからクチコミ件数の上昇が始まり、次年の2月から3月にかけて急上昇がみられる。
これはおそらくサイクル化しているものであり、データ取得年の特性ではないと考えられる。
中国の南方では湿度は高いものの、3月ごろから日差しが強くなり始める。
また北京などの北方でも5月ごろには新緑の季節となり、日光を意識し始める時期である。特に北方は「寒い地域」というイメージが先行しているが、乾燥しており、夏の日差しも非常に強い。
東北地方では天気のいい日は氷点下でありながら日焼けを気にする人もいる。
また都市開発もUVケアニーズの大きな要因となっている。
北京や上海の街並みを歩いてみれば実感できるが、高級感を出すためか「大理石」などを使用した路面が多い。
実はこれが太陽の光を反射するのである。
さらに加えて見栄えを現代的にするためか、総ガラス張りのオフィスビルも少なくなく、中国の大都市を歩いていると、四方八方から太陽光を浴びせられているような錯覚に陥るのである。
そのため、南方・北方の区別なく、消費者の紫外線対策は春ごろからスタートしていると考えることができる。
ではこうしたUVケアは、どのようなキーワードとともにクチコまれているだろうか?下の表を見て行こう。
【表】「防晒」クチコミ頻出キーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
「防晒」と同時にクチコミ投稿をされた頻出キーワードを見てみると、「防晒乳」すなわちUVクリームのクチコミが上位に来ていることが分かる。
現在はクリームのほか、スプレータイプのものやジェルタイプのものなど、多様なUVケア商品が登場しているが、やはり伝統的なクリームタイプのクチコミが多くなっている。
今後も、日焼け止めクリームがUVケア市場の中心となると考えられる。
さて、気になるのはUVケアでありながら、その他の機能性に言及しているワードが上位に見られることである。
「美白」、「敏感肌」、「しっとり感」や「保湿」といったワードである。
特に注目しておきたいのは「敏感肌」。
中国では敏感肌消費者、もしくは自身を「敏感肌と認識している」消費者の比率は非常に高い。
そのため、効果はもちろんながら「肌に優しいスキンケア」を求める傾向が強いのである。そうした消費者はいわゆる「成分党」や、そこから派生した「自然党」、「植物党」などオーガニック、植物由来商品を求める消費者となっている。
その傾向がUVケアにも現れつつあると考えられ、敏感肌領域でシェアを伸ばしている「薇諾娜(WINONA)」がブランド名としてクチコミをされていることからも見て取れる。
化粧品における機能性表示の法制化が進む中、今後は「敏感肌向けUVケア」というキーワードも大きく成長すると見込まれる。
また同時に「保湿」「補水」、さらには広く「肌ケア」とあるように、単純なUVケアだけではなく、同時に潤いを失わずに、かつ「美白効果」があるといった、異なる機能性を併せ持つ商品への人気が高くなるのではと予想ができる。
スキンケア業界では「美白」「保湿・補水」という機能が常に人気であるが、それと同じ感覚で使用できる、より「化粧品としての色合いが強いUVケア」、もしくは「UVケア効果の高い化粧品」といった商品ニーズの高まりを感じさせ、消費がより広い幅へと広がっていることを示している。
UVケア商品は季節性やUV対策機能中心になりえるが、より視野を広げての商品開発が非長となるだろう。
さらに「学生」というキーワードがあるように、UVケア商品は学生が手に取る率の高い商品である。
毎年8月末という真夏には大学新入生向け軍事訓練が行われ、炎天下の行進訓練に参加する学生たちがこぞってUVケア商品を求めるのも、一種の風物詩となりつつある。
やがては社会に出て消費の中核となりえる大学生を囲い込む意味でも、高機能・多機能UVケアを考えておきたいとところである。
新たな消費も生まれつつあるUVケア
さて、冒頭で述べた中国におけるUVケア市場の拡大、消費者層の広がりがその要因となっていることについて述べたが、興味深いデータがある。
それは、天猫国際における子供用日焼け止め商品の売上が2022年4月に入り同年2月の900%に達しており、特に海外の「子供に合わせて研究、開発された専用の日焼け止め」への関心が高まっているというもの。
すなわち、子供専用のUVケア市場が海外製品を中心に拡大傾向が続いているというのである。
▼参考記事
青眼 | 涨超900%,进口“婴童防晒”品类迎机遇
記事中、実際に日本を始め、韓国、欧米の子供用日焼け止めブランドが、いわゆる越境ECモデルで天猫国際に進出しており、この4年ほどで海外ブランド数も140%増という状況のとなっていると紹介されている。
日本からは赤ちゃんの肌のために生まれた国産オーガニックベビースキンケアブランド「Alobaby」も2020年に天猫国際に進出、シェアを拡大させている。
中国でも「子供の肌は弱い」という認識あり、「乳幼児の日焼けを避ける」傾向が強く、その弱い乳幼児の肌に用いるものだからこそ「より高い安全性」を求め。
さらに、近年は親世代が「成分党」や「植物党」、「天然党」などのスキンケアへのこだわりが強くなる中、自分の子供にもよりこだわった(害の少ない、肌に優しい)商品を選ぶという消費が広がっている可能性が高い。
そうしたなかで、中国国内のブランドのレベルももちろん上がっている様子ながら、日本を含めた海外商品への注目が依然として高いものがあり、学生から大人向けだけではなく、児童・乳幼児向けUVケア市場も拡大、新たな商機として考えられる。
もう一つがUVケア志向の男性への拡大である。
近年、特に「キレイ系男子」が増えてきた中国。芸能界においてもBTSをはじめとする韓流アイドルの影響を受けてか、スキンケアにこだわる男性が増えている。
「小鮮肉」などとも呼ばれるが、王一博や易烊千璽、華晨宇など、いずれも美肌、美白男子たちである。
こうしたアイドルにあこがれる男性消費者も高いUVケア機能を有する日焼け止め商品には高い関心を払っている様子である。
もちろん一部の消費者のスキンケア意識は女性に劣らない。
そのため、前出のような「美白」、「保湿」などの追加機能に関しても同様の要求があると考えられる。