2026年春節、揺れる日中関係の先に見える「訪日旅行」の実像 ―口コミビッグデータとファクトから読む、インバウンド市場の次の一手―

<概略>
・訪日旅行は中国本土の減退は見えるものの個人旅行によって底堅い訪日実績
・報道とは裏腹に訪日中国人からの日本旅行評価は高い実績推移
・米国・台湾・マレーシア・シンガポールなど世界の華僑・華人やASEANからの訪日は活性化
・訪日エリアのポートフォリオ拡張(依存度解消)が進んでおり、戦略のアップデート期
・インバウンド需要はブランド企業にとってグローバル市場への滑走路
・好きで日本に来てくれる訪日消費者へ認知し、ファンになってもらう戦略・施策が重要

日中関係で揺れる訪日旅行(インバウンド)市場

2025年11月の高市発言を発端とした一連の外交的緊張は、中国から日本への渡航動向にも確実に影響を与えた。中国側メディアやSNS上では、日本渡航に対する慎重論や自粛ムードが一時的に拡散し、実際に一部旅行会社では団体旅行の減少や催行中止が相次いだ。事実、JNTOが発表した2025年11月の中国本土からの訪日客数は33万400人であり、コロナ前の2019年同月比で46%あまりまで落ち込んだ※

出典: JNTOによる速報値(2025年12月17日発表)をもとに株式会社NOVARCAにて作成

こうした動きだけを見ると、「中国の訪日インバウンドは再び失速するのではないか」という悲観論が先行しがちだ。しかし、中国消費者の実際の“声”と行動データを冷静に分析すると、状況はより立体的である。

中国の口コミビッグデータから見る「訪日旅行」の現在地

NOVARCAでは、中国主要SNSであるRED(小紅書)およびWeibo上の口コミビッグデータを常時分析している。
2025年11月以降、「訪日旅行」を含む投稿数は減速を見せたものの、週次ベースでは急激な落ち込みはなく、ポジティブ投稿比率は底堅く推移している。

【グラフ】小紅書「訪日観光」関連投稿のポジネガ分析

特に注目すべきは、11〜12月にかけてのワードランキングだ。
前年同時期と比較すると、「円安」「個人旅行」「地方都市」「温泉」「日本の生活感」といった“観光地消費”から“生活体験消費”への関心シフトがより明確になっている。一方で、「政治」「安全」「情勢不安」といったネガティブワードも一定数存在するが、全体に占める比率は限定的だ。

また、目的地選びにおいても変化が見られる。まだ混雑が少なく、風水的に縁起が良いとされる「滝(那智の滝、白須の滝など)」が、新たなニッチスポットとして注目され始めている。

小紅書「訪日観光×目的地」キーワード数ランキング


新規訪日客が抑制されている一方で、日本を熟知した「訪日ファン」によるリピート旅行への転換期となっており、2025年第4四半期には、訪日回数「3回以上」のリピーター比率が増加傾向にある。


出典:JNTO『インバウンド消費動向調査』の結果の公表をもとに株式会社NOVARCAにて作成

象徴的なのは、

「今だからこそ混雑を避けて日本をじっくり見たい」
「政治と旅行は切り離して考えたい」

といった投稿に代表される“冷静で成熟した旅行者像”の存在である。

また、プラットフォームごとに温度差がある点には注意が必要だ。REDでは依然として前向きな旅行計画が中心だが、Weiboでは政治的な文脈からネガティブな反応が根強く、12月のネガティブ比率は約22.5%に達している。情報の出所による「二極化」を前提とした、精度の高い情報発信が求められる。

ファクトデータが示す訪日旅行者の実態

JNTO(日本政府観光局)が公表する11月・12月の国・地域別訪日客数を見ると、中国本土からの回復が一時的に鈍化する一方で、台湾、香港、シンガポールなどが前年比で大きく伸長※している。

※出典:JNTO『インバウンド消費動向調査』の結果の公表より

消費金額ベースでも同様の傾向が見られ、中国一本足ではなく、華人・華僑圏全体での訪日需要はむしろ厚みを増していることが分かる。小売現場では「中国本土客は20〜50%減少したが、台湾や東南アジア客がそれ以上に押し上げている」という声も多い。

