「中国の女性は、がっちりメイク」という認識が、2022年に入り覆されようとしている。
今、中国を席巻しているのは「素顔美人」。より淡いイメージのメイクが注目を集めているのである。
「素顔系」メイクはどのように中国で受け入れられているのか。中国ではやりの「素顔系」メイクとはどういったものなのか。
今回は中国で拡大している素顔でより輝くためのメイクトレンドをクチコミ簡易分析で探った。
目次
「チャイボーグメイク」が過去のものへ。広がる「白湯メイク」
中国女性のメイクトレンドが注目されたのは2019年から昨年ごろだっただろうか。
「チャイボーグメイク」といったキーワードで中国のメイク手法や中国国産メイクブランドがユーチューバーによって取り上げられ、日本のファッション雑誌などで注目された。
やがてそれは中国メイクブランドの日本進出といった現象も生み出している。
そのころの、いわゆるチャイボーグメイク(筆者的にはあまり誉め言葉に聞こえないのだが…)といえば、全体的に色が「濃い」、はっきりとしたメイクを指していたと記憶している。
皮膚の質感が見えなくなるほどベースメイクを施し、「強い目元」を見せる明瞭なアイライナー、アイシャドウ。
また鼻梁もはっきりさせ、立体感のあるファンデーションなどの使い方。そして、口元も明るく目立たせる色合いの口紅を使っていた。
どちらかといえば欧米風の顔立ちに見えるようなメイクアップであったのである。
しかし、移ろいの早い中国ではそのトレンドは若干「過去のもの」となりつつある。
最近、中国の若い女性を中心にはやり始めたのが「白開水メイク」というキーワードである。
この「白開水」とは、日本語で言う「白湯」のこと。
つまり「白湯のように透明で、あっさりとしたメイク」という意味。
特徴としては、透明度のある白い肌(ファンデーション)にナチュラルな眉毛。
やや淡いイメージのアイメイク。場合によっては目の周りも薄ピンクのアイシャドーなどで淡く彩る者も見られる。
口紅の色も真っ赤ではなく、ぼかした薄いピンクが好まれる様子。
このメイクが本格的に火が付いたのは、中国の若手女優として人気の「鞠婧褘」のメイクが、あまりに可憐でかわいらしいと話題になったこと。
ほんの少し前に、日本でも「中国で中森明菜が人気」といった報道のされ方をした「易砕感メイク」の発展版ともいえるだろう。
すでに中国版Instagramである小紅書(RED)には1万を超える「白開水メイク」のノウハウなどのノートが投稿されるなど、中国SNSを中心に中国が集まっている様である。
まさに「ナチュラル感」を求めたメイクで、かつてのチャイボーグメイクとは対を成すものといっていいだろう。
急拡大する「白湯メイク」をクチコミ分析。何が見える?
トレンドExpressでは、その現在中国で注目されている「白開水メイク」の状況を知るべく、ウェイボー上のクチコミ簡易分析を行った。
まずクチコミ件数だが、2021年5月から11月までの月のクチコミ件数は多くても300件程度だが、12月に一気に1200件を超え、いったん400件程度に落ち着いたが、2022年3月に2000件再び急上昇。
こうしたクチコミ件数の増加が階段状を形成するというのは、中国の新興トレンドが定着していくのによく見られる傾向だ。
【グラフ】「白開水メイク」月次クチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
またクチコミから見る需要度合いも、ポジティブなクチコミが23.59%と比較的多く、ネガティブクチコミはわずか1%程度。
流行とは賛否両論あるのが普通だが、このメイクはかなり好意的な受け取られ方をしている様である。
【グラフ】「白開水メイク」クチコミのポジ・ネガ比率
出所:Trend Express China調べ
またクチコミの中身を見ると、どうしても本物の「白湯」と関連するため「キッチン」や「トレーニング(水分補給)」などのクチコミが見えるが、「視頻(動画)」という投稿がそれらを上回っており、SNS上のメイクノウハウ動画を見ながら「白開水メイク」にいそしんでいる姿が想像できる。
【表】「白開水メイク」クチコミ頻出キーワード上位30
出所:Trend Express China調べ
また、そのメイクの代表格である「鞠婧褘」、「劉亦菲」の名前も見える。
また「鏡面」というクチコミは、このメイクのポイントである輝きのある透明度を鏡に見立てたワード。
同時に「カラー」や「トーン」など、可憐に見せるための色調にもこだわっている様子が垣間見える。
実際に「白開水」メイクのポイントとなっているのは、全体的に主張しすぎないカラートーンである。一部では「ミルクティー色」というような、より中国の自然な肌色に近いカラー、同時に「甘い」イメージをもたらすカラーの使用が薦められている。
このポイントは下位にある「アイシャドウ」や「口紅」、「テクスチャー」、「ベースメイク」などのすべてのメイクアイテムとリンクするだろう。
口紅に関しても、かつてのチャイボークと呼ばれた時のような、真っ赤なものではなく、淡い色合いのものが推薦されている。
こうした情報を小紅書やBilibili動画などの動画によって学んでいるのである。
広がる「素顔」メイク。それも中国トレンドの“一角”
そうしたブームに押されてか「素顔粧(素顔メイク)」というキーワードも、2022年に入り増加傾向にある。
直近12か月間で2万件を超える投稿がされているが、2022年1月2月ごろの急上昇が大きい。
【グラフ】「素顔メイク」月次クチコミ件数の推移
出所:Trend Express China調べ
さらにそのポジティブ率も25%を超えており、現在の中国メイクトレンドが「素顔メイク」という事ができるだろう。
くっきり、はっきりのチャイボーグコスメから、真逆の「素顔メイク」へ。
このトレンド変化には、現代中国の若者、すなわちZ世代が非常に流行に敏感であり、自分に合う物であればすぐに取り入れる、というアクティブさがある。
同時に、この世代は「自分を装わず、自分自身で勝負」という意識が強いのも、素顔メイクが受け入れられる下地になっている様にも感じられる。
もちろん、中国のZ世代、特にその後半部分は趣味嗜好が多様化、細分化の様相を見せている。
そのため、この「白開水メイク」もその中の一翼を担うものの、全体ではない可能性が高い。
今後の中国ではかつての「ガッチリ系」メイク、そして「素顔系」メイクなど、多様なメイクスタイルが共存する状況が生まれるのではなかろうか。