ソーシャルコマースとは?TikTok Shopが変える日本市場の未来と、ブランドが今すぐ動くべき理由

ソーシャルコマースという言葉を耳にする機会が増えた。SNSを通じて商品を発見し、そのまま購入する——この購買行動は、いまや世界の消費トレンドの中心に位置している。
しかし、日本においてソーシャルコマースは浸透していない実情だ。
本記事では、ソーシャルコマースの本質を改めて整理した上で、2025年に日本市場で起きた大きな転換点——TikTok Shopの上陸——が持つ意味を深掘りし、ブランド企業が今すぐ動くべき理由を解説する。

ソーシャルコマースとは——「人軸」の購買が、デジタルで拡張された形

ソーシャルコマースとは、一般的にはSNSや口コミを起点として商品が売買されるコマース形態を指す。だが、その本質はもっとシンプルだ。「誰から買うか」が購買の起点になる、人軸の販売モデルである。
実はこの購買行動自体は、オフラインの世界では以前から存在していた。

    – 百貨店の美容部員のカウンセリングを受けて化粧品を買う
    – 行きつけの美容師に勧められてヘアケア商品を買う
    – かかりつけの薬剤師のアドバイスで医薬品を選ぶ

いずれも「信頼できる人の推薦」によって購買が生まれている。ソーシャルコマースとは、このオフラインで当たり前に行われていた「人軸の購買」が、インターネットとSNSの普及によって全世界に拡張されたものだと理解するのが正しい。

ソーシャルコマースの世界市場規模

ソーシャルコマースの市場規模は急速に拡大している。Straits Researchの調査によれば、世界のソーシャルコマース市場は2024年時点で約1兆2,600億米ドル規模と推計され、2033年には約14兆9,000億米ドルに達する見込みだ。年平均成長率は31.6%と、通常のEコマースを大きく上回るペースで成長している。
この成長の震源地は、紛れもなく中国だ。中国のソーシャルコマースの売上規模は米国市場の約10倍にあたる3,500億米ドル超(2021年時点)に達しており、ライブコマースや「ソーシャルセラー」と呼ばれるSNS上の販売者が一般的な購買チャネルとして定着している。
続いて東南アジア各国、そして欧米・南米へと波及してきたが、日本におけるソーシャルコマースの浸透度は、先進国の中でもまだ低い水準にある。

なぜ日本ではソーシャルコマースが広がらなかったのか

その理由の一つとして、日本のオフライン小売の充実度と利便性が挙げられる。
日本のドラッグストア、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、GMSの地域浸透率と密集率は世界的に見てもきわめて高い。経済産業省の調査によれば、2023年の日本のBtoC-ECのEC化率は9.38%。中国のEC化率が約30%を超えているのと比較すると、日本の消費者は「わざわざオンラインで買う」という行動に移行しきっていないことがわかる。
つまり、日常の買い物における利便性がオフラインで充足されているために、ECの普及自体がゆるやかであり、その先にあるソーシャルコマースの定着はさらに遅れてきたのだ。
ところが、2025年、日本においてもソーシャルコマースの普及に大きなきっかけを与えるイベントが起きた。

ソーシャルコマースの成長を裏付けた「TikTok Shop」——ライブコマースではなく、AIコマースの到来

ソーシャルコマースの世界的普及と、TikTok Shopの拡大には明確な相関関係がある。
TikTok Shopは2021年に中国やインドネシアとイギリスでサービスを開始し、その後アジア・欧州・米州へと急速に展開してきた。東南アジアにおけるTikTok ShopのGMV(流通取引総額)は、2022年の44億米ドルから2023年には163億米ドルへと急拡大。2024年にはグローバルで332億米ドル(うち米国が約90億米ドル)に達し、2025年上期だけで262億米ドルを記録している。
つまり、TikTok Shopが参入した市場では、ソーシャルコマースの定着が加速するというパターンが繰り返されているのだ。

