2024年ダブルイレブン​ オープンデータと​ クチコミ分析から見た​ 戦況概要​

歴史上「最長」の2024年W11(ダブルイレブン)。

SNSプラットフォームの勢力図の変化や、政府補助政策の影響、消費者心理の変化などが大きく反映された2024年のW11。この記事では、スキンケア市場の動向、主要ブランドの戦況、さらにはライブコマースの成長について、ビッグデータやクチコミ分析を通じて2024年のW11がどのように進化したのか、詳しく掘り下げていく。

2024W11総括

抖音の商戦PRが急増。同時に行政のW11後押しも

2024年のダブルイレブンは多くの面で「従来とは異なる」様子が異なる商戦となった。各プラットホームや小売媒体でも、あまりGMVランキングなどが発表されず、「星図数据」のみが従来通りの分析を続けている。

大きな状況を把握するため「W11」ワードでの情報がどのように発信されたかをビッグデータ収集を行った。

これを見ると「W11(双十一)」キーワードでの投稿件数は減少傾向にあるが、特に微博の発信比率は減少している。増加傾向にあるのは抖音で商戦期のSNSの力の変化を見ることができる。

また2024年は「新聞(SNS以外のメディア)」での発信比率が増えており、メディアを管理している行政が商戦への参入を強めていることが想像できる。

W11における政府補助の影響

中国が推し進めている買い替え補助政策は消費刺激およびそれを生産する企業の稼働率向上を企図したものであると言える。今年はそれが最大商戦であるダブルイレブンにも適用されたことで、消費の伸びへとつながったようである。

TOPKLOUTのダブルイレブンに関するアンケート調査においても、8割以上が「政府の補助政策を認知している」と回答。さらにそのうち9割近い層が「その内容に関して理解している、深く理解している」と回答している。

さらにはその満足度に関してもユーザーの「予想以上」との回答が62.4%、「非常に満足している」との回答も20%に上っており、こうした政府からの補助政策が消費行動に大きな影響を与えたことをうかがい知ることができる。

中国政府は同施策の拡大を続けており、現在は外資系ブランドもその対象となっている。工業生産の回復がやや遅れている中、この消費刺激によって経済の活性化を狙っていく模様だ。

出所:『2024年双十一购物节消费洞察报告』(TOPKLOUT.COM)

歴史上「最長」のダブルイレブン

中国では10月14日から本格的に「ダブルイレブン」シーズンへと突入した。従来よりも10日近く前倒しでの開催となっている。

背景にあるのは少しでも期間を延ばし、より多くの消費を喚起、売り上げを確保していきたいという狙いがあると思われる(特に販売単価が下がる分、期間を多くとり多く売りたい)。

また以前の様な数学を思わせる割引ではなく、比較的分かりやすい値引き、補填などが打ち出されており、売り上げを伸ばそうという意図が見える。

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

全体のGMV状況

ダブルイレブンのGMVだが、2022年以降、各プラットホーム共に発表を控えているため、民間データ分析企業の「星図数据」がほぼ唯一の情報源となっている。

そのデータによれば、2024年ダブルイレブンにおける前プラットホームの合計GMVは1兆4418億元で、昨年のダブルイレブンの26.6%増という値を示している。

しかし同データも赤字で明記しているように、2024年は開催が10日早まり、合計日数も29日間と長期に及んだため単純比較ができない。そのため少々強引ではあるが、GMVを期間日数で割った日単価を算出した。

それを見ると1日500億元にみたず、前年よりだいぶ落ち込んでいることがわかり、やはり消費者の「財布のひもが固い状況」であったのではないかと思われる。

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

スキンケア市場の状況

スキンケア売上動向

同じく星図数据のスキンケアの総額を見てみる。

全プラットホームの合計GMVとしては715億元と昨年の582億元を上回る金額になっている。しかし、総GMVと同様に日単価を計算してみると、明らかな減少が見られている。

複数のブランドの販売サイトをチェックしたが昨年同様に多くのGWPが付き、非常にお得な商戦になっているが、それでも「不要な物は買わない」、「買いこまない」という意識が大きかったのではなかろうかと思われる。

