【考察】最大商戦に何が起こったのか?2022年ダブルイレブンを振り返る

2022年も最大商戦であるダブルイレブンが終了した。しかしその様相は、大きな変化があった前年を超えるほどの変化、調整がなされる状況であった。

公的発表の少ない状況の中で、中国の専門メディアで報道されている内容を拾い集めながら、2022年のダブルイレブンの状況を予測してみた。

2022年のダブルイレブンを振り返る

2022年のダブルイレブンは昨年に引き続き異例だった。

毎年、11月10日の夜には最大手のアリババが、複数のテレビ局やオンライン動画サイトと連携して「ダブルイレブン前夜祭」を開催。

中国だけではなく、世界のトップクラスのスターが結集し、さも日本の年末イベントの様な大型番組を放送していたのだが、2022年に関しては開催されずに、昨年に増して静かなダブルイレブンとなった。

 

また2022年のダブルイレブンにおいて「GMVの発表はしない」との公式発表があったのも異例であった。

結果T-Mallは「稳中向好,交易规模与去年持平(安定しながらも好調。交易規模は昨年とほぼ同じ)」とだけ発表しており、昨年の5403億元と同規模、もしくは増加があったとしても微増と考えられ、5400~5600億元程度ではなかったかと予想される。

 

ちなみに、星図数据は独自のビッグデータ解析を用いて、10月31日20:00-11月11日23:59におけるすべてのプラットホーム(総合EC、ライブコマース、社区団購、新型EC)総合のGMVを1兆1154億元(昨対比13,7%増)と予想。

そのうち、T-Mall、JD.comを含む総合ECプラットホームでは9340億元、昨対比2.9%増の微増と見ており、トップは変わらずT-Mallであったとされている。

また注目のライブコマースにおいては総合金額で1814億元を売り上げ、プラットホームにおいては抖音が点淘(Taobao Live)を抜いて首位に立ったと分析をしている。

 

中国の消費動向でもっとも注目されるのがコロナの影響である。ゼロコロナ政策のもと、厳しい行動制限が行われ、それによって経済が停滞、消費も滞るのではないかとの予測が出ていた。

 

今回は明確なGMVが発表されなかったことで、日本のメディアも含め実際よりも消費の停滞(GMVの下落)を予測する声も大きい。

中国国家郵政局の発表によると11月11日当日の取り扱い小包量が5.52億個、昨年比で20%以上も下落したことから、中国国内においても消費の下落を予測する声もある。

 

仮説にすぎないが中国におけるコロナは一定の影響を与えたと考えられるが、T-Mallの「昨年と同レベル」というのはある程度納得のいく数字であると考える。

 

経済的に影響の少ない富裕層にとっては海外旅行などができなかったことによる、いわゆる「リベンジ消費」が発生し、ハイエンド商材に関する消費が発生した可能性が高い。

 

また経済的な影響を受けた消費者にとっては、ダブルイレブンはもっとも安く生活必需品を購入する機会でもあり、それによる「買いだめ消費」もGMVの底支えをする結果となったのではないかと思われる。

もしそうした状況であるのであれば、おそらく年末~春節にかけての商戦は消費が伸び悩むのではなかろうか。

コスメ市場の結果はいかに?

では、気になるコスメ市場の動きを見てみよう。ここでは中国小売業界のメディアである「億邦動力」の発表による状況から観察してみることとする。

【表】T-Mallダブルイレブンスキンケアランキング

出所:億邦動力に発表に基づきトレンドExpressにて作成

 

上位、外資系ブランドは盤石となっており、日系では資生堂が引き続きランクインを果たしている。

注目すべきはWINONA、そして618で急上昇した中国ブランドPROYAが上位に食い込んでおり、スキンケア業界における中国ブランドの伸長を感じさせる。

 

一部発表データだと天猫スキンケアトップ10ブランドの合計売上は昨年比で4%ほど下落と言われている。

しかし同時にWINONAは14億元、PROYAは13.3億元、またランキング外ながら夸迪QUADHAは7.66億元の売上を記録しており、いずれも昨年ダブルイレブンを上回る成果を上げているという報道がある。

 

ではメイクアップはどうだったのだろうか。

【表】T-Mallダブルイレブンメイクアップランキング

出所:億邦動力に発表に基づきトレンドExpressにて作成

天猫メイクアップ。こちらのトップ10売上は昨年比で28%の減少とのこととの報道がある。

前述のように一部の消費者が「必要なモノを買い溜め」をしていると考えると、その消費の重点がメイクアップよりもスキンケアに向いてしまうのはやむを得ないことであろうと考える。