TikTok Shopの本質は「ライブコマース」ではない

ここで重要なのは、TikTok Shopの本質を正しく理解することだ。
TikTok Shopは、よく「ライブコマースプラットフォーム」だと思われがちだが、それは表層的な理解にすぎない。TikTokを運営するByteDanceは、世界有数のAIカンパニーである。TikTokの根幹にあるのは、ユーザーの興味関心や購買志向をAIで解析し、個々のユーザーに最適化されたコンテンツを配信する「レコメンデーションエンジン」だ。
したがって、問いの立て方を変える必要がある。

「ライブコマースは日本で流行するか?」ではなく、「AIコマースは日本で普及するか?」——これが正しい問いだ。

TikTokのAIによる最適化されたコンテンツ配信は、すでに日本で4,200万人の月間アクティブユーザーを獲得するに至っている(2025年11月、TikTokとTikTok Liteの合計、重複除く)。日本の約3人に1人がTikTokを使っている計算だ。
このユーザー基盤の上に乗るECプラットフォームとして、TikTok Shopは2025年6月30日に日本市場でサービスを開始した。

日本市場でのTikTok Shopの現在地——「まだ初期」だからこそチャンスがある

2025年6月30日に日本でローンチされたTikTok Shopは、急速にその存在感を高めている。
TikTokShopの専用ツールを使った調査によれば、ローンチからわずか3カ月で流通額は約30億円に到達。月間GMVの推移を見ると、7月の約4億円から、12月には約60.2億円へと急成長を遂げている。ローンチ後1年(2025年7月〜2026年6月)の累計市場規模は約500億円と予測されている。
参画企業も拡大しており、日清食品、I-ne、ヤーマン、ユニリーバ・ジャパン、ラコステジャパン、WEGOなど大手を含む企業が続々とTikTok Shopに出店している。
一方で、日経クロストレンドの報道では、初期段階で期待ほどの成果を上げられていない企業があることも指摘されている。

海外市場から読む「キャズム超え」のパターン

しかし、ここで注目すべきは海外市場の先行事例だ。
中国や東南アジアの各国でも、TikTok Shopの初期段階では「安いものしか売れない」「売っているものが怪しい」「いかがわしさが拭えない」という声が多かった。しかし、その後に起きたのは、大手ブランドやラグジュアリーブランドの参入だった。
信頼性の高いブランドが参入することでプラットフォーム全体の信頼度が向上し、それがさらに多くのユーザーとソーシャルセラーを呼び込む正のループが生まれた。結果として、TikTok Shopは複数の国でEC市場の第2位・第3位につける規模にまで成長している。
日本は現在、まさにこのフェーズの入口にいる。 TikTok Shopの購買ユーザーはまだ限定的だが、4,200万人のTikTokユーザーが本格的にショッピング機能を利用し始めるタイミングで、市場は一気にキャズムを超える可能性が高い。

今後の予測——ソーシャルコマース時代の到来と、ブランドが取るべきアクション

TikTok Shopは1兆円規模の流通チャネルになりうる

TikTok Shop日本市場が、中長期的に1兆円規模以上の流通チャネルに成長する可能性は十分にある。
根拠は明確だ。TikTokの日本MAUは4,200万人。EC化率の上昇トレンド、動画コマースへの消費者の慣れ、AIレコメンデーションの精度向上が複合的に作用すれば、現在のEC市場(BtoC物販系で約14兆円規模)の中で無視できないシェアを獲得する蓋然性は高い。
そうなれば、TikTok Shopはブランド企業にとって、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングに匹敵する「主要ECチャネル」として、流通戦略上欠かせない存在になる。

TikTok Shopの先にある本質的な変化

しかし、真に重要なのはTikTok Shopという一つのプラットフォームの話にとどまらない。
TikTok Shopの普及は、ソーシャルコマースという購買パラダイム自体の定着を意味する。つまり、ライブコマースやインフルエンサー販売を通じて「人から買う」という購買行動——人軸購入——が、日本の消費者にとって当たり前の選択肢になるということだ。
この変化はTikTokプラットフォームに限定されない。LINE、Instagram、YouTube、その他の新興プラットフォームにおいても、ソーシャルコマース機能を活用して販売する事業者は急拡大するだろう。
実際に、PwCのレポートでは世界のソーシャルコマース売上が2022年の約9,924億米ドルから2026年には2兆9,000億米ドルへの成長を予測している。アクセンチュアの調査でも同様にポジティブな見通しが示されており、この潮流はもはや不可逆だ。