2025年後半の消費動向調査からは、旅行スタイルの構造的な変化が読み取れる。リピーターの増加に伴い、団体旅行よりも自由度の高い「1人旅」や「夫婦・パートナー」での旅行比率が高まっており、よりパーソナルで質の高い体験を重視する傾向が強まっている。

※出典:JNTO『インバウンド消費動向調査』の結果の公表より

消費規模については、通年では中国本土が高いシェアを維持しているものの、2025年第4四半期単体で見ると米国との差が僅差まで拮抗している。これは、インバウンド市場において特定エリアに依存しないグローバルなポートフォリオ戦略を構築することの重要性を裏付けるファクトと言える。

2026年春節、訪日旅行はどうなるのか

RED・Weibo上での「春節×日本旅行」に関する投稿を12月1日〜1月15日で見ると、前年対比で投稿数自体は微減傾向にあるものの、ポジティブ比率は前年並み、もしくは上昇傾向にある。

報道面では、日本側では「中国客減少」が強調され、中国側では「個人旅行の自由度」が語られるなど、トーンの違いも見られる。しかし実態としては、

• 中国本土からの団体旅行は抑制
• 個人旅行(FIT)は底堅く増加
• 台湾・ASEAN・世界の華僑層が訪日を牽引

という構造変化が起きている。

このタイミングで来日する中国人旅行者は、いわば「真の日本好き」だ。過去の尖閣諸島問題、コロナ禍、処理水問題の際にも、逆張りで中国市場のマインドシェアを高めたブランドは少なくない。UNIQLO、MUJI、Kao、KANEBOなどは、その代表例だ。

春節での絶対数は減少傾向にあるが、それでも30〜50万人が訪日する可能性が高く、この時期に来る中国本土からの訪日中国人をしっかりグリップすることは意識が必要である。

「オールバウンド戦略」という次の視点

主にブランド企業にとって重要なのは、インバウンド需要だけに依存しないことだ。実際、越境ECにおける化粧品・医薬品カテゴリーでは、11月以降も前年比で大きな減退は見られていない。

在日のKOS(Key Opnion Seller)を通じたソーシャルコマースでの購入も活性化している。

訪日を起点に認知・好意を獲得し、帰国後は越境ECや現地で継続購入する──この循環を前提とした「オールバウンド戦略」が、今後ますます重要になる。

※オールバウンド戦略とは、NOVARCAが提唱する訪日ツーリストを起点としたグローバル顧客の獲得戦略

日本の人口縮小が確実視される中、インバウンドは単なる短期売上を獲得する市場ではなく、グローバル市場への滑走路としての“必須戦略”だ。

おわりに

政治リスクが高まる局面こそ、消費者の“本音”と“行動”を見極める必要がある。
好きで日本に来てくれる訪日消費者にどう出会い、どうファンになってもらうか。2026年春節は、その戦略力が問われる重要な分岐点となるだろう。

    株式会社NOVARCAは、訪日消費者を起点としたグローバル展開「オールバウンド戦略」の推進を行っており、中国を含むアジア・世界各地域に向けたソーシャルコマースのエコシステムを構築し、日本を代表するブランド各社様へ提供しています。

    <データソース>
    ・中国の口コミビッグデータから見る中国の訪日渡航自粛からの「訪日旅行」
    RED・Weiboそれぞれでの「訪日旅行」の口コミ数とポジネガ比率の週次・月次データの推移+前年比較
    RED・Weiboそれぞれでの「訪日旅行」の11月〜12月のワードランキング+前年比較
    TOP5に該当する主なポジ・ネガ投稿の原文
    訪日旅行に関する消費者のインサイト考察

    ・ファクトデータから見る訪日旅行者推移
    JNTO等から出る11月・12月の国・エリア別訪日旅行者数推移
    JNTO等から出る11月・12月の国・エリア別訪日旅行消費金額

    ・春節の訪日旅行動向
    RED・Weibでの「春節×日本旅行」の口コミ数とポジネガ比率+前年比較(12月1日〜1月15日)
    RED・Weiboでの「春節×日本旅行」のワードランキング+前年比較(12月1日〜1月15日)

今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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