【column】マタニティコスメの根底は「植物派」 注目のローカルブランドをクチコミチェック

前回紹介した中国におけるマタニティコスメ市場。

世代交代の中で中国のマタニティ層でも「今まで同じくきれいなままでいたい」というニーズが広がり、これまでは避けられていた妊娠期におけるお化粧という習慣が広がりつつある。

そのなかでリーディングカンパニーとも見られるブランドも登場していることが、クチコミ調査から浮かんできた。

今回は今、中国のマタニティ層が注目するコスメブランドをクチコミ分析してみよう。


▼前回はこちら
【column】妊婦さんも世代交代。変わる意識の中で成長する中国マタニティコスメ


マタニティコスメとコスメ業界で分化が進む「成分党」と「植物派」

本題に入る前に中国のコスメ業界の特徴を振り返ってみよう。

中国におけるコスメや食品の判断基準が「成分」となってきていることは、業界ではすでに常識となっている。

いわゆる「成分党」と呼ばれる消費者群である。

 

その状況を漠然と「中国消費者は成分を気にする」という認識でいないだろうか。

しかし近年、中国消費者の消費を見てみるとその成分党が、内部で複数の「派閥」に分かれていることに気が付く。

そしてその派閥が、前回紹介したマタニティコスメにも非常に大きく影響していると考えられる。

 

成分党内で主流となっている「派閥」が、「良い成分を使う」というグループである。

例えばヒアルロン酸やアミノ酸など、有名で人気の高い成分が思い浮かぶ。日本の企業が思い浮かべる中国の成分党に最も近いグループだろう。

 

もう一つが「草本派」という派閥である。

草本とは、日本で言う漢方。すなわち中国伝統医学をベースに処方された化粧品を使うというグループのこと。

漢方は2000年代初期まであまり顧みられてこなかった(西洋医学中心だった)が、近年は再評価が進み、自然の薬剤に基づき、効果がありながら副作用が少ない薬剤として認知されており、一部の若者は食事にも取り入れている。

燕の巣を用いた商品が美容・健康サプリとして高い人気を誇っている点からも、広く浸透していると言えるだろう。


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そしてもう一つ注目しておきたいのが「植物派」である。

これは体に悪影響を及ぼさないように科学的成分を避け、より植物由来の成分を使用した化粧品を愛用する派閥であり、上記の「草本派」と共通点が多いが、必ずしも中国伝統にこだわらず、海外で注目されている植物由来の化粧品を積極的に試していくという派閥である。

 

さらに、こうした「草本派」や「植物派」等が、微妙に合わさって生まれているのが、中国式クリーン・ビューティという派閥である。

敢えて「中国式」と付けたのは、日本を含む海外のクリーン・ビューティとは、若干の相違があり、中国では主に「皮膚に悪影響をもたらさない、自然派化粧品(無添加化粧品)」という認識が強いためだ。


▼参考記事
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こうした「草本派」および「植物派」などの影響に基づいて、中国のマタニティコスメが形成されているわけであり、植物由来、クリーン・ビューティなどをうたった商品にとっては重要な消費者層となっている。

植物派マタニティ層にじわじわ広がる中国ブランド

前回、妊娠期間におけるコスメ、スキンケア、メイクアップについてWeibo簡易分析を行なったが、その中のコスメ全般およびメイクアップにおいて名前が挙がったのが「植物主義(PLANT’ISM)」というブランドである。

【表】妊娠期におけるコスメ、スキンケア、メイクアップのクチコミキーワード

出所:トレンドExpress調べ

実はこのブランド、筆者も全くのノーマークブランドだった。

 

これまで中国で人気のマタニティグッズと言えば日系の「Pigeon」や「Mama&Kid’s」などが知られていたが、当時の中国マタニティではお化粧というものが忌避されていたため、コスメ分野においてはあまりマーケティングを行ってこなかった。

 

そのスペースを埋めたと思われるのが、この「植物主義(PLANT’ISM)」であった。

 

同ブランドの運営元となっている「宿迁画眉鳥生物科技有限公司」が、登記上は2011年となっているが、「植物主義(PLANT’ISM)」自体が注目されたのは2016年ごろからである。

ホームページを見ると、「妊娠期のためのアボカド成分スキンケア」や「妊娠期天然植物メイクアップシリーズ」といった、マタニティ層をターゲットとした言葉が並んでいる。

またT-Mall(天猫)旗艦店においても、スキンケアと同時に妊娠期でも安心して使える口紅などのメイクアップ商品が人気商品として表示されている。

これまで、妊娠期は商品に含まれている化学成分が肌を通して体内に入り、胎児に悪影響があると言われていたために、メイクアップを避ける傾向があったが、新世代が母親になる時代に入ることで、「安心して美しい妊婦」となるニーズが高まった。

それを「植物由来」という、成分党派閥ニーズとともに巧みに取り込んだブランドであると言えるだろう。

Weiboクチコミ分析から見る「植物主義(PLANT’ISM)」

トレンドExpressは同ブランドについて、同じくWeiboの簡易クチコミ分析を行った。

まずは月次クチコミ件数を見てみよう。

【グラフ】直近1年間の植物主義(PLANT’ISM)月次クチコミ件数推移

出所:トレンドExpress調べ

みると、クチコミ件数は2021年末から2022年初までにジワジワと増加している様子だが、急増しているのが2022年4月ごろである。

 

同ブランドのWeiboアカウントを見ると、4月にはT-Mallにおける「親子節」に参加しており、それに向けたマーケティング活動によってクチコミ数も増加していると考えられる。

興味深いのは、同ブランドに関するクチコミの中身である。

【表】植物主義(PLANT’ISM)クチコミ頻出キーワード上位30

出所:トレンドExpress調べ

同ブランド名とともにつぶやかれているクチコミ投稿において、最上位に来ているのは「授乳期」である。

確かに妊娠中なども気を遣うのだが、出産後、授乳期においても母体を通じて母乳に化学物質が混入する危険性を避けるために、しばらくはメイクを避ける傾向がある。

しかし、妊娠期や出産直後に比べて母親も活動範囲を広げられる時期であり、子供と一緒に外出などの機会も増える。

そうした環境下におけるコスメ、メイクアップ需要というものも無視できないものがあり、同ブランドの対象ターゲットとなっていることが分かる。

 

またもちろん「妊婦」そして「カラーコスメ」など、同ブランドが得意としているキーワードが上位に上がっているのが見て取れる。

 

これまでは「使わないから」という理由で避けていた消費者層であったマタニティコスメであるが、ここに来てその層に特化したブランドが登場している。

やや機先を制された感があるが、現在、海外では「クリーン・ビューティ」の流れで、植物由来、環境にやさしいコスメ商品に開発に注力しているが、実はこうした商品は中国におけるマタニティ消費のニーズとも合致しているとも言える。

 

同時に中国のコスメ市場は確かに20代、30代が中心となっているが、同時にこの世代は中国における出産年齢とも一致している。

 

植物成分における環境、人体に優しい商品というのは、こうした層に対して十分に戦える素質があると言えるだろう。

そしてそうした商品において、マタニティ層に向けての訴求というものをマーケティング戦略に組み込んでいく事も、中国においてブランド浸透を図るいい機会となるはずだ。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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