昨年末ごろから中国のライブを中心とするマーケティング環境が大きく変わりつつある。これまで当てにしていたライバーも、一線から姿を消してしまい、マーケティング計画が大きな変更を求められたという企業も少なくない。
そうした荒波の中、中国におけるライブを中心とするマーケティングはどのような状況にあるのだろうか。
直近の中国の報道などを集め状況把握を試みた。
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目次
カリスマライバー時代の終焉
2022年8月現在、中国には圧倒的な影響力を持つ「カリスマ」と呼ばれるマーケティングキャラクターが不在である。
かつて中国においては「李佳琦」と「薇婭」の両名がまさに他を寄せ付けない圧倒的な存在感を示していた。
商戦期に至っては、双方ともに数十億元のGMVをたたき出し、また2人がいったん紹介すると同商品は「李佳琦同款」や「薇婭同款」といった文句でEC上の人気商品となっていったものであった。
しかし、2021年末に薇婭が脱税容疑で活動を休止。そして2022年の618シーズンには李佳琦が公式な理由不明のまま姿を消した。
業界No.3の「雪梨」も、薇婭のすぐ後に同じく脱税の問題で姿を消しており、ライブを含めた「KOL業界」において、アイドル的存在がすべて不在となってしまった。
しかも中国行政ではライブなどのレギュレーションで「不行跡のあった人物、道徳的な問題のある人物のライブを禁止」とのお達しが出ているため、上記のような「問題を起こした」ライバーの復帰は難しい状況になってしまっている。
さらには抖音においてもトップライバーであった「羅永浩」も一線を退くことを表明し、快手において人気ライバーだった「辛巴」も同じくライブ活動から離れるという状況になっている。
これらの状況から、中国ではかつてのようなカリスマライバーを使った「大々的な」ライブマーケティングは事実上姿を消し、ブランドは以前に比べれば「細々と」、小型のライバーや自社独自のライブ活動を展開している状況にある。
女優のライブコマースが刑事事件に発展
多くの課題は存在しているものの、依然としてマーケティングや販売活動においても重要な位置づけをされているライブであるが、8月に入ってライブコマース上で衆目を集める事件が起こってしまった。
ライブコマースを行ったのは「戚薇」。
2006年のシンガー発掘番組「我型我秀」で注目され、その後女優に転身した女性である。
事の発端は抖音ユーザー“琉璃是什么璃”が戚薇のライブコマースで購入したKiehl’sの商品がニセモノだったとの動画を抖音上にアップしたこと。
さらに8月14日、このユーザーは戚薇のライブルーム運営側が「10倍の経済損失補償をする代わりに、ユーザーがアップしたニセモノ告発動画を削除すること、および商品の回収を求めた」との動画を抖音上に公開した。
“琉璃是什么璃”は運営側に「それはニセモノを販売したことを認めるということか」と問いただしたところ、ライブルーム運営側は「そうではない。ただニセモノ告発動画は店舗の運営に影響があるため」とニセモノの販売を否定。商品の回収に関してもライブコマース運営側は「ブランドに送り、商品の状況を確認するため」と説明した。
“琉璃是什么璃”は「公正公平な鑑定結果を求める」として、その要求を拒否。
8月17日になり戚薇側は公式な声明として「販売している商品はすべて正式なルートで調達したものである」と発表。
同時に「もしニセモノであったら販売金額の10倍の補償をすること、商品の品質に問題があれば責任を負う」旨を告げたうえで「事実と異なる告発に関しては容認できない」と争う構えを見せた。
“琉璃是什么璃”側がニセモノと主張する理由となっているのが「心心美妆鉴定」という化粧品の真贋を確認するアプリ。
購入した商品を同アプリで確認したところ「ニセモノと鑑定された」ことを根拠にしての告発であった。