海外展開への布石としてのソーシャルコマース

さらに見逃せないのは、ソーシャルコマースが海外展開の武器になるという点だ。
日本国内でソーシャルコマースのノウハウ——コンテンツ制作、KOL/KOC連携、ライブコマース運営——を蓄積した企業は、そのノウハウをそのまま海外市場に横展開できる。TikTok Shopは15カ国以上で稼働しており、国内で確立した勝ちパターンを東南アジアや欧米市場に適用することが可能だ。
当社(NOVARCA)の支援企業においても、ソーシャルコマースを軸に海外展開を進めるブランドは増えている。その理由は、時代の潮流であると同時に、広がりを見せると収益性が高いからだ。
自社EC店舗は構築・運用コストが高く、集客にも広告費がかかる。一方、ソーシャルコマースでは、インフルエンサーやソーシャルセラーが自らの影響力とエンゲージメントの高いフォロワー基盤を活用して販売活動を行う。つまり、マーケティング機能の相当部分を販売パートナーが担うモデルであり、ブランド側の投資効率が高くなるケースが多い。現在、日本のTikTokShopも自社店舗モデルなので、やや先行投資が必要であるが、ライブコマーサーなどのクリエイターエコノミーが広がり、ソーシャルコマースが普及すれば、収益性が高いチャネルに昇華される。

「KOS(Key Opinion Seller)」という新しい存在

ソーシャルコマース時代において、ブランドの成長を左右する重要な存在がいる。それがKOS(Key Opinion Seller)だ。
KOLやKOCとは異なり、KOSは単に影響力を持つだけでなく、実際に販売成果を生み出す販売力を持ったインフルエンサーである。フォロワー数ではなく「売れる力」が指標となる点で、従来のインフルエンサーマーケティングとは一線を画す。
TikTok Shopのアフィリエイト機能は、まさにこのKOSを活用するための仕組みだ。ブランドは成果報酬型でKOSと連携し、数百人規模のクリエイターが同時に動画やライブで商品を紹介することで、爆発的な売上を生み出すことができる。

まとめ——ソーシャルコマースは「いつか」ではなく「今」

ソーシャルコマースは、もはや中国や東南アジアだけの話ではない。
2025年のTikTok Shop日本上陸を契機に、日本市場でもソーシャルコマースの時代は確実に始まっている。ローンチからわずか半年で月間GMVが60億円を超える勢いは、この変化の不可逆性を物語っている。
どの国でも同じだったが、黎明期の怪しさや如何わしさ、市場にフィットするまでのPOC期間を経て、確実に成長するチャネルだと確信している。
ブランド企業にとって重要なのは、ソーシャルコマースにいかに早く参入し、そのノウハウを蓄積できるかだ。 これは単なる新しい販売チャネルの話ではない。今後のブランドの流通戦略、いや成長戦略そのものを左右する判断になると言っても過言ではない。
いち早く準備を始めることを推奨したい。

<この記事のポイント>

  • ソーシャルコマースの本質は「人軸の購買」のデジタル拡張
  • TikTok Shop = ライブコマースではなく「AIコマース」として理解すべき
  • 日本のTikTok Shopは月間GMV約60億円に急成長(2025年12月時点)
  • 海外の先行事例では、大手ブランド参入後にキャズムを超えている
  • ソーシャルコマースのノウハウは海外展開にも直結する
  • KOS(Key Opinion Seller)の活用がブランド成長の鍵
  • 今回Global Compassでは、中国消費者に関する最新動向をレポートにまとめました。

    変わり続ける中国のマーケティング環境のなかで、日本企業が確たる足場を築き上げるためには、その状況を正しく把握し、より確かな施策を展開していくことが肝要となります。

    ぜひ当レポートを今後の施策策定のための材料としてお役立てください。

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