またリベンジ消費においても、より単価の高いスキンケアに消費力を向けるというのも考えうる状況であると考えられる。

 

そのメイクアップランキングでは、ついに中国ブランド「花西子」がTOPに立った。

しかし、その一方でその他の中国ブランドはランク外となり、一時期破竹の勢いだった「PERFECT DIARY(完美日記)」も今回もランク外となっている。同ブランドについては中国の業界メディアでも報道がなされており、別途分析してみたい。

 

ただスキンケア、メイクアップいずれにおいても中国ブランドが存在感を見せる結果となった。

これは消費者のニーズ、消費行動の変化があると考えられるが、その点に関して少し考察してみよう。

「理性消費」の中の中国市場~これからの消費

今回のダブルイレブンでも「理性消費」というキーワードが広く、かつ公的に発信されていた。

この言葉について考えてみたい。

 

単純に言えば「必要なモノ」を「必要な量」購入するという言い方ができるが、これをさらに深く読み解く必要がある。

 

これまで中国の消費者が商品の良し悪しを見分けるポイントはブランド名の大きさであった。

つまり世界的な有名ブランド、多くの人が知って使っているブランドであれば安心だろうという点である。

 

そうした心理を背景として欧米系のグローバルブランド(天猫ダブルイレブンにおけるスキンケアTOP4など)は消費者の信用を勝ち取り、現在においても非常に多くのユーザーが利用している。

 

前述のランキングにも見えるように、2022年のダブルイレブンの結果においては、スキンケアでは欧米系が天猫での売上において上位を押さえたものの総額は伸び悩み、代わって国産ブランドの売上が好調であったとの報道がある。

 

これは消費者が単純なブランド志向から、「ブランドだけではなく、その商品が自分の状態に合ったものであるか否か」を見、その見地から情報を収集して商品を選び始めたからではないかと考えられる。

 

化粧品業界におけるこうした変化は、「成分党」の登場がその走りであると考える。

すなわち、これまでのように単純に「いい商品」という認識での購入ではなく、「何がいいのか」を、含まれている成分を通じて認識し、それが「自身の肌質や肌悩みの解決に合致しているか」という点を分析し、購入するようになっていった。

 

それが、やがて「無添加」派や中国伝統処方に注目する「草本」派など、さらに細かな「派閥」に分岐している。

 

そして現在見られるのは、機能性化粧品(効効型化粧品)と呼ばれる、特定の機能に特化した化粧品が登場し、消費者も自身が抱えている肌悩みに対応した商品を優先的に選んでいくという視点である。

 

これらの変化は、いわゆる中国消費者の成熟と見ることができる。

 

こうした点から鑑みるに、中国の化粧品業界はより個別の悩みに特化した商品が増えてくると思われ、消費者にとって個別の悩みをピンポイントで解決できる商品へと注目が集まると思われる。

そしてそれが軸となって、その中でハイエンド・ミドルエンドというクラスの差が出来上がっていくのではないかと予想される。

今後のダブルイレブンは?

「理性消費」に「コロナ」、前夜祭もGMVの発表も無くなったダブルイレブン。ではその意義は今後衰退していき、ダブルイレブンそのものも消えてしまうのだろうか?

 

おそらく、今後もダブルイレブンは存在し続ける。そしてそれは中国最大規模の商戦であるだろう。

しかし以前、すなわちこの10年間の様な、熱狂的な雰囲気ではなく、年間行事の一つとしての商戦。例えるならば日本の楽天における「楽天スーパーセール」のような、ごく自然な商戦となるだろう。

 

いや、これまでが異常だったと言えるのかもしれない。

 

莫大な費用かけての前夜祭、中国国内だけではなく日本を含めた世界で報道されるGMV。そうした「点」ばかりが大きく喧伝され、その商戦としての規模感は一企業が行うレベルのものを越えてしまっていた。

 

運営企業だけでなく、出店する企業(ブランド)も、そこで売る事だけに注意が向かってしまい、点だけのマーケティング活動になりがちであった。

 

しかし、ダブルイレブンが熱狂的なカーニバルから落ち着いた商戦に移行することで、いわゆる衝動的な消費を煽り、それに乗った宣伝よりも、そこに至るまでの道筋の中でしっかりと継続的に商品の魅力を伝える、本来のマーケティング活動が重要さを増してくることになるだろう。

 

単発的な「商戦」頼りから、「市場攻略」へ。中国における市場競争は、これからが本格的なものとなる。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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