それに対して戚薇側は8月22日、警察署にいる写真とともに「すでに警察に通報しました。すべては関連部門の調査を待ちます」との内容を微博上にアップ。本件を刑事事件として真偽を明らかにする姿勢をしめしている。
細かな通報内容は明らかにされていないが、状況から見て“琉璃是什么璃”の告発を虚偽のものとし、公的機関の介入によって事実の真偽を明らかにしようとしていると思われる。
中国では近年になってライブコマースに関しても細かなレギュレーションが発表され、ライブコマースで販売される商品の品質や真贋に関してはライバー自身も法的な責任を負うことが求められている。
そうしたライブコマースの法制化の面で、今回の事件の結果が気になるところである。
課題をはらみながらも新たな存在の模索へ
このようにカリスマ不在、ライブコマースでの事件などの問題を抱えてはいるものの、中国においてはオンラインマーケティングの勢いが衰えているというわけではない。
むしろ、こうした中で新たな影響力を持った存在の発掘に向けて動きが進んでいる。
抖音と並ぶもう一つのショート動画アプリ「快手」ではV-starと呼ばれる、バーチャルライバーに力を注ぎ始めている。
中国ではメタバース(中国語では“元宇宙”)の活用が広がっているが、その中の一つとしてバーチャルキャラクターのマーケティング活用も徐々に注目されている。
そうした空気の中で快手は同アプリ上にアカウントを開設したバーチャルキャラクターを、有名ライバーとして育成する、もしくは育成をサポートするプロジェクトを始めたというものである。
すでに快手には「狐璃璃」、「机霊小熊猫」、「万一」、「図南翼」、「M浔少鹿」などのバーチャルキャラクターがアカウントを開設しているが、V-starプロジェクト最初の育成対象となった「狐璃璃」は1カ月半で120万人のフォロワーを確保するまでになっている。
すでに淘宝直播(点淘)で中国発のバーチャルキャラクター「洛天衣」のライブコマース事例はあるものの、快手でもバーチャルキャラクターがライブコマースなどのマーケティング領域で活用していくかは注目しておきたいところである。
また面白い動きとしては、小紅書(RED)において40代、50代女性のコスメブロガーが注目されているという現象である。
その代表ともいわれる小紅書ID「Angel Z」を見てみると50代とは思えないほど非常に若々しい。
こうした女性がそのアンチエイジングの手法(食事や健康法、コスメの心得など)を紹介するというのが注目を集めている要因となっている。
すでに複数の年配美容ブロガーが小紅書上でフォロワーを増やしつつあるようだが、そのいずれも「凍齢(凍り付いたように年齢が動かないこと)」や「逆齢(年齢に逆行して若くあるの意)」などのコピーで投稿されており、さらに少なからぬコスメブランドが「品牌合作人」となっている様子が見て取れる。
すでに広く知られているように、中国ではアンチエイジングニーズが非常に高い。
しかし、その中心となっているのは実際に年齢による変化が生まれる40代や50大ではなく、20代や30代という若い層。
すなわちアーリーアンチエイジング層である。
こうした世代は老化を「予防する」という意識が高いこと、同時に動画サイトや仕事の関係で夜更かしが日常化し、老化に近いダメージを感じていることが影響しており、「とにかく早いうちからエイジングケアを」と考える消費者が少なくない。
実際にエイジングケア化粧品として人気のSK-Ⅱを20代から使い始めるといったケースも、ずいぶん前から存在しており、近年はそれが成分党などの影響を受け加速していると考えられる。
▼参考記事
中国Z世代「美白」「クリーンビューティ」に続く 中国コスメの新しい勢力「アーリーアンチエイジング」とは?
中国Z世代「美白」「クリーンビューティ」に続く 新しい勢力「アーリーアンチエイジング」とは?Vol.2~クチコミ分析から読む~
事件の波の中で新たな形を模索している中国のライブマーケティング市場。
その中にあって、ブランド側は変化の状況を見極めながら、自社に合った存在を見出し、活用していくという選択眼が求められることになる。