またブランドに関しては、次項で天猫の状況を示したが、やはりPROYAが好調を堅持しており、欧米系を押さえて首位を獲得している。

おそらくは効果やコストパフォーマンスの面からも国産で信頼できるブランドに手が伸びたのではと考えられる。

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

スキンケアブランドの戦況

天猫におけるスキンケアの状況を把握する。今回は長期戦であり、タイミングごとに戦況が異なった。その点に関しては業界メディアである「青眼」がまとめているため、それを参考にする。

これを見るとやはりPROYAが前線にわたって1位を獲得しており、完勝に近い。

しかしそれとWINONA以外はほぼ、欧米系が独占する形となっている。「可復美」もスタートの段階では上位に上がったが、最終的にはトップ10代に終わっている。

急成長を見せたブランドとしては「La Mer」、「Helena Rubinstein」で、従来の期間中である10月20日以降に大きく伸ばしている様子が見て取れる。

日系ブランドでは「ブランド資生堂」および「CPB」が検討を見せている。トップ10外ではあるが、特にCPBはベースメイク人気からスキンケアへの訴求(アンチエイジング訴求)が功を奏したと言えるだろう。

また昨年は処理水問題で2023年のダブルイレブンを落とした格好になった「SK-Ⅱ」は新商品のPRなどの効果もあってか、トップ10に返り咲きを果たしている。

出所:青眼https://mp.weixin.qq.com/s/wMODwfY-l4Dntz0Oo4SgrA

天猫における主なスキンケアブランドの販売状況

2024年のダブルイレブンにおいても、多くのブランドが「お得感」の醸成をECプラットホーム上で行なっていた。下記は各ブランドの天猫旗艦店の状況である。

PROYA、そして可復美などのローカルブランドでのGWPの大盤振る舞いを行っている様子が見て取れる。欧米ブランドは若干少な目ではあるが、価格面で非常に抑えめの価格での販売を行っていると思われる。

出所:株式会社NOVARCAにてW11期間中の各店舗の状況を記録し作成

増えるライブコマース比率

2024年のダブルイレブンで注目されたのがライブコマースの動静である。星図数据ではそのGMV合計を3325億元と類推。とっぷは抖音、続いて快手、そして淘宝直播と続いている。

GMV実数においても昨年比54.6%増と大きな伸びを見せているライブコマース。各種ECプラットホームそれぞれのGMVと比率をまとめてみると、よりその伸びが顕著になっている。

2022年当時は全体の15%余りだったライブコマースのGMVは、2023年を経て、2024年には全体の1/4近くまで成長していることがわかる。

今後も、こうしたライブコマースが中国EC市場の主流となっていくことが予想される。

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

抖音におけるダブルイレブンスキンケアの状況

ライブコマースにおけるトッププラットホームとなっているのがショート動画アプリ「抖音」である。

同プラットホームでは2024年に入り「韓束(KANS)」が長くトップを続けてきたが、ダブルイレブンシーズンに入り「PROYA」がトップを再奪取し、2023年に続いて連続の首位となった。

それ以外は「韓束」、「可復美」などの中国国産ブランドや天猫では見られなくなった「后/Whoo」などが上位に。変わって欧米ブランドの「Estee Lauder」は順位を下げている。

読みが難しいところだが、ローカル系などが抖音活用に力を注いでいるという点は事実として存在しているだろう。

出所:聚美丽https://mp.weixin.qq.com/s/-bif9uRw-rsIp5-uc0fV0g

変わるライブコマースの模様~IP化できるライバーが生き残る

ECの主力として成長を続けているライブコマースだが、だいぶ状況が変わり始めている。特に2024年に入り「全網最低価」とのワードから決別を宣言したことから、単純に価格勝負の市場ではなくなっている。

その好例として挙げられるのが小紅書ライブにおける「章小蕙」である。彼女が紹介している商品はほぼラグジュアリーレベルの商品であり、フェイスクリームでも1万元を超えるものがある。それでも販売実績は上がっており、業界も注目している存在である。

この現象には消費者心理を読んでいくといくつかのポイントがある。1つは彼女自身が高価格商材を気軽に買える本物のセレブであるため、「彼女が紹介するものは彼女が買ってよかったと感じるもの」という安心感を与えていること。つまり彼女自身が「セレブ」というIPを有している点にある。

