3年間で変わるニーズ、変わる「爆買い」 中国SNSから見る中国訪日観光客の「ショッピングニーズ」とは?

2023年に新型コロナ関連の入国手続きが変わり、インバウンドが再開となった日本。すでに多くの外国人が訪れ始め「インバウンド復活」を感じさせている。
しかし、いまひとつ物足りなさを感じるのはコロナ前には最大の人数と消費金額を誇った中国からの入国者数だ。
特にインバウンド復活による「爆買い」を期待する声は大きい。
では実際に爆買いは復活するのか?
コロナ前ではなく、「今の中国消費者」のニーズを中国SNSから拾ってみると、コロナ前とは異なる、新たな訪日観光ニーズが見えてくる。
今回は本格的な「戻り」を感じさせた春節期のクチコミから見てみよう。


波乱はあったものの中国消費者の日本旅行ニーズは高い

まず、気になる中国人訪日観光客の戻りである。
こちらはJNTOの公的数値を見て行こう。

【グラフ】2023年1月から2024年3月までの中国(メインランド)訪日観光客数推移

出所:JNTOの定期発表をもとに株式会社NOVARCAにて作成

これを見ると、2024年2月の春節シーズンには2019年同月比で60%まで回復、それが終了した3月に至っても2019年比で60%を保ち続けていることが見て取れる。

「わずか6割」ともいえるが、1年前に比べると極めて短期間で急拡大していることがわかる。

さらに2023年8月には訪日団体旅行の取り扱いが解禁されたにもかかわらず、「処理水問題」が発生し、訪日観光をしにくい状況が生まれた(株式会社NOVARCA『日本の処理水海洋放出に関する中国SNS定点観測報告』参照)。

にも拘わらず、これだけの数の消費者が日本を訪れている。

さらに2024年4月7日報道においても「清明節短期休暇」の旅行、大手旅行代理店である「飛猪(Fliggy)」は人気目的地のひとつとして日本を上げている(https://www.ebrun.com/20240407/545425.shtml)。

日中間にはいろいろにはあったが、中国消費者にとっては3年たってもやはり日本は「行きたい」、「行きやすい」人気スポットなのである。
日本にとってはありがたい話だろう。

このあたりのニーズは、先日株式会社NOVARCAが行ったインバウンドセミナーで述べられているので参考にしていただきたい。

中国人消費者にとってのショッピング、まずは「ドラッグストア」。

さて株式会社NOVARCAでは中国版Instagramと呼ばれ、商品やショッピングからインバウンド情報までが飛び交うSNS「小紅書(RED)」から、春節シーズン訪日時のショッピングニーズに関するキーワードを検索、ワードを収集・整理した。

ただし、コロナ前と異なりワードが多岐にわたっているためあくまでも参考値として見ていただきたい。
おもな仕様は以下の通り。

【分析対象】

小紅書(RED)簡易分析

【分析期間】

2024年1月15日~2024年2月17日

【分析キーワード】

  • 日本百货店(百貨店)
  • 日本药妆店(ドラッグストア)
  • 日本药妆店必买|日本药妆店不踩雷|日本药妆店买什么(ドラッグストア・ベストバイ)
  • 日本药妆店+清单(ドラッグストア・リスト)

まずはクチコミ件数から見て行こう。

2024年の春節シーズンにおける「日本百貨店」と「日本ドラッグストア」のキーワードによる小紅書(RED)上のクチコミ件数を収集したのが下のグラフである。

期間中、百貨店が536件だったのに対し、ドラッグストアに関する投稿は993件と大きく上回った。

【グラフ】2024年春節期間中の小紅書「百貨店」、「ドラッグストア」投稿件数

出所:『春節期間中の 百貨店・ドラッグストア クチコミ分析』(株式会社NOVARCA)より抜粋

日別の件数推移を比べてみると、百貨店に関する情報には日によって乱高下しているが、ドラッグストアに関しては日常的に投稿されている。
特に春節期に入って以後の件数に関してもドラッグストアはその情報発信に衰えが見えていないことが見て取れる。

さらに期間中、それぞれのキーワード投稿のポジネガをみると両者の違いが歴然となった。

【グラフ】2024年春節期間中の小紅書「百貨店」、「ドラッグストア」投稿のポジネガ比率

出所:『春節期間中の 百貨店・ドラッグストア クチコミ分析』(株式会社NOVARCA)より抜粋

「日本百貨店」の投稿に関して、ネガティブ率は0.6%と極めて低いが、ポジティブ率も9.1%と決して高くない。大部分がニュートラルの投稿である。

それに比して「日本ドラッグストア」に関しては35%以上がポジティブなクチコミである。もちろんそこにはKOLやKOCなどのマーケティング活動が大きく寄与していると言えるだろう。ただ今後の日本における訪日ショッピングはドラッグストアを中心に回る印象さえ起る。

これまでの条件を見ると、ドラッグストアの圧勝であり、百貨店に希望が無いかに見える。
しかし、本当にそうだろうか?

