中国のトレンドの変化は日本のそれよりも速い。高速で変わっていく、というのは中国事業に携わる者であれば常識である。
しかし、近年さらにそのスピード感が増している感がある。
つい先日、「中国におけるキャンプブーム」について語った記憶がある(【column】人気番組で急拡大!周辺商品までも広がる中国キャンプブーム)が、そこからさらに新たなトレンドが中国を席巻している。
今回はいま中国で熱く燃え上がっているスポーツに目を向けつつ、こうした情報をどのように生かすのか考えてみたい。
目次
中国で謎の爆増を果たした「フリスビー熱」
中国でこの夏、にわかに注目を集めたスポーツが「フリスビー(フライングディスク)」。プラスチックなどで作られた円盤を投げ合う、あのスポーツである。
このフリスビーが、2022年、急に「トレンド」スポーツとして注目されているのである。
トレンドExpressでは、まずはこの突如として起こったフリスビー熱の状況を把握するべく、Weiboのクチコミ分析を試みた。
まずはフリスビーを意味する「飛盤」の直近1年間の月次件数推移である。
【グラフ】「飛盤」月次クチコミ件数推移
出所:トレンドExpress
これを見ると、実は2022年2月まで平均で月5,000件程度の関連書き込みが行われており、フリスビーが全く行われていなかったわけではないことが分かる。
件数から見れば、パッと出のブランドより多いほどである。
つまりコロナ禍においても、中国では一定のプレーヤーがいたことになる。
それが急激に伸びているのが6月、7月。
気候も良くなり、また各地のロックダウンも緩和の動きを見せてきたことで、屋外での活動が活発化した時期である。
ちなみにOceanEngine社による『2022抖音用户潮流生活洞察』というレポートにおいても、5月から7月にかけて検索数、関連動画数、再生回数が急激に増加している点が紹介されている。特に7月の関連動画回数は5億回を超えているとされているほどである。
この時期は同じくキャンプなどの屋外活動も増えた時期で、中国におけるゼロコロナ政策による外出制限、ロックダウンによる「引きこもり生活」のストレスを発散させるように、多くの消費者が屋外へと向かっていった時期である。
その中でフリスビーに注目が集まった背景としては、有名アイドルが各種スポーツに挑戦する『極限挑戦』というネット番組で紹介されたこともあるが、そもそもフリスビー自体は「専用の場所を必要としない」、「特に特殊な訓練を受ける必要がない」、かつ「運動量が多く、運動不足解消やダイエット効果が期待できる」という面が注目されたようである。
中心となったのはやはり若者層で、人気のSNS・小紅書(RED)にはすでに70万件を超える関連投稿がなされている。
と同時に、「フリスビーに適したファッション」の関連投稿も1万件以上が投稿されており、スポーツとしてだけではなく、ファッショントレンドとしても人気が急上昇しているのである。
続いてフリスビーに関する投稿の頻出キーワードを見てみよう。
【表】「飛盤」関連頻出キーワード上位30
出所:トレンドExpress
やはり番組名である『極限挑戦』が上位に上がっており、フリスビー人気に拍車をかけたことが分かる。
また「小狗(子犬)」というキーワードがみられるが、近年広がっているペットブームも、フリスビーとリンクして楽しむ傾向がありそうだ。
また「社交」、すなわちコミュニティづくりである。
コロナ下では外出制限を受け、外食なども難しく、人付き合いが疎遠になっていた。そうした仲間同士の交流の場として、公園などの広い場所でのフリスビーが利用されていると言える。
さらにそうした場において「出会い」を求めるといった背景もあるのだろう。
さらに「老人(高齢者)」や「小朋友(子供)」など、家族で手軽に楽しむ競技としても、フリスビーは浸透しているものとみられる。
こうした動きは「テスト重視」の教育から「より健康的な国民づくり」へと転換を行っている教育業界、スポーツ業界からも注目されており、2022年8月には中国教育部(日本の文科省に相当)や国家体育総局も、フリスビーを義務教育のスポーツとして組み込む動きや、国主宰のフリスビー大会の計画なども発表、今後、中国国家規模でのスポーツとして振興が進められる様子である。
街中で広がる人気スポーツとは…
もうひとつ、この数カ月で注目されているスポーツがある。
それが「滑板(スケートボード)」と「陸地沖浪板(サーフスケート)」である。
こちらもフリスビー同様、場所を選ばない屋外スポーツとして人気ではあるが、フリスビーよりもよりファッション性が高いスポーツと言える。
日本でも2021年の東京オリンピック後ににわかにスケートボードの人気が高まっているが、中国でもやや遅れてその動きが見えるようである。
さらに冬季オリンピックではウインタースポーツの中でもスノーボードが注目を集め、雪の降らない春~夏場にかけてのスポーツとして、スケートボードやサーフスケートが注目されているという一面もある。
特にスケートボードの一種である「陸地沖浪板(サーフスケート)」は、フリスビー同様、2022年の春以降になって急激に人気を高めており、抖音上においては主に10代後半から20代前半の若者のファッショントレンドとして抖音、小紅書などに投稿されている。
【グラフ】Weibo「陸地沖浪板(サーフスケート)」関連投稿件数の推移
出所:トレンドExpress
スケートボードやサーフスケートは、フリスビーよりも難易度が高い。
どうやらそこに若者たちは憧れ、興味を抱いているようで、小紅書や抖音にもサーフボードの基礎的な乗り方から、難易度が高めの技などが投稿されている。
こうした技をクールに決める、という点が中国でサーフボードにハマる若者にとってはステイタス的な意味合いがあるようだ。
さらには単純な広い公園だけではなく、小区(マンションエリア)などのすぐ近い場所でも手すりや階段を使った技の練習ができるという点も挙げられる。
ただし、日本同様にそうした行為を快く思わない年配者もいるようであるが……。
スケートボード、スノーボードはオリンピック種目。スケートボードやサーフボードの人気が高まることで、将来的には中国からもこれらの種目の注目選手が現れて行って欲しいものである。
若者のトレンドを知る事のメリットとは
こうしたフリスビーやスケートボード(サーフスケート)、さらに先の紹介したことのあるキャンプブームは直接化粧品などとは大きな関連性が無いように思われるが、こうしたトレンドは中国向けマーケティングを行う上では必須の知識と言っていいだろう。
現在、中国でコミュニケーションやマーケティングに使われているツールとしては文字と写真だけではなく、動画、ショート動画、ライブなど、そしてプラットホームにおいてはWeibo、WeChat、小紅書、抖音、Bilibili(B站)など、それぞれ多岐にわたっているが、共通しているのは「コンテンツ重視」へと移行している点である。
いかに大きなブランドでも、より対象消費者の心を惹きつけるコンテンツを作り上げなければ見てもらうことは難しい。
そしてそのコンテンツはデザイン、音楽などに加えてストーリー性が非常に大きな要素であり、そのストーリーは消費者の生活とかけ離れると共感を呼ぶことはできない。
そのプロモーションにおけるストーリーを考えるうえで、こうした現在のトレンド要素を組み込むことで、中国のターゲット消費者の関心を引きやすい分けである。
ライブコマースなどもよりストーリー性、コンテンツの作りこみが求められていく傾向にある今、単純に自社商品の業界情報だけではなく、消費者の生活そのものの変化をいち早く吸収し、マーケティングストーリーに組み込んでいく事が重要化しているのである。