同時に中国式コスパ概念、すなわち「価格が高いのは高い効果をもたらす」という意思にもつながり、購入への心理的ハードルは下がったのではないか。

消費層は不景気とはいえ、高所得者層も困窮する状況ではないため購買力は有している。しかし、「無駄に使いたくない」という意識を持っているため、彼女の様な「高級で確かなもの」を紹介する点が刺さりやすいのではと思われる。

出所:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1815112974087500299&wfr=spider&for=pc

2024年に化粧品業界で見られたW11プロモーション

2024年のダブルイレブンはスキンケアブランドも多種多様な施策をもって販売促進を行ている様子が見られた。

ローカルブランドで広く行われたのはゲームや二次元作品などとのコラボレーション。いわゆる「限定商品」の展開。主には比較的若い層をターゲットとしている商品が多く、話題が作りやすいことが要因として上げられ、少しでも売り上げを伸ばしたいとの思惑が見える。

同時に国産、欧米系問わず増えているのが「効果効能」のアピール。特にメイクアップにおいてはベースメイクの人気が高まっている中で、そのベースメイク商品のもたらす「効果」、皮膚に与えるメリットなどを強調する動きが強く出ている。

これまでのダブルイレブンのように「有名ブランドが安い」から購入するという時代ではなくなり、一大セールであっても「なぜ買うのか」、「悩みに沿う」か「コレクション欲を刺激するか」といった視点が必要となる。

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

 

出所:『2024年双十一全网销售数据解读报告』(星図数据)

参考】PROYAHRのクチコミ状況

PROYAのSNSにおけるクチコミ状況

PROYAの各プラットホームのSNS発信状況を見た。期間は9月1日~11月15日までとした。

全体を見ると小紅書の投稿に関しては昨年並みと据え置きつつ、微博での発信、そして何よりも抖音での発信を強化している姿が見えてくる。

両プラットホームは拡散性、話題性創出を作り出す意味では有効なSNSであるため、商戦期には盛り上げ役として必要だろう。

同時に小紅書にも一定のクチコミが蓄積されているため、商品の信用性、理解度を担保することができていると考えられる。

PROYA各プラットホームのクチコミ状況

PROYASNS各プラットホームのクチコミワードを見た。期間は9月1日~11月15日までとした。

微博に関しては芸能人、芸能人・代言人などを用いての話題拡散、また一般ユーザーの商品比較などが多く見られる。それに対して小紅書では商品の機能特性を丁寧に伝える投稿が多く、商品理解促進を図る傾向が強い。

また抖音では「国産ブランド」という点と、W11の「攻略」など、「サポート」などで商品の興味を引くことを重点に置いている。

HelenaRubinsteinのSNSクチコミ状況

HelenaRubinsteinの各プラットホームのSNS発信状況を見た。期間は9月1日~11月15日までとした。

全体を見ると小紅書の投稿に関しては昨年並みと据え置きつつ、微博での発信、特にスタート期の発信を強化しているように見える。微博での特に発信数は昨年を大きく上回っており、オフィシャルを含めた情報拡散に力を注いでいた。

小紅書ではスタート期にはのクチコミを一時的に増やしながら、抖音への注力を強めている様子が見て取れる。

SNSの特性を生かした布陣が必要ということだろうか。

HelenaRubinstein各プラットホームのクチコミ状況

HelenaRubinsteinのSNS各プラットホームのクチコミワードを見た。期間は9月1日~11月15日までとした。

微博に関してはライブ告知、特に李佳琦によるライブやいわゆる「正規品」に関する情報、また具体商品名よりは大きなアイテムセグメントの訴求を展開。

小紅書、抖音では具体的商品の訴求だが小紅書では効果機能、抖音ではブランドイメージを中心に押し出している印象が見られる。

 

2024年のダブルイレブンは、従来の「単なる値引き商戦」を超え、消費者との新たなコミュニケーションや購買体験を提供するイベントへと進化した。ライブコマースのIP化や消費者心理に寄り添ったアプローチなど、これからのEC市場の未来を予感させる出来事が多数見受けられた。来年はどのような変化が訪れるのか、W11の進化から目が離せない。

 

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今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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