クチコミキーワードから、中国消費者の心理と日本観光時の買い物の行動について考察してみよう。

なぜドラッグストアへ?百貨店の商機とは?

この違いはどこから来るのだろうか?

一つは中国消費者の「理性消費」や「成分党」などの、より「自分に合った消費行動」を重んじる考えである。

中国の消費者は2000年代に消費が本格化してから、常にその嗜好が洗練されてきた。
単なるネームバリュー、ビッグブランドを求める動きは徐々に薄まり、「なぜ自分に必要なのか」を求める動きが強まる。
「成分党」も自分の肌悩みや発生するプロセスを科学的に理解し、それに対して効果的な成分を優先的に選んだり、身体に少しでも有害な成分を排除したりする考え方から始まったのである。

日本においてそうした「お悩み解決グッズ」はたいていドラッグストアにおいてあることが多い。

そしてドラッグストであれば非常にリーズナブル。

価格が手ごろで対象症状や効果が明確という、理性的な消費概念に合致するのである。

さらに「消費昇級」の名のもとに、より質の高い生活、衛生的な生活、健康的な生活が求められると、より日本のドラッグストアのアイディア商品などに注目が集まったわけである。

では百貨店はこのまま勝機が無いのだろうか?
そうとは言えない。

まず株式会社NOVARCAが2024年1月に発効した『中国SNSクチコミから見る2023年インバウンド概況レポート』でも同様にドラッグストア人気が出ていたが、明らかに中国消費者が「購入するモノを分けている」傾向が見えた。

【グラフ】2023年における「日本百貨店」と「日本ドラッグストア」のクチコミワード

出所:『中国SNSクチコミから見る 2023年インバウンド概況 レポート』(株式会社NOVARCA)より抜粋

それぞれのキーワード、を見てみるとドラッグストアはかつての消費の中心であったスキンケアなどの化粧品に関するクチコミ、またシャンプーなども見える。
それに対して「日本百貨店」に関しては(同時期に成都市で日本切子のイベントが行われていたため、その関連が上位10を占めている)、ウイスキーやブランド品、ファッションなどが多くなり、またお菓子も上位に見える。

ファッションは日本の百貨店のテナントを見ながら出勤時などの服を見るという女性(上海在住、30代)から話を聞いた。
上海有数の金融街で働く女性は、
以前は服装もON/OFFの差が小さかった中国でも、ファンドやコンサルティングなどの高級ビジネスサービス業界の拡大によって、よりそのイメージにふさわしい服装が求められる。

そうしたファッションを日本の百貨店で求める傾向が見られ始めている様である。

また「お菓子」も新しい百貨店キーワードだ。
それもコンビニやドラッグストアで購入できる市販のお菓子ではなく、百貨店内にテナントを構える有名高級スイーツであり、自分用だけではなくオフィスでのお土産用などの意味合いで購入する層も少なくない。

さらには「探店(有名店訪問)」というワードも見受けられる。
前出の『中国SNSクチコミから見る2023年インバウンド概況レポート』でも日本旅行の目的先には「新宿」や「銀座」などのショッピングエリアが挙がっている。
そこで、有名百貨店に足を運ぶのは自然なコトだろう。

以前は「百貨店で買うもの」が決まっていたが、今は「百貨店をぶらぶら眺めながら気になったアパレルやアクセサリーなどを購入する」というスタイルに変わっているようだ。
もちろん現在は高所得者が多いため貴金属の購入もその目的になっているようだ。

いずれにせよ、百貨店から完全に足が遠のいているのではなく、中国消費者にとって日本の百貨店は「買い物の場」でなくなったが、「買い物のできる観光スポット」となりつつあるのではなかろうか。

こうした心理をついて国内のアパレルや化粧品などの有名ブランドと共同でのオフラインイベントなどで話題を作り、消費者を呼び込むなどの努力は引き続き必要になるだろう。

日本では止まっていた3年間が動き出した。
しかし、その期間に動き続けてきた中国消費者は(日本人にとっては)新たなニーズと方式で日本を楽しもうとしている。
受け入れる側としてはそのニーズは正しく把握しておきたい。

株式会社NOVARCAでは月次で中国消費者の日本観光を小紅書クチコミから分析するレポートを発行している。

ご興味のある方はぜひお問い合わせからご連絡いただきたい。

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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