【column】オミクロン株の蔓延が観光にマイナス影響。新しいスタイルの旅を楽しむ姿も。

上海では新型コロナウイルスの影響で事実上のロックダウン。その状況もすでに40日を超え、長期戦に突入している。

上海の状況は、中国国内の消費者にも再び「新型コロナウイルスの恐怖」を植え付けているかのように見え、それが労働節の観光データとなって現れているのではと想像される。

今回は、そうした労働節の観光状況を、すでに公開されているデータを再確認しつつ俯瞰し、新たな旅ニーズ、そして今後のインバウンドなども考えてみたい。

オミクロン株と封鎖への懸念で観光データも減少傾向

2022年5月4日に中国文化観光部門から発表された2022年労働節の国内観光数値だが、国内旅行者人数はのべ1.6億人、国内旅行収入は646.8億元となっている。

 

2021年は5日間で観光に出かけた延べ人数は2.3億人、全国の国内観光収入は1132.3億元、2020年は1.15億人、国内観光収入も475.6億元であった。

 

そこから見ると、コロナ期においては2021年でいったんの復調をみせたものの、2022年は人数においては前年比で30%程度の減少。旅行収入においては約43%の減少と、減退感を見せている。

 

新型コロナに見舞われる前である2019年の休暇は4日間であったが、旅行人数1.95億人、旅行収入1176.7億元であったことを考えると、2021年にリベンジ観光ともいえるようにコロナ前を上回った人数も、2022年は減少してしまっている。

 

中国国内の観光業界も苦しい状況に置かれているといえるだろう。

 

やはり中国国内におけるオミクロン株の蔓延、特に上海における事実上のロックダウン、その長期化が影響しているといえるだろう。

実際には、中国各地で街や居住区(小区)レベルでの封鎖が行われており、新型コロナウイルスの影響は比較的深刻である。

 

そうした中、万が一自身が行った観光地が封鎖されてしまったら、または旅行に出かけている間に自分の家のあるエリアが封鎖されてしまったら…。そんな懸念が中国消費者の心中にあったのではないかと予想される。

コロナ禍においての新たな旅ニーズ「キャンプ」がより人気に

とはいうものの、労働節は中国でも春節、国慶節と並ぶ重要な長期休暇である。

その休暇を楽しみたい、という思いはどの消費者にもあったようだ。

しかしながら普通の旅行は前述のようなリスクが高い。そうした中で、中国では2021年に引き続いてある旅モデルが急速に注目されている。

それは「露営」、すなわちキャンプである。

 

中国のサーチエンジン百度の検索状況を占める「百度指数」を見てみよう。これを見ると、「露営」というキーワードが2022年3月ごろから一気に上昇しているのが分かる。

【グラフ】キーワード「露営」における百度指数推移

出所:百度指数

実はキャンプ人気に関しては2021年の労働節状況の振り返りでも言及している。


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それが、2022年に入り本格化している模様だ。

実際に小紅書(RED)においても、「露営」キーワードで350万以上のノートが検索されるほか、キャンプ必須グッズなどの関連ノートも数多く投稿されている。

これを見る限り、キャンプニーズは主に若者層(小紅書のメインユーザーは20代から30代の女性)に浸透しつつあるといえる。

 

また旅行予約サイトである「同程」においても、労働節前の時点で「露営」検索が前年比で117%も増加していることを発表している。

特に森林、海島などでのキャンプが人気があるようで、日本でのキャンプブーム同様、密にならず、かつ新鮮な空気を楽しみたいという思いがあるようだ。

また「親子キャンプ」というキーワードが上がっているように、家族のレクリエーションとしてのキャンプニーズが上がっていると考えられる。

こうした中国におけるキャンプニーズの背景やニーズ、そして何をもたらすのかについては、日を改めて調査してみたい。

日本は海外訪日客の受け入れへ 中国からのインバウンドは復活するのか

さて、日本では中国とは状況が異なる。4月末から5月にかけて、2年ぶりとなる「緊急事態宣言」も「まん延防止特別措置」もない、自由なゴールデンウイークが戻ってきた。

 

それに伴い、日本政府も6月をめどに「海外からの団体旅行客」の受け入れを検討し、コロナ対策を含めた受け入れの実施テストを始めている。

 

まさに2019年ぶりにインバウンド業界に朗報ともいえる環境が整いつつある。

 

では、そうした中でかつて訪日観光客の最多比率を占めていた中国からの観光客はどうなるのだろうか?

その訪日者数や消費力に大きな期待を寄せる思いも強い。

 

しかしながら、「すぐに中国からの訪日観光客が戻る可能性」に関しては、現時点においては低いと考えられる。

 

注目はやはり新型コロナウイルス。そして「中国における新型コロナウイルス政策」となるだろう。

日本側はインバウンド受け入れに伴い、ワクチン接種記録などの条件は付くものの、到着後の隔離に関しては緩和される見込みだ。

それに対し、中国においては「中国に入国する時点」において厳しい隔離規定が存在しており、厳しく実施されている。

 

例えば1週間、日本で観光をしていった場合、帰国後にはまず指定の隔離ホテルにおいて最低でも7日間。

その後は自宅などに戻って健康経過観察を行政の指導の下、7日もしくは14日間行わなくてはならない。

 

どう少なく見積もっても2週間、長ければ1ヶ月近くは隔離状況に置かれる可能性が高いのである。

2022年初にトレンドExpressが行った訪日リピーターに対するアンケート調査でも、日本のコロナ政策と同時に、帰国した際の隔離政策が「訪日を見極める要因」として注目されていることが分かる。

 

【グラフ】今後、日本への旅行を決断する場合に、判断のポイントになることを教えてください(複数回答)

出所:『中国インバウンド需要調査レポート』(株式会社トレンドExpress・数慧光(上海)商務諮詢有限公司)

 

さらに言えば、もし帰国後に自身が陽性になったり、同じ団体の観光客から陽性者が出た場合、自身、場合によっては自身の家族も隔離施設に収容され、現在の上海の状況から見れば居住区(小区)自体が封鎖されてしまう可能性も生じる。

 

こうした自身や家族、ご近所さんの「隔離リスク」を考えると、中国の現有政策下ではなかなか海外旅行への踏ん切りがつかない、という状況がうかがえる。

そして中国の新型コロナ対策が、短期間で日本や海外と同様の「Withコロナ」へ移行することは、現在の状況を見る限りでは考えにくい。

 

そのため、中国からの訪日観光は2022年においてはいまだ難しい状況にあるといえるだろう。

 

とはいえ、中国において日本への観光要望は依然として高いものがあり、中国国内の新型コロナ蔓延状況の収束が見られれば、隔離も緩和され、日本を含めた海外への移動もハードルが下がるのではと予想される。

 

そうした日のために、常に中国の状況を把握しつつ、キャンプのような新トレンドを押さえておきたいところである。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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