中国の美顔器市場の揺れが止まらない。
2020年、中国の美顔器市場は大きく成長している。その背景には中国消費者の美意識向上と、新型コロナウイルスによる外出規制があった。
つまりより美しくありたいという思いは強いものの、外出規制によってSPAも開いていない状態。であればECで美顔器を購入して、自宅でフェイスケアをというわけである。
しかし、その美顔器業界の拡大はその中の課題をより明確にした。
今回は中国の報道から、現在の中国美顔器市場を見ていこう。
目次
メディアの独自調査が海外製美顔器を名指し批判
2月下旬、中国のメディア『南方都市報』およびそのグループメディアがある独自レポートを報道した。
それは「市場に流通している美顔器の安全性検査結果」という内容のもので、いわゆる人気ブランドの美顔器を同社の拠点がおかれている広東省の安全検査機関に持ち込み、そこでの検査結果を公表したものである。
そこで名指しで指摘されたのがイスラエルのブランドであるTriPollar。
同製品は電気を利用して過熱、リフトアップ効果をもたらすものであるとなっているが、「使用時の温度が非常に高くなり、使い方によっては火傷をする危険性」が指摘されたのである。
それによってWeibo上には「人気美顔器に火傷の可能性(网红美容仪致烫伤)」という話題ページまで登場。2月26日時点で1.3億人が閲覧しているページとなっている。
この報道、中国の美意識高め消費者からすると「またか!」という思いが強い。
というのも名指しで安全性が指摘されたTriPollarは2020年末に、その安全基準について疑問が呈されていたからである。
しかも、同商品はカリスマKOL・李佳琦がライブコマースで大きく紹介しており、その効能などを大きくアピールしたばかりであった。
12月に指摘されたのは2020年のダブルイレブンで李佳琦が紹介した「stop eye」と「stop vx」。1時間のライブで1億元の売上を達成している。
しかしその後、一部の使用者から使用時の違和感に対するクレームが寄せられ、その安全性に対しての疑問の声が上がった。
天猫はこうした声に対して「同商品はアメリカのFDA認証を取得しており、安全性には問題がない」との回答。また中国国内の代理店も「FDA認証」を受けている旨の声明を発表、安全性を強調していたのだが、一部(おもに国内同業者)から「アメリカのFDAというのは食品、薬品に対して審査をすることはあっても“ライセンス”ではないのでは?(“FDA認証”という言葉がおかしい」という指摘が上がってしまったのだ。
ブランド側は「確かに同商品はFDA管轄の第3種医療機器ではないが、そこで検査を受けることはできる」と主張するも、さらにそれに対し「FDAは一般的に(美顔器などの)第2種医療機器には認証は出さない。そもそも中国で売るのにFDAを取得する必要なんてないじゃないか」という指摘や、「アメリカFDAリストを見るとTriPollar 社のシリーズ商品stop uは登録されていたがstop eyeとstop vxの記録がない」といった指摘もなされ、一時的にブランド側と周囲との水かけ合戦が始まってしまった。
それからまださほど時間がたっていない同ブランドに対して、再度の、さらに今回は正規のメディアからの指摘で、中国美顔器市場全体に緊張感が走っている。
基準のない業界 中国美顔器市場の抱える課題とは
中国美顔器市場が揺れる大きな原因となっているのは、「美顔器専門の業界基準がない」という点である。
下のグラフは中国のシンクタンクが2019年に整理した中国美顔器市場の市場規模予測である。
【グラフ】中国美顔器市場の市場規模推移(単位:億元)
出所:「我国美容仪市场增长潜力巨大 2019年市场规模约65亿元」( 前瞻産業研究院)
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/200311-3ae3162d.html
これを見ると市場は2019年には65億元。それはさらに拡大していると予想されている。
しかし、拡大はしていても実際に肌に当て、その変化をもたらすという特殊な商品である美顔に特化した基準がなく、生活家電などの基準が適用されているという。
更にどのレベルをもって効果があるとみなすかもまちまちで、トラブルが起こりやすい環境にあるのである。
中国のデータでは、国内に2万4000件以上のメーカーがあるとされているが、その商品の優劣を定義する基準も不明瞭なままなのである。
こうした状況で大きくなるのはブランドごとの品質差異だけでなく、模倣品や劣悪商品を生み出すことにもつながっている。
2016年、2017年ごろから深刻化している様子が、百度のニュース検索にも見えるが、深圳の工場で生産した日本ブランドのニセモノを日本に出荷、ソーシャルバイヤーを騙して買わせるという手法の話も流れている。
また2019年には人気商品「FOREO LUNA mini 」のニセモノ工場の摘発も報道された。
同工場ではFOREOブランドの製品を大量に生産していたが、1個当たりのコストは8元程度と、非常に乱雑な材料を使い、本物と同じ価格で売りさばいていた。
【グラフ】中国美顔器メーカーの企業数推移
出所:「我国美容仪市场增长潜力巨大 2019年市场规模约65亿元」( 前瞻産業研究院)
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/200311-3ae3162d.html
美顔器の製造企業として登録されてはいても、作っているのは劣悪商品やコピー商品だったりするのである。
すでにこの状況を憂慮した中国の行政と日本ブランドを含んだ企業グループが、中国における美顔器業界基準策定に向けて動き出している。
それは2021年には登場する予定といわれており、2021年が中国美容器市場の転換期となると思われる。